
2026年7月31日 09:00
ナフサ不足はいつまで続く?製造業はいつまで、それだけの影響を受ける?
「ナフサ不足」が製造業に与える影響は? 本当に不足している?
「ナフサ不足」が騒動になりはじめて時間が経ちましたが、大きな原因となっているホルムズ海峡を取り巻く環境は依然として不透明なままです。
日本では政府備蓄の石油の放出に踏み切ったり、ホルムズ海峡を経由しない運搬ルートの開拓にあたったりしていますが、ナフサの入手が困難になっていることで様々な弊害が生まれています。
わたしたちの身近なところで言えばインク不足で菓子のパッケージがモノクロになったり、筆者の知るところでは一部自治体で専用のゴミ袋が買えなくなったり。もちろんプラスチック製品の値上がりにつながったりするなどの影響が出ています。
ナフサはどのような形で製造業に影響するのか、詳しく説明していきます。

「ナフサ」からは多様な中間物質が生まれる
ナフサは原油を精製して得られる石油製品のひとつです。
そしてひとくちに「ナフサ」と言っても、そこから生まれる中間物質は多様です。
ナフサを分子レベルまで分解すると、多くの成分が含まれていることがわかります。

出所:三井化学「素素 プラスチックの原料「ナフサ」とは?用途や製造方法、バイオマスナフサを解説」
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/sustainability/beplayer-replayer/soso/archive/common/2023-0714-01
ナフサは重量ごとに様々な物質に分類され、それぞれの物質は主に以下のように使われます。

出所:中小企業家同友会全国協議会「ナフサの関連製品を見る サプライショックの可能性も」
https://www.doyu.jp/topics/topics-43382
ナフサから生まれる化学物質には多くの使い道があるのです。よって「ナフサ不足」は幅広い石油製品に影響を及ぼしていると言えるでしょう。
上の表を見ると例えば最近、菓子のパッケージがモノクロになったことが大きな話題になりました。これはインクに必要なベンゼンが入手しづらくなったためでしょう。ビニール袋が手に入りにくくなるのはエチレン不足だと考えられます。

ナフサ製品高騰と製造業への影響
そして実際、ナフサの国際価格は驚くほど急騰しています。

出所:農林水産省「食品分野におけるプラスチック容器包装資源循環タスクフォースご説明資料」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/youki/pra-tf/dai7tf/shiryo4.pdf#page=24
そしてついに、中東情勢の影響を受けたプラスチック製品の高騰を最終製品の販売価格に転嫁する動きが広がっています。

各業界の対応
TOPPANホールディングス(HD)は2026年4月下旬から、包装材の値上げを顧客の食品や日用品メーカーに打診します。包装資材の仕入れ値が2~3割増えているためといいます。*1
スナック菓子の場合、販売価格の5〜8%を包装材が占めています。消費財の一歩手前にまで値上げが迫っており、実際、一部商品でカラーインクを廃してモノクロのパッケージで菓子を売り出すメーカーも出ています。
そして日用品ではTOTOがユニットバスを一時受注停止したほか、積水化学工業は住宅用の雨どいやデッキ材を値上げ、日本ペイントHDに至ってはシンナーを75%値上げするという措置に踏み切っています。
その他合成繊維、食品包装材、タイヤなど多くの製品の値上げが始まっています。

製造業にはダブルパンチ
また、ナフサだけでなく石油全体の値上がりは、製造業にとってダブルパンチになる可能性があります。
原料も燃料も...
というのは、原料不足だけでなく、石油そのものの価格高騰は工場で使用する燃料の高騰にもつながるからです。

出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「イラン情勢の緊迫化が日本経済に及ぼす影響」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2026/04/report_260421_01.pdf#page=7
中東情勢が複雑化するにつれて最近の原油価格は爆発的に値上がりしています。特に米国とイスラエルによる対イラン軍事行動の開始以降では、その上げ幅は異様なものと言えます。わたしたちにとっては、ガソリンの暫定税率が廃止されて値下がりしたのは束の間の出来事でした。
原料のみならず工場を動かすための石油そのものが高騰、となれば、さすがに商品価格に転嫁しなければ企業としてやっていけないというのが本音でしょう。

政府の認識と現場との認識にズレ?
しかし、ナフサ不足が本当に起きているのかについては、関係者の間で意見の食い違いがあります。資源エネルギー庁の有識者委員を務める「コネクトエネルギー合同会社」の境野春彦氏が「このままでは6月に詰む」と発言すれば、高市首相は「事実誤認」と反論しました。政府は国内の必要量に「足りている」と反論しているのです。*2
政府としてはホルムズ海峡経由の石油輸送が途絶えても200日程度は凌げる程度、ナフサは既存の在庫に加えて、日本国内での精製や中東以外からの輸入の拡大によって国内消費量の半年以上を確保できるとの見通しを示しています。*3*4
こうした食い違いはどこから来るのでしょう。
石油には、輸入から製造までのサプライチェーンが長いという特徴があります。実際には、
輸入→製油所→元売業者→商社・卸業者→地域販売事業者→需要者
と、たくさんの場所を経由しています。*5
政府や、輸入つまり仕入れを行う化学大手が十分な量を確保・供給していたとしても、サプライチェーンの途中にある企業が、ナフサ不足が続くとの懸念から過剰な発注をすれば、結果として商品化・商品販売の現場でナフサは確かに足りなくなってしまいます。
この連鎖をいかに食い止めるかが現在の課題になっています。

「人工ナフサ」の可能性
一方で、ナフサを人工的に作る試みも始まっています。「リニューアブルナフサ」と呼ばれるものです。*6
住友化学によれば、
・バイオナフサ=植物由来。パーム油、菜種油などの植物性油を原料とする。
・バイオサーキュラーナフサ=代表的な原料は使用済みの食用油。
・サーキュラーナフサ=代表的な原料は工場や家庭から排出される廃プラスチック。
の3種類があります。
コスト削減や廃棄食用油をどうやって回収するか、といった課題は残りますが、実現すればサステナブルな手段になりうることでしょう。
いずれにせよ、日本の場合は石油を中東からの輸入に頼らなければなりません。そして中東は戦争や紛争が絶えない地域であり、日本の産業にとっては大きな地政学リスクといえます。
新たな運搬ルートや輸入元、新素材の利用といったことを現実的に考えていかなければなりません。
*1 日本経済新聞「ナフサ高の影響、身近な商品に プラ3割高騰で食品包装材など値上げ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB099NW0Z00C26A4000000/
*2 東京新聞「ナフサ不足「このままでは6月に詰む」と公言した識者が真意を明かす 政権が反論や対策アピールしても現状は」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/484220
*3 Forbes JAPAN「石油枯渇の危険性が最も高い国々──日本は大規模な戦略備蓄により200日程度しのげる」
https://forbesjapan.com/articles/detail/93990/page2
*4 日本経済新聞「石油の国家備蓄の追加放出検討 経産省、民間分も継続へ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA065OB0W6A400C2000000/
*5 野村総合研究所 &N未来創発ラボ「石油製品の流通の目詰まりはなぜ生じたのか」
https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20260420_2.html
*6 住友化学「サステナブルな未来への一歩|リニューアブルナフサの活用」
https://csp.sumitomo-chem.co.jp/column/renewable-naphtha

清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。
趣味はサックス演奏と野球観戦。
X(旧Twitter):https://x.com/M6Sayaka

