震災対策を考える(2)

震災対策を考える2

(コラム「震災を考える」より抜粋)

前頁では、東日本大震災の被災から、“わずか3週間”で事業復旧を果たした 日進工具・仙台工場の足跡を紹介しました。震災以降、ことさら「BCP(事業継続計画)」が 取り沙汰されるようになりましたが、単なるマニュアル策定だけでは「いざ」という時に 何の役にも立ちません。本社と被災現場が密接に連携し、従業員の身の安全を確保しながら 一刻も早い復旧を目指す─そんな仕組みづくりが必要です

そこで、日進工具・仙台工場の被災/復旧経験を活かして、 震災時の現場での考え方と指示や用意しておいたほうが良いもの、防災設備など、 具体的に工場で求められる「地震対策」を紹介します。


震災時の現場での考え方と指示

まず、被災時の現場における考え方と指示には、以下の10点が挙げられます。

  • 1. 従業員の安否確認
  • 2. 必要な物資の確認
  • 3. 自宅、家族の安否確認
  • 4. 焦らず、着実に作業する
  • 5. 復旧作業より、安全第一を基本とする
  • 6. 従業員の心配事を聞く(会社や家庭のことなど)
  • 7. 従業員の前では、元気良く!できるだけ皆に声をかける!
  • 8. 大きな問題でなければ、担当者に任せるか即決する
  • 9. 刻々情報が変わるので、しっかりと情報収集をする
  • 10. 電気復旧時の漏電に注意

上記のうち、1.5.7.8.の4項目は、工場復旧作業の際に特に注意すべき指針となります。 復旧を急ぐあまりに、従業員の身の安全をないがしろにしては、元も子もありません。 「安全第一」は、何を差し置いても優先されるべき最重要事項といえます。 逆に、そうすることで従業員は安堵し、結果的に復旧へのモチベーションを高めることにもつながります。


震災時に困った事から考える、用意しておくべきもの

しかし、何事も物資がなければ始まりません。 実際、「2.必要な物資の確認」において、何を用意しておくべきなのか、 「震災時~数日間困ったこと」を踏まえて列挙しました。

  • 1. ライフライン全滅 (1)水 (2)電気 (3)ガス(プロパンガス有利)
  • 2. おむつ、女性用品、食料品の不足
  • 3. 乾電池切れ
  • 4. ガソリン不足
  • 5. 余震による恐怖
  • 6. 電気工事業者、建築業者(内装)の人手不足
  • 7. 防寒対策

上記の7点は、被災現場において特に困った事柄です。 ライフラインが絶たれた場合、トイレの水が流れない、闇夜を照らす明かりがない、 暖房がつかないので防寒できない、余震による恐怖を紛らわす暖がとれない等、 何気ない日常生活の些細なことが気になります。

実際に、被災地支援で運ばれてきて現場が大変喜んだ物資には、 カップめんなどの食料品や水をはじめ、カセットコンロや乾電池、トイレットペーパー、ティシュなど、 ふだんの生活に必要不可欠な(では当たり前な)品目が数多くあります。

これらの被災経験を踏まえて、今後、予防として「用意しておくべきもの」をまとめました。 準備にそれほどハードルの高くない日用品が主なものですので、 地震に限らず災害全般の対策に応用できるものがほとんどです。

支援物資 NCネットワークより物資到着


  • 1.水(飲み水+トイレ用)とポリタンク
  • 2.自家発電(照明等)、懐中電灯、充電器、乾電池
  • 3.プロパンガス
  • 4.カセットコンロ
  • 5.ヤカン、なべ
  • 6.食料品1(そのまま食べられるもの)
  • 7.食料品2(暖かい食べ物)
  • 8.毛布~寝袋(防寒対策)
  • 9.炭やまき
  • 10.長距離を走れる車(軽油)、携行缶
  • 11.従業員の携帯番号、メールアドレス、非常時の連絡先
  • 12.現金(カード類使用できず)
  • 13.仮設トイレ、携帯トイレ
  • 備蓄1
  • 備蓄2


工場設備における、効果的な地震対策とは?

では次に、工場の設備面における必要な対策とはどんなものがあるのでしょうか。 日進工具の仙台工場、および開発センターで行われた対策例を紹介します。

地震対策におけるポイント

地震による機械の横滑りは仕方がないが、機械が床に落ちない工夫を施す
アンカーボルトでの固定は、機械にダメージを与えやすいので避けましょう。

・レベルブロックから機械が離れない工夫を施す
仮にレベルブロックから機械が離れてしまっても、 床に直接落ちない様に木材を使用したスペーサー&クッション木材部品を 追加すると効果的です。その場合、スペーサー&クッション木材部品は、 機械と一緒に動く様に設置しましょう。
また、機械の下に木材を置いておくだけは、逆に危険です! 振動でフリーに動いてしまい、場合によっては機能しないか、 機械を倒してしまうことも予想されます。

日進工具の地震対策と、今後に向けた予防策

日進工具のマニシングセンターでは、機械が横滑りし、 レベルブロックより落下してしまいました。機械とブロックの間に、 高さ調整のための鉄板を入れている場合や、アンカーボルトで固定する方法がありますが、 危険が伴いやすく、機械にダメージを与えやすいデメリットがあります。
そこで対応策として、レベルブロックの外側に機械本体と木材を固定し、 地面から若干の隙間をつくります。

地震対策例1

また高さ調整は、鉄板ではなく、「高さ調整部品を製作」し、 高さ調整部品とレベルブロックは一緒に動くように調整します。

地震対策例2

続いて、日進工具の拠点である宮城県仙台市の工場、 開発センターにおける地震対策を紹介します。 それぞれ「測定器・計測器向け」「キャビネット・ガラス向け」 「測定器・計測器向け」「製品落下防止シート&柵」の方針と、 実施した具体的な対策を示します。

【加工機・重量設備向け】

方針:横滑りの抑制・被害の最小化

  • ・オリジナル自動停止装置(震度5対応)
  • ・レベルブロックからの落下防止
  • ・アンカー固定

レベルブロックのずれを防止するために、レベルブロックと設備を連結し、揺れ検出時に設備を自動停止します。

【キャビネット・ガラス向け】

方針:転倒・破損防止


  • ・専用固定具
  • ・ガラス飛散防止フィルム

【製品落下防止シート&柵】

滑り止めシートと落下防止柵を設置します。

地震対策例3

【測定機・計測器向け】

方針:転倒防止

  • ・ワイヤ固定
  • ・バンド固定

バンドでテーブルに固定し、すべての顕微鏡・投影機に被害がなく、地震対策の効果を発揮しています。

地震対策例4

【機械復旧セット】

  • ・水準器
  • ・油圧ジャッキ
  • ・バール
  • ・仮置き時に使用する木材
  • ・移動ローラー

これらのセットさえあれば、機械の位置修正・レベル出しが自社で可能です。迅速な復旧にお役立てください。

【工場内で実施すべき予防策】

日進工具の震災後の対策を踏まえ、工場内で予防するべき内容を列記します。機材破損の予防はもちろんのこと、規制がかかる状況下でも稼動を落とさないための知恵が盛り込まれています。


  • ・機械設備の落下防止
  • ・測定機器の落下防止
  • ・空調設備系の固定
  • ・棚から製品や備品の落下防止
  • ・ガラスの飛散防止
  • ・自動ドア、シャッターを手動での開閉確認
  • ・ロッカーや書庫類の固定
  • ・電気配線図とブレーカの場所の明確化
  • ・機械設備に関する重要部品の在庫(メンテ用品)
  • ・工具、備品の在庫(特に納期の掛かるもの)

その他

  • ・余震による機械精度(レベル)再調整
  • ・加工環境が変わった事による精度不安定(自動運転)
  • ・従業員のメンタルケア(復興に向け考え方も変化)

まとめ:「備えあれば、憂いなし」─“現場主導”で、迅速な対応を

いかがでしたでしょうか?
非常事態の場合、刻々と変化する状況に対応するために、 現場の状況をできる限り正確に把握し、迅速に対応できるようにしなければなりません。 そのためには、即決で判断できる現場責任者を置いた対策本部の設置が必要となります。 本社に対策本部を設置し、現場からの状況報告を受け、 対応の「決定事項」を現場へ指示していたのでは対策が後手に回ってしまいます。 二次災害を起こさないよう徹底するためにも、できる限り不安を取り除くためにも、 状況のいちばん見える「現場」で対応することがベストです。

仙台工場のある宮城県では過去約10年間で、震度5~6レベルの地震が再三発生しました。 もちろんそのたびに地震対策を行ってきましたが、それでも想定以上の地震で被害が出てしまいました。 仮に地震対策していなければ、もっと被害が拡大したことは想像に難くありません。

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