
2026年7月10日 09:00
AI時代、製造業の採用はどう変化していく?
日本の新卒採用においては、少子高齢化や労働人口の減少を背景に、長らく「売り手市場」が続いています。
しかし現在、その構図に変化が訪れ、従来の新卒一括採用だけに依存しない採用戦略への見直しが進みつつあります。
日本経済新聞のまとめによると、2026年度の主要企業5277社の採用計画において、中途採用比率が初めて5割を超えました。
とくに電機や通信業界では、AIやDXの加速に伴い、高度な専門知識や実務経験を持つ即戦力となる人材の需要が高まっているようです。
これまで、新卒一括採用が主流であった製造業でも、採用戦略の転換点が訪れているのかもしれません。
この記事では、AI時代における製造業の採用における変化や、これからの製造業で求められる人材像について解説します。

「新卒一括採用」時代は終焉の兆し?
これまで日本の就職市場では、「新卒一括採用」が主流とされてきました。
2000年代後半に就職活動を経験した筆者自身もかつてはそうでしたが、「新卒で入社し、定年まで同じ会社で働き続けるのが一般的」という価値観を持つ人も少なくなかったのではないでしょうか。
あらためて「新卒一括採用」とは、企業が学校を卒業予定の学生を対象に一括で採用をおこない、入社後に時間をかけて育成するという日本独特の採用慣行です。
この仕組みによって、学生は実務経験や専門スキルがなくても卒業後すぐに企業に就職でき、日本の若年失業率の低さにもつながってきました。
実際、日本の15〜24歳の失業率は3.8%であり、アメリカ(8.6%)やイギリス(11.6%)、フランス(20.1%)、イタリア(32.2%)、韓国(10.5%)などの先進国と比較しても、格段に低い水準にあります。
一方で、「新卒カード」という言葉があるように、新卒時の就職活動がその後のキャリアに大きな影響を与えやすいという側面もあります。
また企業側にとっても、新卒採用に偏ることで、専門性や実務経験を持つ中途人材を十分に活用できないというデメリットがあります。*1
この日本独特の慣行である新卒一括採用が、近年見直されつつあります。
その象徴的な事例として注目を集めたのが、富士通の新卒一括採用廃止のニュースです。
富士通は2026年度から、「新卒」「中途採用」といった区分を設けず、採用計画数も定めない通年採用へ移行することを発表しています。
これは、職務内容に応じて必要な人材を必要なタイミングで採用する「ジョブ型人事制度」への転換を目指すものです。*2
2026年4月には、日本経済新聞が、2026年度の主要企業の採用計画で中途採用比率が50.3%となり、調査開始以来初めて過半数を超えたことを報じました。
長期間の育成を前提とした従来の日本型雇用は、いま大きな転換点を迎えつつあります。*3

変化しつつある製造業の採用市場
新卒一括採用の廃止や中途採用の拡大などの動きが広がるなか、製造業の採用市場にも少しずつ変化が見られるようになっています。
製造業では、新卒一括採用を継続しながらも、採用人数を大幅に縮小する企業が出始めています。
クボタは、2027年4月入社の大卒・大学院修了者の採用人数を、前年の4分の1となる60人に縮小すると発表しました。
また、パナソニック ホールディングスも、高卒を除く新卒採用を前年度比100人減となる約800人にするとしています。 *4
大手製造業を中心に広がりはじめたこの動きによって、今後は産業界全体でも採用戦略の見直しが進んでいく可能性があります。
一方で、製造業では以前から深刻な人手不足が課題となっています。
少子高齢化による労働人口の減少に加え、技術者の高齢化や若手人材不足も進んでおり、人材確保は多くの企業にとって重要な経営課題となっています。
2022年度のものづくり白書によると、製造業の就業者は約20年間で157万人減少しており、若年就業者も121万人減少しています。*5
人手不足が進んでいるにもかかわらず、新卒の採用数は縮小しつつあるという、ある意味「ねじれ」のように見える状況の背景には、製造業で求められる人材像そのものの変化があるのかもしれません。
そもそも製造業は、以前から人材育成に関してさまざまな課題を抱えています。
経済産業省の調査では能力開発や人材育成に問題があると感じている製造業の事業所の割合は8割を超えており、これは全産業平均と比較しても高い水準にあります。*6
人材育成の問題点としては、「指導する人材が不足している」「人材育成を行う時間がない」「人材を育成しても辞めてしまう」「鍛えがいのある人材が集まらない」などが多く挙げられています。
なかでも、指導人材の不足や育成対象となるポテンシャルの高い人材の確保難については、全産業平均を上回っています。(図1)。*6

図1:能力開発や人材育成に関する問題点の内訳(複数回答)
出所)2023年版ものづくり白書「第2節 ものづくり人材の能力開発の現状」p.54
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/honbun_1_2_2.pdf
こうした人材育成の課題に加え、近年ではAIやDXの推進によって、製造業で求められるスキルそのものも高度化・多様化しています。
製造業に限らず、AI時代の到来により、デジタル技術やデータ活用の知識を持つ人材への需要が高まっています。
人材サービス大手のパーソルキャリアが実施した調査によると、AI活用・導入によって採用人数が増えた職種として、「データ・デジタル、IT企画系職種」「業務改善・DX推進を担う職種」「企画・戦略立案職種」などが多くなっています。
さらに、今後3年以内に中途採用で人数が増える見込みがある職種としては「エンジニア・技術系職種」の割合も高くなっています。*7
こうしたデータからも、製造業はこれまでの「新卒で人数を確保する採用」から、「必要なスキルを持つ人材を獲得する採用」へと重心が移りつつあることが窺えます。

AI時代の製造業で求められる人材像
経済産業省が2024年に公表した「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」では、生成AI時代のDX推進においては「問いを立てる力」「仮説を立てて検証する力」に加え、「評価・選択する力」の重要性が高まると指摘されています。
AIによって知識や技術を補完できる時代だからこそ、リーダーシップや創造性、課題解決力などの「人間ならではの力」が求められています。
また、生成AI時代においては、事業そのものが変化していく可能性もあります。
そのため、技術ありきで事業を展開するのではなく、ビジネスの価値向上につながる構想や企画を生み出せる人材の重要性が高まっていくと考えられています。*8
製造業においても、単にAIやデジタル技術を導入するだけではなく、それらを活用しながら現場改善や課題解決、新たな価値創出につなげられる人材が、より求められるようになっていくのかもしれません。
このような状況をうけ、製造業では、企業内でのデジタル人材育成も進められています。
空調大手のダイキン工業では、2017年から「ダイキン情報技術大学」を社内に設置し、デジタル人材の育成に取り組んでいます。
一般的な大学院と同じ2年間、AIやIoTに関する専門教育を受けることができ、既存社員だけでなく新入社員も毎年100人規模で参加しています。
1年目は座学を中心とした「基礎教育」、2年目は学んだ知識を生かして現場で課題解決に挑戦する「応用教育」となっており、期間中は通常業務はおこなわず、学ぶことに専念できる点が大きな特徴です(図2)。*9, *10

図2:ダイキン情報技術大学 新入社員講座講座
出所)厚生労働省「ダイキンのDX人材育成」p.14
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000971051.pdf
AI時代に対応できるデジタル人材を、採用だけに頼るのではなく、自社内で育成しようとする意欲的な取り組みです。

まとめ
AI時代の到来によって、事業のあり方だけでなく、企業の採用市場や人材育成にも大きな変化が訪れています。
人手不足が進む製造業では、これまでのように新卒人材を一括採用する従来型の一律育成だけでは、急速に進むAIやDXの変化に対応することが難しくなりつつあります。
そのため、必要なスキルを持つ人材を中途採用で確保する動きが広がる一方で、社内でデジタル分野に対応できる人材を育成しようとする取り組みも進められています。
大きく変化する時代のうねりのなかで製造業の競争力を左右するのは、単なる技術導入ではなく、「新たな価値を生み出す人材」をいかに確保し、育成できるかにあるのかもしれません。
参考文献
*1
出所)厚生労働省「第5回 今後の若年者雇用に関する研究会 事務局説明資料」p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000634510.pdf
*2
出所)日本人材ニュース「富士通が新卒一括採用を廃止し、通年採用へ移行。通年採用のメリット・デメリットと導入している大手企業を紹介」
https://jinzainews.net/26806594/
*3
出所)日本経済新聞「就中途採用が初の5割超え、即戦力を重視 電機や通信でAI人材確保」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC141BJ0U6A410C2000000/
*4
出所)産経新聞「就活戦線「売り手市場」に異変 新卒採用減 人に代わるAI導入視野、即戦力の中途重視も」
https://www.sankei.com/article/20260329-XW34P3SNSZNNVGVFEJNLLUULEQ/
*5
出所)厚生労働省「2022年版ものづくり白書 概要 」p.3
https://www.mhlw.go.jp/content/000944612.pdf
*6
出所)2023年版ものづくり白書「第2節 ものづくり人材の能力開発の現状」p.53, p.54
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/honbun_1_2_2.pdf
*7
出所)パーソルキャリア「転職サービス「doda」、企業のAI活用実態と人材戦略に関する調査レポート第1弾"求める人材の変化編"を発表」
https://www.persol-career.co.jp/newsroom/news/research/2026/20260325_2131/
*8
出所)経済産業省「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024 」p.28
https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006-b.pdf
*9
出所)METI Journal ONLINE「激しさ増すデジタル人材争奪戦 AIトップランナーが語る「勝つ」人材育成とは」
https://journal.meti.go.jp/policy/202504/39121/
*10
出所)厚生労働省「ダイキンのDX人材育成」p.14
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000971051.pdf
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

