
2026年6月12日 09:00
進化する5S 現場の生産性を左右する「清掃」の新常識
製造業では、生産性・品質の向上、事故防止などを目的として、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の5つを「5S活動」として推進しています。
5Sの一つである清掃は、単に工場内をきれいに保つだけでなく、製品への異物混入や機械トラブルを防ぐなどの重要な役割を担っています。
近年では、この5S活動でも少しずつDX化が進みはじめています。
そのひとつが、工場の清掃を自動化する「スマート清掃」です。
AIやセンサー、ロボットなどを活用することで、清掃の自動化・効率化による業務負担の軽減や、設備トラブルの予防、品質の安定化にもつながります。
この記事では、工場清掃の重要性と、製造業DXの一環として進化している最新の清掃技術について紹介します。

5S活動のひとつ「清掃」の本当の意味とは
製造業の基本ともいわれる5S活動は、不要なものを排除し、必要なものを使いやすく配置するとともに、清潔な状態を維持・定着させることで、安全で効率的な作業環境の実現を目指す取り組みです。
もともとは自動車メーカーの生産現場で体系化された考え方ですが、現在では製造業に限らず、小売業やサービス業、さらには医療・介護の現場などでも浸透しています。
単なる職場改善にとどまらず、安全の確保や品質向上、作業効率の改善に加え、従業員一人ひとりの意識やモラルの向上を通じて、企業体質そのものを継続的に革新していく活動です。*1, *2
この5S活動の一つである「清掃」とは、単なる美化活動ではありません。
掃除をして、現場をゴミや汚れのない状態を保つことは、たしかに働きやすい環境の構築につながります。
しかし、5Sにおける「清掃」の本質は、設備や作業環境の状態を観察し、異常や変化にいち早く気づくための「点検活動」にあります。*1, *3
清掃によって設備が正常な状態を保つことができれば、油漏れや摩耗、部品のゆるみといったトラブルの兆候が見えやすくなり、異常の早期発見につながります。
さらに、定期的にホコリや汚れを取り除き設備を清潔に保つことで、故障を引き起こす要因そのものを減らす効果も期待できます。
このように、5S活動の一つである清掃は、「掃除の習慣の定着」にとどまらず、「異常を早期に発見するための仕組みづくり」として重要な役割を担っています。

進む5Sのスマート化と清掃作業の自動化
マニュアルやチェックシートで管理したり、現場の巡回によって状態を確認する5S活動は、一見するとアナログな取り組みのように感じられます。
実際、現場ごとの慣習や暗黙知、さらには従業員同士のコミュニケーションといった、人に依存した運用によって支えられてきた活動でもあります。
しかし近年は、デジタル技術の進展やDXの推進により、5S活動にも「スマート化」「デジタル化」の波が押し寄せています。
AIやIoT、センサー技術などを活用することで、これまで人が目視や経験に頼っていた部分をデータとして可視化し、より客観的かつ継続的に管理できるようになってきています。
さらに、クラウドベースの管理システムの導入によって、進捗管理や情報の一元管理、リアルタイムでの情報共有も可能になります。*4
製造業でDXが進んでいるのと並行して、工場やビル、商業施設などの清掃を担う清掃業界にもスマート化の動きが広がっています。
その代表的な取り組みの一つが、AIやセンサー、ロボットなどを活用した「スマート清掃」です。
家庭用のお掃除ロボットはすでに普及しつつありますが、業務用の清掃ロボットは広いエリアや複雑な環境に対応できる点が特徴です。
そして、より過酷な環境でも長時間稼働できるように、強力な吸引・洗浄機能に加えて高い耐久性を備えています。
また、センサーやAIを活用することで清掃パターンの最適化をおこない、人の手では届かない部分や見落とされやすい箇所も含めて、徹底的かつ効率的に清掃することができます。*5
清掃のスマート化は、従業員の業務負担軽減や人手不足の解消に貢献し、工場全体の衛生レベルの底上げに寄与します。
労働力不足やそれに伴う人件費の高騰を背景に、業務用の自動清掃ロボットの国内市場はここ数年で徐々に拡大しており、2030年にはさらに大きく成長する見込みです。(図1)。*6

図1: 有力5施設・店舗における自律走行ロボットの国内市場
出所)富士経済グループ「業務用清掃ロボット、警備ロボットなど有力施設・店舗における自律走行ロボットの国内市場(稼働台数)を調査」
https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=24048
スマートで自律的な機能を備えた自動清掃ロボットは、工場に限らず、ショッピングセンターやオフィス、病院など、さまざまな現場で活用が進んでいます。
技術革新と社会的ニーズの高まりによって、業務用清掃ロボットの活用は今後さらに広がっていくと考えられます。
工場の「きれい」を底上げ!スマート清掃の最新技術
AIやロボティクス技術を活用したスマート清掃は、すでに実際の現場で導入が進んでいます。
ソフトバンクが開発した全自動床洗浄ロボット「Scrubber 50 Pro」を導入した工場では、従業員の負担軽減や清掃品質の向上を実現しています。
このロボットは、人や台車が行き交う工場内でも、センサーによる障害物検知機能により、安全に走行しながら清掃することができます。
さらに、工場内の自動ドアもロボットの判断で通過できるため、人とロボットが共存する環境でも無理なく運用することが可能です(図2)。*7

図2: 工場内の自動ドアをセンサーで検知する自動清掃ロボット
出所)SoftBank「常にクリーンな工場を目指して。清掃ロボットの導入が、工場の美観維持と従業員の満足度に貢献。」
https://www.softbankrobotics.com/jp/product/cleaning/scrubber50/shimada/
フォークリフトが出入りするこの工場では、人の手による定期的な清掃のみでは砂や泥汚れが残ってしまうという課題がありました。
そこでロボットによる頻繁な清掃を導入した結果、常にクリーンな状態を維持できるようになりました。
清掃の自動化によって、人の手でしか対応できない狭い場所や設備周辺の細かな清掃に時間を割くことが可能となり、工場全体の清掃品質の向上にもつながっています。
さらに近年では、より高度な清掃が求められるクリーンルームに対応した自動清掃ロボットの開発も進んでおり、精密機器製造メーカーや半導体製造関連メーカーの工場で導入が拡大することが見込まれています。
株式会社アイウイズロボティクスが開発した自動清掃ロボットは、高精度フィルターや専用モップなどの機能により、クリーンルーム内で微粒子の発生や再拡散を抑えながら清掃が可能です(図3)。*8

図3: クリーンルーム内での実証試験の様子
出所)株式会社倉元製作所「AI を活用した全自動お掃除ロボットのクリーンルーム向け 実証試験の実施と販売開始のお知らせ」
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250930/20250930564921.pdf
また、このロボットにはAIカメラが搭載されており、工場内の監視や異物・塵埃の発生源の特定にも活用することができます。
従来のクリーンルーム清掃は、入室前に作業員がエアーシャワーで除塵し、クリーンスーツを着用したうえで専用の用具を使用するなど、多大な時間と手間がかかっています。
さらに、工場の機密性の観点から外部委託が難しいケースも多く、運用上の制約も大きいのが実情です。
こうしたなか、ロボットによるクリーンルーム清掃の自動化は、機密性を維持しながら業務負担の軽減と作業時間の短縮を実現する手段として期待されています。

おわりに
工場における清掃は、日常的におこなわれる基本的な作業ですが、5S活動の一つにも位置づけられるように、生産性の向上や品質の安定にも影響を与えます。
近年は、スマート清掃技術の進化により、清掃の効率化と高度化が進みつつあります。
スマート清掃は単なる「省人化」の手段にとどまらず、「人とロボットの役割分担」の最適化や、工場全体の自動化を促すきっかけの一つにもなるかもしれません。
人とテクノロジーがそれぞれの強みを活かしながら連携することで、より持続可能で高品質な現場づくりを実現できます。
今後はこうした取り組みが、現場改善の新たなスタンダードとなって定着していくでしょう。
参考文献
*1
出所)独立行政法人 中小企業基盤整備機構「マンガでわかる「5S活動」」
https://seisansei.smrj.go.jp/problem_solving/comics/5s-katsudo.html
*2
出所)JMAM「5S活動とは?目的や実践ステップ、製造業の好事例を紹介」
https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0139-5s-activities.html
*3
出所)日研トータルソーシング株式会社「5Sとは?「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の製造業における目的とメリット・デメリット」
https://www.nikken-totalsourcing.jp/business/tsunagu/column/340/
*4
出所)NEWJI株式会社「製造業の5S活動をデジタル化!整理整頓が楽になる秘訣」
https://newji.ai/dx-manufacturingindustry/digitize-5s-in-manufacturing-made-easy/
*5
出所)evort「業務用清掃ロボットの導入メリットや活用事例・市場動向を解説」
https://evort.jp/article/industrial-cleaning-robot
*6
出所)富士経済グループ「業務用清掃ロボット、警備ロボットなど有力施設・店舗における自律走行ロボットの国内市場(稼働台数)を調査」
https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=24048
*7
出所)SoftBank「常にクリーンな工場を目指して。清掃ロボットの導入が、工場の美観維持と従業員の満足度に貢献。」
https://www.softbankrobotics.com/jp/product/cleaning/scrubber50/shimada/
*8
出所)株式会社倉元製作所「AI を活用した全自動お掃除ロボットのクリーンルーム向け 実証試験の実施と販売開始のお知らせ」
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250930/20250930564921.pdf
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

