人工衛星の寿命とは? 60年近く前に打ち上げた衛星が伝えるメッセージ

停止したはずの衛星から60年ぶりのメッセージ なぜ?どうやって?

2024年6月、西オーストラリア州で宇宙からの奇妙な電波信号が捉えられました。


地球に近い位置からの非常に強力な信号で、一瞬の間、空にある他のすべてのものよりも輝きを放ったといいます。


研究者らは新しい天体を観測していると考えていましたが、信号を放つ「何か」は、あまりにも意外なもので、研究者の間で議論を呼び起こしました。

「信じられないほど強力な電波」

2024年6月、奇妙な電波信号を捉えたのはオーストラリアの天文学者らです。それは地球に近い位置から発せられた非常に強力な電波信号で、一瞬の間、空にある他のすべてのものよりも強い輝きを放ったといいます。*1

西オーストラリア州カーティン大学電波天文学研究所の准教授、クランシー・ジェームズ氏はこの電波信号について、「信じられないほど強力な電波の爆発だ」と指摘しました。


ジェームズ氏は「マグネター」と呼ばれる現象ではないか、と当初述べていました。
「マグネター」とは、死んだ恒星の残骸で非常に密度が高く、強力な磁場を持つものです。全くもって異常であり、宇宙で何かがブラックホールになる前の最も極端な現象とされています。


しかし、矛盾する点もありました。
というのは、この電波信号の発生源があまりにも地球に近かったからです。
研究の結果、信号は地球から約4,500km離れたところからやってきていることがわかりました。
そして位置から計算して、それが「リレー2号」というNASAの人工衛星が発生源だと突き止めました。

画像 : Wikipedia リレー (人工衛星)より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%AC%E3%83%BC_%28%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F%29

「リレー2号」とは

1964年、NASAからリレー2号、エコー2号、シンコム3号などの人工衛星が打ち上げられました。*2
「リレー2号」はそのうちのひとつで、高さ7,400 kmに打ち上げられた能動型通信衛星です。大西洋や太平洋を越えてテレビ、電話、テレタイプ、ファックス、データ送信の中継を可能にしました。また通信のほかに、太陽電池や半導体部品を放射線からうまく守る方法の試験も行なわれました。


通信技術の試験とヴァン・アレン帯(エネルギーが非常に高い電子が大量に捕捉されるエリア)の放射線マッピング機器の搭載を目的として設計された「リレー1号」の後継にあたる衛星でした。3年以上運用された後、リレー2号は2つのトランスポンダ(地球からの信号を受け取り送り返す機器)の故障により、1967年6月に信号送信を停止しました。それ以来、リレー2号は宇宙空間に消え去ったはずでした。*3

人工衛星の寿命

人工衛星の寿命は、日本の静止気象観測衛星「ひまわり8号・9号」の場合でカメラは少なくとも8年、本体は15年使用できるようになっています。*4
そう考えると、リレー2号が信号送信を1967年に停止してから実に57年の歳月を経て地球に信号を発信したというのは、驚きの出来事です。それも「信じられない強力な電波」です。


ミッションを終えた人工衛星の末路

通常、運用が終了した人工衛星は、パワーが残っているうちに地球から指示を送り、大気圏に突入させて燃え尽きるか、運用中の人工衛星の邪魔にならないように、軌道を移動します。軌道を移動した人工衛星は、しばらく地球の周りを回り、大気や重力の影響を受けてだんだん地球に引き寄せられていくようになっています。*5


よって、リレー2号が当初の打ち上げ到達点である7,400kmから約4,500kmまで高度を下げていたとしても、何ら不思議はありません。


高度によって異なる宇宙滞在時間

そして、地上から高度数百kmほどの低い軌道にある人工衛星は、数年から数十年で大気圏に突入して燃え尽きますが、1000kmを超える高い軌道の人工衛星は100年以上も回り続けます。いわゆる「宇宙ゴミ」「スペースデブリ」として問題になっている存在です。


このように、運用を終えて10年以上が経過し、地上から制御することができないものを「ゾンビ衛星」と呼びますが、オーストラリアで受信されたのは、まさにその「ゾンビ衛星」からの強力なメッセージだったのです。*6

なぜ60年前の衛星から信号が?

「この信号は、私たちの機器が検出する他のすべての電波データよりも約2,000~3,000倍明るく、空の中で最も明るいものだった」と前出のジェームズ氏は語っています。


リレー2号は機能を停止しているはずです。では、この信号は一体何だったのでしょうか。


研究者らの意見は2つです。


ひとつには、衛星の金属表面に蓄積された静電気が突然放出されたことである可能性が高い、ということです。
初期の人工衛星であるため現代の衛星よりも材質が静電気を蓄積しやすい可能性があるとも推測されています。なお、現代の衛星はこの問題を考慮した設計がなされています。


そしてもうひとつは、あまり考えられることではありませんが、大きさが1ミリ以下の微小隕石の衝突が原因として挙げられているといいます。
「微小隕石は秒速20km以上で飛行中の宇宙船に衝突すると、衝突によって生じた破片がプラズマ、つまり非常に高温で高密度のガスに変化する」「そして、このプラズマが短時間の電波バーストを放射する可能性がある」とする考え方です。


しかし後者の考え方のような微小隕石との相互反応が生じるには、厳格な条件がそろう必要があるため、研究によると、これが原因である可能性は低いことが示唆されています。


つまり、信号が発せられた理由は謎のままです。

リレー2号が教えてくれたこと

ただ、教訓になりそうだと語る研究者もいます。


イギリス・英国ブリストル大学のカレン・アプリン氏は、「両者が発する無線信号は似ているため、両者を区別するのは非常に難しいだろう」と述べています。
しかし「衛星からの将来の静電気放電を監視する上で役立つ可能性がある」ともしています。*7


そして「宇宙ゴミが多く、静電気放電に対する保護が限られている小型で低コストの衛星が増えている世界では、この無線検出は最終的に、宇宙空間における静電気放電を評価するための新しい技術となるかもしれない」とも語っています。


また、前出のジェームズ氏は、こうした放電は監視が難しいため、この出来事は地上からの観測が「衛星に起こる奇妙な現象」を明らかにしうることを示しました。研究者らがこれまで使用した大規模な望遠鏡ではなく、はるかに安価で構築しやすい装置を用いて同様の事象を探索できる見込みがあるともしています。


ただ裏を返せば、低コストの衛星が相次いで誕生し、打ち上げの技術も向上したことで宇宙空間は混み合い、今回のように銀河観測に影響が出るような状況をこれ以上続けるわけにはいかないでしょう。


宇宙開発の幕開け以降、すでに約2万2000基の人工衛星が地球の軌道に到達し、その半分強が現在もなお稼働しています。運用停止となった人工衛星は数十年にわたって何百回も衝突を繰り返し、まさに今も最大時速2万9,000kmの速度で周回する無数の破片を生み出し続けているのです。



*1 CNN「60年近く動作していなかった人工衛星から強力な電波信号、天文学者を悩ませる 昨年論文発表」
https://www.cnn.co.jp/fringe/35247132.html
https://www.cnn.co.jp/fringe/35247132-2.html

*2 平山智啓「1964年の人工天体」p.1
https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1965/pdf/19650810.pdf

*3 ベトナムを宣伝するためのプラットフォーム「60年以上前の宇宙船から奇妙な信号が発信された。」
https://www.vietnam.vn/ja/tin-hieu-la-tu-tau-vu-tru-hon-60-tuoi

*4 JAXA はれるんライブラリー「衛星の寿命はどれくらい?」
https://www.jma.go.jp/jma/kids/kids/faq/b2_05.html

*5 JAXAサテナビ「寿命を終えた人工衛星はどうなるの?」
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/satellite-knowledge/whats-eosatellite/lifetime/index.html

*6 毎日新聞「しつこく衛星をストーカー行為? ゾンビや危険な「密」も...新しい宇宙の常識」
https://mainichi.jp/articles/20200625/k00/00m/030/299000c

*7 NewScientist「Dead NASA satellite unexpectedly emits powerful radio pulse」
https://www.newscientist.com/article/2485157-dead-nasa-satellite-unexpectedly-emits-powerful-radio-pulse/

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。 趣味はサックス演奏と野球観戦。

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