「捨てないものづくり」は実現できるのか 製造業で進むサーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミー(資源循環)とは、製品や原材料を資源と捉え、資源を循環させながら活用することを前提とした経済システムのことです。
もともとはヨーロッパを中心に提唱されていた考え方ですが、現在では世界的な潮流となりつつあります。


日本のものづくり業界においても、再生材の活用やリサイクルしやすい製品設計、廃棄物の削減、製品の長寿命化など、資源をできるだけ無駄なく使うための取り組みが進められています。
これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした経済モデルから脱却し、限りある資源を循環させながら新たな価値を生み出すことは、製造業にとって重要な経営課題の一つといえるかもしれません。


この記事では、近年注目を集めているサーキュラーエコノミーの実現に向けた製造業の取り組みについて紹介します。

時代とともに移り変わるものづくりの価値観

私たちの生活を支えているものづくりの価値観は、時代とともに変化してきました。


戦後の復興期には、「たくさんつくり、たくさん消費する」ことが豊かさの象徴でした。
しかし、生活が便利になっていく一方で、高度経済成長期以降は廃棄物の増加や環境問題が深刻化していきます。
その後、過剰包装や公害などの問題を背景に、使い捨て型の消費を見直す動きが広がり、1970年代には「リサイクル」という言葉が使われ始めます。
1990年代以降は消費者が環境配慮製品を選択するグリーンコンシューマー運動も広がるなど、環境への意識は高まっていきます。


2000年には循環型社会形成推進基本法が制定され、「大量生産・大量消費・大量廃棄」型の社会からの脱却とともに、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を基本とした循環型社会づくりが進められるようになりました。*1

3Rのなかでもっとも優先すべきとされている「リデュース」は、ごみになってしまうものを「そもそも減らす」ことで、不要なものを買わない、製品を長く使うなどの取り組みです。
3Rの広がりは、大量生産・大量消費を前提としていた社会の価値観が変化し始めたことの表れともいえるでしょう。


そして近年では、気候変動をはじめとしたさまざまな社会課題に対応するため、「持続可能性(サステナビリティ)」が、ものづくりにおいても重要視されています。


限りある資源を有効活用しながら、環境負荷を抑えた社会を実現するため、製造業にも従来とは異なるものづくりのあり方が求められるようになってきました。
こうした流れを受けて、世界的に広がりつつあるのが、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という考え方です。

サーキュラーエコノミーが製造業にもたらす変化

あらためて、サーキュラーエコノミーとは

サーキュラーエコノミーとは、資源を効率的に循環させることで、持続可能な社会の実現と経済成長の両立を目指す「経済システム」のことです。*2
従来のリニアエコノミー(線形経済)と呼ばれる一方通行の経済活動ではなく、再生を原則として資源をぐるぐると循環させるのがサーキュラーエコノミーの特徴です(図1)。*3

図1:リニアエコノミーとサーキュラーエコノミー
出所)サーキュラーパートナーズサイト「サーキュラーエコノミーについて」
https://www.cps.go.jp/article/a04GA00001Eh4gCYAR/サーキュラーエコノミーについて


サーキュラーエコノミーは、前述した3Rを発展させた考え方ではありますが、3Rとは明確な違いがあります。
3Rがごみの削減やリサイクルといった消費者・事業者の環境行動であるのに対し、サーキュラーエコノミーは、製品の設計から製造、流通、回収、再利用までを含めた、社会全体の経済活動を循環型へ転換していこうとする考え方です。*2


では、その経済活動とは具体的にはどのようなものが含まれるのでしょうか。
サーキュラーエコノミーの概念を説明する際によく用いられる「バタフライ・ダイアグラム」を用いてみていきましょう(図2)。*4

図2:サーキュラーエコノミーを表すバタフライ・ダイアグラム
出所)Nextcom vol.48「サーキュラーエコノミーとデジタル革命: これからのものづくりとデジタルプラットフォーム設計のアプローチ」p.25
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nextcom/2021/48/2021_3/_pdf/-char/en


まるで蝶のような形をしたこのダイアグラムには、左側に再生可能資源を循環させる生物的サイクル、右側には枯渇性資源を循環させる技術的サイクルが描かれています。


自然界での分解が難しい枯渇性資源は「リサイクル」や「改修・再製造」「再利用・再配分」「維持・長寿命化」などの複数のループを構築することで、廃棄物の自然界への流出を最小限に抑えることができます。


製造業におけるサーキュラーエコノミー

製造業では、サーキュラーエコノミーはどのように取り入れられているのでしょうか。
次に、サーキュラーエコノミーに取り組む自動車産業の資源循環の流れについて少し具体的にみていきましょう(図3)。*2

図3:自動車産業におけるサーキュラーエコノミー
出所)経済産業省「成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/circular_economy_01.html


自動車産業においては、まず素材加工の段階で、使用済み材料の活用やリサイクル技術の導入などによって、資源を循環させる取り組みが進められています。
自動車の販売後も、メンテナンスや製品のリユース、リファービッシュ、さらにはカーシェアなどの「モノのサービス化」まで、幅広いループが広がっています。*2
なお、リファービッシュとは、初期不良品や使用済み製品を整備・修理し、新品に近い状態へ再生することで、資源循環において重要な取り組みの一つです。*4

循環型ものづくりに挑む国内企業の事例

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、製造業では、その企業の強みや製品の特徴を生かしてさまざまな形で「循環型ものづくり」に取り組んでいます。


複合機などを手がけるリコーグループでは、1994年から「コメットサークル」という独自の循環型社会のコンセプトを掲げ、製品のライフサイクル全体を通した環境負荷低減を目指しています。*5
資源の有効活用に加え、グローバル規模での使用済み製品の回収・リユース・リサイクルの促進、製品の省資源化などを推進しており、国際的に加速するサーキュラーエコノミーへの対応を進めています。*5


資源の再活用では、金属やプラスチックなどの原料だけでなく、プリンター用トナーの製造工程などで使用される水資源の有効利用にも取り組んでいます。


上海リコーデジタル機器では、隣接する飲料工場の排水を再利用し、トイレ洗浄水や冷却塔用水、清掃用水などに活用することで、水道水使用量の削減につなげています。
また、精密プレス部品などを製造する迫リコーでは、塗装部品の洗浄工程で使用した廃液を再生処理し、再び洗浄水として利用するクローズドシステムを構築しています(図4)。*5

図4:表面処理洗浄水のクローズドシステム
出所)RICOH「リコーグループサーキュラーエコノミーレポート 2022」p.14
https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/environment/practice/cycle/pdf/CEreport_JPN_2022_web.pdf#page=15


この取り組みにより、年間約6万㎥の水道水削減と、排水処理コストの低減を実現しています。


二輪車やマリン製品を製造するヤマハ発動機でも、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、再生材の活用や製品のリサイクル性向上、解体しやすい設計などに取り組んでいます。


資源循環の取り組みとして、製品に使用する材料をリサイクル材や再生可能エネルギーによって製造されたグリーン材への切り替えを進めています。
自社工場で使用するアルミ合金に関しては、十分な強度を確保できるリサイクル材の開発にも取り組んでおり、2030年までに使用材料を100%サステナブル材へ転換するという目標を掲げています。


また、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)を材料として使用している小型船舶の廃棄に関しては、一般社団法人 日本マリン事業協会が運営するリサイクルシステムに参加し、使用済みFRP船の適正処理とリサイクルに取り組んでいます(図5)。*6

図5:FRP小型船舶リサイクルシステムの流れ
出所)ヤマハ発動機株式会社「「資源循環」への取り組み」
https://global.yamaha-motor.com/jp/sustainability/environment/resource_recycling/


回収されたFRP船は、粉砕・選別などの処理を経て、セメント原料や熱エネルギーとして再利用され、マテリアルリサイクル・サーマルリサイクルを実現しています。

まとめ

いつの時代でも、ものづくりによって私たちの生活や経済は支えられています。
しかし、近年では「ものにあふれた時代」は終わりを迎えつつあり、「循環の時代」へと移り変わろうとしています。


製造業においても、「製品をつくって終わり」ではなく、回収・再利用・再資源化までを見据えた「循環型ものづくり」への転換が進み始めています。
資源循環の方法は、扱う材料や製品によって異なるため、企業ごとに最適な循環の「ループ」を幾重にも構築していくことが重要になっていくのかもしれません。


限りある資源を有効活用しながら持続可能な社会を実現するため、サーキュラーエコノミーは、これからのものづくりを支える重要なキーワードの一つになっていくでしょう。



参考文献

*1
出所)令和2年版消費者白書「第1部 第2章 第1節 (2)消費と資源についての動き」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/white_paper_127.html

*2
出所)経済産業省「成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/circular_economy_01.html

*3
出所)サーキュラーパートナーズサイト「サーキュラーエコノミーについて」
https://www.cps.go.jp/article/a04GA00001Eh4gCYAR/サーキュラーエコノミーについて

*4
出所)Nextcom vol.48「サーキュラーエコノミーとデジタル革命: これからのものづくりとデジタルプラットフォーム設計のアプローチ」p.25,p.26
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nextcom/2021/48/2021_3/_pdf/-char/en

*5
出所)RICOH「リコーグループサーキュラーエコノミーレポート 2022」p.8, p.11, p.14
https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/environment/practice/cycle/pdf/CEreport_JPN_2022_web.pdf

*6
出所)ヤマハ発動機株式会社「「資源循環」への取り組み」
https://global.yamaha-motor.com/jp/sustainability/environment/resource_recycling/

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。