中小企業のGXは難しい? 町工場が挑む現実的な脱炭素経営とは

気候変動を食い止めるため、日本では産業界全体で脱炭素やGX(グリーントランスフォーメーション)に向けた取り組みが進められています。
一方で、実際の取り組みは大企業が先行しているのが現状です。


国内の雇用の約7割を支える中小企業は、日本全体の温室効果ガス排出量の約1〜3割を占めています。*1
そのため、カーボンニュートラルの実現には、中小企業による脱炭素への取り組みが欠かせません。


しかし、中小企業では大企業のように大規模な設備投資や専門人材の確保が難しく、脱炭素を進めたくても具体的な一歩を踏み出せないケースも少なくありません。


この記事では、中小企業の脱炭素経営を取り巻く現状や政府による支援策、そして実際に脱炭素経営に取り組んでいる企業の事例を紹介します。

なぜ今、企業に脱炭素経営が求められるのか

脱炭素経営とは、気候変動対策の視点を織り込んだ企業経営のことです。


これまで、環境対策は企業の社会的責任(CSR)の一環として位置付けられていましたが、脱炭素経営では、気候変動への対応を企業のリスク低減や成長のチャンスとして捉えます。
そのため、気候変動対策を経営上の重要課題として捉え、企業全体で取り組むことが求められています(図1)。*2

図1: 企業における脱炭素経営とは
出所)環境省「脱炭素経営とは」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/decarbonization.html


ではなぜ、企業に脱炭素経営が求められているのでしょうか。
それは、深刻化する気候変動が、すでに企業活動に大きな影響を及ぼす経営リスクになりつつあるためです。


気候変動は、気温上昇だけでなく、豪雨や大型台風などの自然災害を激甚化させています。
たとえば、2011年には、多くの日本企業がタイで発生した大洪水の被害を受け、工場の浸水やサプライチェーンの寸断による事業への影響が発生しました。
また、2018年には、西日本豪雨などの風水害の影響により、損害保険会社の自然災害に対する保険金支払額が過去最大となりました。


このような気候変動による事業リスクに備えるためにも、企業には脱炭素への積極的な取り組みが求められています。


また、省エネ対策や再生可能エネルギーの導入などによって環境負荷を低減することは、将来的なリスクへの対応だけでなく、安定した事業継続にもつながります。
さらに近年では、脱炭素経営を新たなビジネスチャンスとして捉える動きも広がっています。*3

中小企業を取り巻くGXの現状

GX推進は現状では大企業が中心であり、中小企業は対応の遅れが課題となっています。


フォーバルGDXリサーチ研究所が実施した「2025年度第4回 中小企業経営実態調査」によると、中小企業におけるGXの認知度は3割以下にとどまっており、さらに64.3%の企業がGXに未着手であることがわかりました。
GXに取り組んでいない理由としては、「他に優先すべき課題があり後回しとなっているから」という回答がもっとも多く、「取り組みの必要性を感じていない」「時間的な余裕がないから」といった理由が続きます(図2)。 *4

図2: 中小企業がGXの取り組みを行っていない理由(フォーバル GDXリサーチ研究所調べ)
出所)PR TIMES「〈2025年度第4回 中小企業経営実態調査〉GX認知は3割以下、64.3%が未着手?」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000117855.html



国を挙げてGXを推進しているにもかかわらず、日本企業の企業数の99%以上を占める中小企業では、GXへの着手そのものが課題となっているようです。


一方で、GXや脱炭素の取り組みは、自社だけでなくサプライチェーン全体で取り組む動きが広がっています。
次の図3のように、一つの製品のサプライチェーンには、原材料の調達から輸送、製造、廃棄に至るまで、多くの企業が関わっており、各段階でCO₂排出が発生しています。*3

図3: サプライチェーン全体での脱炭素の取り組み
出所)近畿地方環境事務所地域循環共生圏・脱炭素推進グループ「中小企業における脱炭素経営」p.10
https://www.kansai.meti.go.jp/3-9enetai/energypolicy/details/save_ene/datsutansokeiei.pdf


このような流れのなか、実際に大手企業では、取引先に対して脱炭素への対応を求める動きが広がっています。
たとえば、トヨタ自動車は数百社に及ぶ仕入先に対し、2021年のCO₂排出量について前年比3%削減を要請しました。


また、Appleは、サプライヤーに対して再生可能エネルギー由来の電力の使用を求めており、対応できない場合には取引を終了する可能性も示しています。*3


「2023年版 中小企業白書」によると、取引先から脱炭素への協力要請を受けた企業が増加しており、2020年の7.7%から2022年には15.4%へ倍増しています。
一方で、要請を受けた企業のなかには、技術的・金銭的支援を受けているケースも多く、新たな取引先の開拓や企業価値の向上につながる可能性があります。*5


このように、脱炭素への対応は企業単体の課題ではなく、サプライチェーン全体で取り組むべき重要なテーマとなっています。

中小企業でも始められる脱炭素経営とは

中小企業におけるGX・脱炭素経営の実践ステップ

中小企業がGXに取り組むには、「知る・測る・減らす」という3つのステップで進めることが基本とされています。


まず、GXの潮流や脱炭素化に向けた対策を「知る」ことから始め、自社のエネルギー使用量やCO₂排出量を「測る」、つまり見える化することで現状を把握します。
そして、省エネ対策や設備導入などの取り組みによってCO₂排出量を「減らす」という実際の取り組みへと進みます。(図4)。*5

図4: 中小企業のGX実践ステップ
出所)中小機構「最近よく聞くGXとはどんなものでしょうか。中小企業が取り組める施策と、それに関する支援について教えてください」
https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/sdgsqa/Q1531.html


中小企業のGX推進を支援するため、政府は「中小企業のGX推進に向けた施策パッケージ」として、さまざまな取り組みをおこなっています。
具体的には、中小機構による相談窓口や研修支援、企業向けの省エネ診断、排出削減計画の策定支援、補助金制度などがあります。*1


また、日本商工会議所は、中小企業のCO₂排出量の見える化を支援するため、「CO₂チェックシート」を無料で公開しています。
このチェックシートを活用することで、エネルギーの使用状況を把握でき、無駄を見つけられるだけでなく、LEDなどの省エネ設備を導入した場合におけるコスト削減効果や、CO₂排出削減量をシミュレーションすることも可能です(図5)。*6

図5: CO₂チェックシート画面イメージ
出所)環境省「日商エネルギー・環境ナビ」p.2
https://www.env.go.jp/council/content/i_16/900437328.pdf


政府や各機関による支援制度を活用しながら、省エネやCO₂削減に取り組むことで、中小企業でも自社に合った形でGXを推進することができます。


脱炭素を成長につなげる中小企業の取り組み事例

中小企業のなかには、GXや脱炭素経営を積極的に推進し、事業の成長や価値向上につなげている企業もあります。


ばねの製造・販売を手がける中里スプリング製作所では、「できるところからやってみる」を社内のスローガンとして掲げ、脱炭素経営に取り組んでいます。


端材を素材として社員が自由な発想でものづくりをおこなう「ばね鋼房」ブランドの展開をはじめ、化石燃料の使用を抑える生産設備の導入、雨水の再利用による資源の有効活用、エネルギー使用量の見える化など、日々の事業活動の中でコストを抑えながら環境負荷を低減する取り組みを進めています(図6)。*7

図6: 雨水タンクによる水の有効活用
出所)東京商工会議所「日本一楽しい町工場は「できることから」を合言葉に脱炭素化社会に貢献するものづくりを実践」
https://www.tokyo-cci.or.jp/carbon_neutral/jirei/nakazato_spring.html


これらの取り組みによって、化石燃料の使用量削減にも成功しており、さらにその成果を社内掲示物として従業員に共有することで、脱炭素への意識向上にもつなげています。


また、業務用食器の製造・販売を手がける株式会社おぎそでは、食器の「リペア事業」に取り組み、脱炭素につながる新たなビジネスモデルを構築しています。


これまで、おぎそでは回収した食器を粉砕し、粘土原料に配合することで再利用していました。
一方で、リペア事業では、回収した食器の傷などを研磨し、新たに絵付けすることで、新品同様の食器へと生まれ変わらせています(図7)。*8

図7: リサイクル食器のリペア事業
出所)環境省「陶磁器業界に生まれた脱炭素型ビジネスモデル(新たなサプライチェーンの構築)」 p.6
https://www.env.go.jp/content/000118213.pdf


原料の使用量や製造工程を削減することで、食器1tあたり約3.3tのCO₂排出削減が見込まれています。*8
この取り組みは、脱炭素化に加えて、資源循環による産地のサプライチェーン維持や、新たな企業価値の創出にもつながる事例です。

おわりに

中小企業における脱炭素経営は、単なるコスト削減や取引先との関係維持にとどまらず、既存事業を見直すことで、新たなビジネス機会の創出につながる可能性もあります。


大手企業とは異なり、多大なコストをかけた取り組みが難しいケースも多いですが、中小企業ならではの柔軟性や現場力を生かし、自社に合った方法で段階的にGXに取り組むことが重要です。


「できることからこつこつ」と、まずは脱炭素に向けた現実的な選択肢を模索することが、GX推進や脱炭素経営への第一歩となるでしょう。



参考文献

*1
出所)経済産業省「中小企業のGX推進に向けて」p.2, p.6
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/SME/pamphlet/gx_gaiyou.pdf

*2
出所)環境省「脱炭素経営とは」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/decarbonization.html

*3
出所)近畿地方環境事務所地域循環共生圏・脱炭素推進グループ「中小企業における脱炭素経営」p.9, p.10
https://www.kansai.meti.go.jp/3-9enetai/energypolicy/details/save_ene/datsutansokeiei.pdf

*4
出所)PR TIMES「〈2025年度第4回 中小企業経営実態調査〉GX認知は3割以下、64.3%が未着手?」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000117855.html

*5
出所)中小機構「最近よく聞くGXとはどんなものでしょうか。中小企業が取り組める施策と、それに関する支援について教えてください」
https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/sdgsqa/Q1531.html

*6
出所)環境省「日商エネルギー・環境ナビ」p.2
https://www.env.go.jp/council/content/i_16/900437328.pdf

*7
出所)東京商工会議所「日本一楽しい町工場は「できることから」を合言葉に脱炭素化社会に貢献するものづくりを実践」
https://www.tokyo-cci.or.jp/carbon_neutral/jirei/nakazato_spring.html

*8
出所)環境省「陶磁器業界に生まれた脱炭素型ビジネスモデル(新たなサプライチェーンの構築)」p.6, p.7
https://www.env.go.jp/content/000118213.pdf

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。