揺らぐ原油供給 代替エネルギーの現在地

中東情勢の緊迫化により、私たちの暮らしや製造現場にも影響が出始めています。
原油の供給が不安定になり、燃料だけでなく、包装材や塗料、プラスチックなどにも波及するなか、石油に代わるエネルギーはどこまで実用化されているのでしょうか。
今回は、代替エネルギーの現在地を見ていきます。

中東情勢の緊迫化による影響

日本は、化石燃料の多くを海外からの輸入に頼っています。なかでも原油は中東依存度が9割以上です(図1)。*1

図1:日本の化石燃料の輸入先
出所)資源エネルギー庁 「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/energysecurity/index.html


2026年2月28日、米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦をきっかけに、中東情勢は急速に緊迫化しました。これにより、原油・天然ガス市場を中心に世界的なエネルギー価格ショックが起きています。*2


こうした影響は、日本にも及んでいます。
政府が実施する緊急的激変緩和措置のおかげで、2026年4月末時点のガソリン小売価格は落ち着いているものの、一時は全国平均小売価格が1リッターあたり190.8円まで上昇しました(図2)。*1

図2:中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置
出所)資源エネルギー庁 「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/energysecurity/index.html


また、原油価格の上昇は、ガソリンや軽油などの燃料価格だけでなく、石油化学製品にも波及しています。*3


実際に、中東情勢の影響は一部の企業対応にも表れています。


例えば、カルビーは、原材料の調達不安定化を受け、一部商品のパッケージに使用する印刷インクの色数を従来仕様から2色に変更すると発表しました。*4
この対応を見て、筆者がまず驚いたのは「判断と実行が早い!」ということです。消費者は、ただ「パッケージを変えるんだな」で終わりますが、実際には調達、印刷仕様の変更、表示内容の確認、店頭展開の調整など、多くの工程が関わるはずです。
特に、大手食品メーカーの生産や出荷の流れは高度にシステム化されていると考えられます。そのなかで、短期間で仕様変更に踏み切り、供給を継続しようとする対応力には驚きました。
店頭には色鮮やかなパッケージの商品が並んでいます。そういった状況下で、あえて色数を抑えたパッケージは、かえって目を引く可能性もあります。もちろん本来の目的は安定供給のためですが、結果的に「中東情勢の影響に対応した商品」として印象に残りやすく、広報面でも優れた対応だったように感じます。


他にも、クボタケミックスは、塩化ビニル管および継手類への発注が集中し、一部製品では、確定した納期の回答が難しい状況になっているとしています。*5
日本塗装工業会も、シンナー、塗料、および副資材の供給不安と価格高騰を受け、国土交通省へ緊急要望を提出しました。市場在庫が著しく少ない状況で 、工期への影響も出始めていると発表しています。*6
塩ビ配管や塗料は、普段の生活のなかで強く意識するものではありません。
しかし、住宅や建物、インフラ、工場設備など、私たちの暮らしや産業を支える多くの場面で使われています。今回の一連の動きを見ると、原油やナフサの供給不安は、燃料価格だけの問題ではないことがわかります。

代替エネルギーとは

前述のように、原油の供給が不安定になると、私たちの暮らしや製造現場にもさまざまな影響が出てきます。


そこで注目されるのが、代替エネルギーです。代替エネルギーとは、石油に替えて利用できるエネルギーの総称です。*7
前述のように、原油は、燃料だけでなく、ナフサを通じてプラスチックや塗料、包装材などの原材料にもつながっています。そのため、代替エネルギーを考える際には、発電や燃料の代替に加え、化学原料の代替という視点も欠かせません。


まずは、代替エネルギーとは何かを整理してみましょう。
代表的な代替エネルギーには、以下のようなものがあります。


再生可能エネルギー

再生可能エネルギーとは、エネルギー供給構造高度化法において、再生可能エネルギー源は「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの 」と定義されています。

具体的には、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱などの自然界に存在する熱、バイオマスなどが定められています。*8
一次エネルギー国内供給の状況を見ると、再生可能エネルギーは徐々にその割合を伸ばしており、今後も普及が進むことが期待されます(図3)。*9

図3:一次エネルギー国内供給
出所)経済産業省「2024年度エネルギー需給実績(確報)参考資料」P.5
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260414001/20260414001-1.pdf#page=5


筆者自身、最近自宅に太陽光パネルを設置したため、とても身近に感じるエネルギーです。天候に左右される課題もありますが、 自宅でエネルギーを作り出せるという環境は安心できます。


原子力

原子力とは、文字通り「原子の力」を利用するエネルギーで、核分裂の際に発生するエネルギーを発電に利用しています。*10

原子力はニュースで取り上げられることも多くあります。図3を見ると、原子力によるエネルギー供給の割合は減っているものの、代替エネルギーの中では比較的馴染み深いエネルギーではないでしょうか。


水素・アンモニア

水素エネルギーとは、水素を燃料として利用するエネルギーのことです。水素は、酸素と結びつけることで発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用したりできます。利用する際に二酸化炭素を排出しないため、新エネルギーとして注目されています。*11

水素はエネルギーとしてではなく、化学原料を生み出す基盤資源としても注目されているのをご存じでしょうか。


川崎重工業は、水素からナフサを生産する技術の提案を始めています。
同社は、天然ガス由来の水素などからガソリンを製造するプラントをトルクメニスタンで納入した実績もあります。*12
中東情勢の緊迫化で原油やナフサの供給不安が高まるなか、水素は脱炭素だけでなく、経済安全保障の面からも重要性を増しているのです。
恥ずかしながら、筆者自身は今回の中東情勢をきっかけに調べるまで、水素からナフサを生産する技術が開発されていることを知りませんでした。
水素がエネルギーとして使われるだけではないことを知り、技術開発の広がりに驚くばかりです。


また、アンモニアも次世代エネルギーとして注目されています。

理由のひとつは、水素を運ぶ「キャリア」として活用できる可能性があるためです。水素は大量輸送が難しい面がありますが、アンモニアの形に変換すれば、すでに確立されている運搬・貯蔵技術を活用できます。 *13


合成燃料

合成燃料とは、二酸化炭素と水素を合成してつくられる燃料です。複数の炭化水素化合物の集合体で、「人工的な原油」とも言われています。
再生可能エネルギー由来の水素を使った合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれ、2030年前半までに商用化が目指されています。 *14, *15


筆者は、代替エネルギーに関するニュースを見るたびに、実用化にはまだ時間がかかるのではと思っていました。
しかし、2030年という近い将来に商用化される可能性があると知り、驚くと同時に希望を感じます。 不安なニュースが多い中で、このような前向きな取り組みが進んでいることはとても心強いです。



代替エネルギーの重要性は増す

ここまで紹介してきたように、代替エネルギーの利用は一部では進んでいるものの、完全なる代替はまだ先であるといえそうです。


燃料、発電、化学原料、輸送、産業用熱など、石油が担ってきた役割は非常に幅広く、すべてを短期間で置き換えるのは簡単ではありません。
一方で、図4にあるように日本のエネルギー消費は少しずつ減少しています。*9

図4:部門別最終エネルギー消費
出所)経済産業省「2024年度エネルギー需給実績(確報)参考資料」P.2
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260414001/20260414001-1.pdf#page=2


石油製品生産量も、ガソリン、灯油、軽油、重油など多くの石油製品で減少傾向が示されています(図5)。*9

図5:石油製品生産量
出所)経済産業省「2024年度エネルギー需給実績(確報)参考資料」P.4
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260414001/20260414001-1.pdf#page=4


筆者は、こうした流れは今後さらに加速していくと予想しています。


石油は有限の資源です。2020年時点の石油の可採年数は53.5年 とされています。*16

私たちが生きている間に石油が採掘できなくなるかもしれないのです。


今回は中東情勢がきっかけでした。しかし近い将来、資源の制約、気候変動対策、国際情勢の変化などによって、同じような混乱、あるいはそれ以上の影響が生じる可能性もあります。


代替エネルギーは、まだ原油を完全に置き換えられる段階ではありません。
それでも、再生可能エネルギーの導入、省エネ技術の向上、水素や合成燃料の開発、原材料の代替といった取り組みは、確実に重要性を増していくはずです。


今回の出来事は、私たちがどれほど原油に依存しているのかを知るきっかけになりました。
同時に、これからのものづくりにおいては、「安く調達できるか」だけでなく、「安定して調達し続けられるか」「代わりの選択肢を持てるか」が、より大切になっていくのではないでしょうか。



参照・引用を見る
*1
出所)資源エネルギー庁 「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/energysecurity/index.html

*2
出所)独立行政法人日本貿易振興機構 「中東情勢のASEANへの影響(前編)エネルギー供給の脆弱性が顕在化」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2026/0501/2a1d6a84ab24e8a4.html

*3
出所)石油化学工業協会 「ペルシャ湾情勢に関する石油化学工業協会コメント」

https://www.jpca.or.jp/files/newsrelease/20260317.pdf

*4
出所)カルビー株式会社「中東情勢の影響による一部商品仕様見直しのお知らせ」

https://www.calbee.co.jp/news/pdf/4227-34957.pdf

*5
出所)株式会社クボタケミックス 「塩化ビニル管および継手類の供給状況に関するご案内」
https://www.kubota-chemix.co.jp/dcms_media/other/%E5%A1%A9%E5%8C%96%E3%83%93%E3%83%8B%E3%83%AB%E7%AE%A1_%E4%BE%9B%E7%B5%A6%E7%8A%B6%E6%B3%81_%E5%8F%96%E5%BC%95%E5%85%88%E6%A1%88%E5%86%85%E6%96%87202605.pdf

*6
出所) 一般社団法人日本塗装工業会「中東情勢に伴う塗料原材料の安定供給及び価格高騰に関する緊急要望」
https://www.nittoso.or.jp/3562/

*7
出所)一般財団法人環境イノベーション情報機構「石油代替エネルギー」
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%E7%9F%B3%E6%B2%B9%E4%BB%A3%E6%9B%BF%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC

*8
資源エネルギー庁「再生可能エネルギーとは」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html

*9
出所)経済産業省 「2024年度エネルギー需給実績(確報)参考資料」P.2, P.4, P.5
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260414001/20260414001-1.pdf

*10
出所)一般財団法人 日本原子力文化財団「原子力発電のしくみ」
https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-02-03.html

*11
出所)資源エネルギー庁「『水素エネルギー』は何がどのようにすごいのか?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiso.html

*12
出所)日本経済新聞「川崎重工、水素からナフサを生産する技術を提案 原油の代わりに」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC12B8J0S6A510C2000000/?msockid=2e2c8031d26e604e351f924ed37661bc

*13
出所)資源エネルギー庁「アンモニアが"燃料"になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ammonia_01.html

*14
出所)資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料『合成燃料』とは」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gosei_nenryo.html

*15
出所)資源エネルギー庁「バイオ燃料・合成燃料のサプライチェーン構築に向けて」P.5
https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001735441.pdf

*16
出所)資源エネルギー庁 「第2部 第2章 第2節 一次エネルギーの動向 」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/2-2-2.html

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。