その使い方、本当に合っていますか?取扱説明書の大切さを考える

「読まなくても何とかなる」と思われがちな取扱説明書ですが、そこには製品を正しく使い、長く快適に使うための大切な情報が詰まっています。


今回は、取扱説明書を確認する意味と、その重要性について考えます。

私はネーム印の使い方を間違っていた

私が社会人になったころから使い始めたネーム印。身近な文具なので、使い方を間違えることなんてあるのか?思われる方も多いでしょう。実際、筆者自身も「使い方も何も、押せばいいだけでしょ?」と思っていました。


しかし、使い方に自信を持っていた筆者は、10年以上にわたって使い方を間違えていたのです。


ネーム印は、押した印影が薄くなってくるとインキを補充します。
筆者も薄くなるたびに自分でインキを足していました。ところがその入れ方が、そもそも間違っていたのです。
本来は補充液吸蔵体(スポンジ部分)に補充すべきところを、筆者はずっと別の箇所である「インキ吸蔵体」に入れていました(図1)。*1, *2

図1:インキ吸蔵体(写真右)、「補充吸蔵体」(写真中央:本来補充すべきスポンジ部分)
出所)シヤチハタ株式会社「データーネームEX_取扱説明書」(左)[1.1][2.1][3.1]
https://koubou.kaunet.com/pdf/ink/s14_shachihatastamp_dataname-cap_manual.pdf

シヤチハタ株式会社「日付印(データーネーム) インキの補充方法」(右)
https://www.shachihata.co.jp/support/ink/detail/?id=3758


使っていたのは、図2のような1本0.3mlの補充用インキです。*2

図2:補充インキ
出所)シヤチハタ株式会社「日付印(データーネーム) インキの補充方法」
https://www.shachihata.co.jp/support/ink/detail/?id=3758


0.3mlと聞くと少なく感じるかもしれませんが、ネーム印に補充する量としては十分です。

ところが、筆者がせっせとインキを補充していたインキ吸蔵体は、本来の補充箇所ではないため、インキのほとんどが吸い込まれません。

そのため、1本を使い切ることはできず、毎回余らせていました。うまく入らず、溢れたインキでネーム印の印面キャップや自分の手が汚れることもしばしばありました。


当時の私は、「なぜかインキが少し余るな」「1回の補充で使い切らないのに、なぜ補充用インキには蓋がないのだろう?」「汚さずに補充するのが難しいな」などと思っていました。
今になって振り返れば、そこできちんと使い方を確認すればよかったのですが、そのときは「こういうものなのだろう」と、違和感を放置してしまっていたのです。


ちなみに、余ったインキはもったいないので、ティッシュにくるんでデスクの引き出しにしまっていました。
この保管作業が地味に面倒で、「インキ補充ってこんなに手間がかかるのもおかしい気もする」と感じていました。


それだけではありません。
少量しか補充できないので、インキを補充しても、思ったより早くまた薄くなるため「補充のスパン、短すぎないか?」と感じることもありました。

「おかしいな」と感じる場面はいくつもあったのです。
それでも、「使えてはいるし、まあこんなものだろう」と思い込み、深く確認することはありませんでした。


正しい使い方を知ったのは、他の人がネーム印にインキを補充している場面を見たときです。
そこで初めて、「え、そこに入れるの?」と気づきました。
つまり、10年以上にわたって自分の使い方が間違っていたことを、その瞬間に知ったのです。


正しい方法で使ってみると、驚くほど快適でした。
補充インキは1本分きちんと入るし、インキが長持ちするので補充の回数もぐっと減りました。
キャップが汚れることもなくなり、手を汚すこともありません。
「こんなに使いやすいものだったのか!たくさんの人が使うはずだ・・・」と、思わず感動してしまいました。
そして同時に、市場で長く使われている商品は、やはりよく考えられているのだと実感しました。


自分が使いにくいと感じていたのは、商品に問題があったのではなく、単に使い方を間違えていただけだったのです。
メーカーのホームページを見ると、インキの補充方法がきちんと案内されています。*2

ということは、筆者と同じように「なんとなく」で使ってしまい、実は正しい方法を知らない人も少なからずいるのかもしれません。ただ、10年以上間違った使い方をしている人はそうそういないでしょう。

取扱説明書の役割とは

筆者はネーム印を10年以上間違った使い方で使っていましたが、正しい補充方法を知ったとき、取扱説明書は製品を壊さないためだけにあるのではないのだと実感しました。
しかし、取扱説明書を最初から丁寧に読む人は、それほど多くないようです。


ある調査では、製品やサービスを利用する前に説明書や注意書きを「必ず読む」と答えた人は30.9%にとどまり、「ときどき読む」が48.7%、「ほとんど読まない」が18.6%、「全く読まない」も1.7%ありました(図3)。*3

図3:企業の情報提供の利用
出所)財団法人企業活力研究所「社会の持続的発展に向けたCSR戦略に関する調査研究報告書 ~消費者とのより良い関係づくりを目指して」P.67

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/CSR/reports/20report.pdf


多くの人は、説明書を毎回しっかり読むわけではないことがうかがえます。
また、別の調査では、若年層ほど「読まない」傾向が強く、学生は7割近くがあまり読まないという結果がでています(図4)。*4

図4:取扱説明書は読みますか
出所)一般社団法人PL研究学会「使用者における取扱説明書実態調査」P.81
https://aplics.sakura.ne.jp/ronbun/202009.pdf


この調査では「ほとんど読まない」と答えた人が全体の57%にのぼっています。読まない理由として「読まなくても使い方が分かる」「見ただけで読みたくなくなる」「読んでも意味が分からない」を挙げており、十分に活用されていないことがうかがえます。
「読まなくてもわかる」「必要な時に必要な個所を読む」といった回答も挙げられており、筆者のように「なんとなく使えているから大丈夫」と考えてしまう人は少なくないようです*4


しかし、自己流の使い方には落とし穴があります。まず、製品が本来持っている性能を十分に引き出せないことがあります。
筆者が「この製品はこういうものなのだろう」と思い込んでいたように、使いにくさの原因を製品側にあると考えてしまうこともあるでしょう。
取扱説明書は、そうした遠回りを防ぐための情報です。正しい使い方を伝えるだけでなく、製品を長く快適に使うためのコツや、適切なメンテナンス方法、やってはいけない使い方まで示してくれます。

モノづくりの現場でも「正しい情報確認」は基本

モノづくりの現場では、わずかな手順の違いが、品質や安全性、設備の寿命にまで関わることがあります。


筆者自身も、取扱説明書を十分に確認しなかったために、ポンプを早期に破損させてしまった経験があります。
ある種のポンプでは、設置時に「芯出し」と呼ばれる作業が必要です。
芯出しとは、ポンプ軸とモーター軸の軸心のずれを調整する作業のことで、この工程が不十分なまま運転すると、振動や騒音、軸受の異常摩耗等の原因になります(図5)。*5

図5:据付時の軸心のずれ
出所)株式会社荏原製作所「エバラ片吸込渦巻ポンプ FS型 取扱説明書」P.14
https://product-standard-pump.ebara.com/files/handbook/FS/FS_manual.pdf


しかし当時の筆者は、その作業の重要性を十分に理解しないまま設置を進めてしまいました。芯出しが必要であること自体は、製品の取扱説明書にきちんと記載されていましたが、事前に取扱説明書をよく読んでいなかったのです。
その結果、ポンプには早い段階で不具合が発生し、余計な手間と費用がかかってしまいました。


現場で起こるミスの多くは、「たぶん大丈夫だろう」「いつものやり方で問題ないだろう」といった思い込みや確認不足によって起こることが少なくありません。
しかも、現場ではその影響が、品質のばらつきにつながることもあれば、安全性を損なったり、設備や部品の寿命を縮めてしまったりすることもあります。
だからこそ、モノづくりの現場では「正しい情報を確認すること」そのものが基本になります。経験がある人ほど、自分の知識や感覚で判断できる場面も増えますが、それでも製品ごとに求められる条件や注意点は異なります。

取扱説明書や手順書、仕様書を都度確認することは、遠回りに見えて、実はもっとも確実にトラブルを防ぐ方法なのだと思います。


さらに、取扱説明書はPL法(製造物責任法)の観点から見ても重要です。


PL法(製造物責任法)は、消費者を保護するための法律です。製品を使用した際に生じた損害が、その製品の安全性に関わる問題に起因している場合の「製造者の責任」を定めています。
そのため事業者は、取扱説明書に「注意書き」や「安全な使用方法」などを明記し、この法律に適切に対応する必要があるのです。*6
つまり取扱説明書は、単なる付属資料ではなく、製品を安全に使ってもらうためにメーカーが果たすべき重要な役割の一つだといえます。


取扱説明書はいちばん身近な情報源

長年、ネーム印を自己流で使ってきた筆者が言っても、あまり説得力がないと思われるかもしれません。
ただ、実際に間違った使い方を続けていたからこそ、取扱説明書の大切さを強く実感しているのも事実です。


モノづくりの現場でも、思い込みや確認不足が不具合や故障につながることが多々あります。だからこそ、「たぶん大丈夫だろう」で済ませず、正しい情報を確認する姿勢が欠かせません。


取扱説明書を読むことは、一見すると手間に思えるかもしれません。しかし、そのひと手間が、余計なトラブルを防ぐいちばん確実な方法ではないでしょうか。



参照・引用を見る
*1
出所)シヤチハタ株式会社「データーネームキャップ式取扱い説明書」
https://koubou.kaunet.com/pdf/ink/s14_shachihatastamp_dataname-cap_manual.pdf

*2
出所)シヤチハタ株式会社「日付印(データーネーム) インキの補充方法」
https://www.shachihata.co.jp/support/ink/detail/?id=3758

*3
出所)財団法人企業活力研究所 「社会の持続的発展に向けたCSR戦略に関する調査研究報告書 ~消費者とのより良い関係づくりを目指して」P.67
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/CSR/reports/20report.pdf

*4
出所)一般社団法人PL研究学会「使用者における取扱説明書実態調査」P.81, *P.83
https://aplics.sakura.ne.jp/ronbun/202009.pdf

*5
出所)株式会社荏原製作所「エバラ片吸込渦巻ポンプ FS型 取扱説明書」P.14
https://product-standard-pump.ebara.com/files/handbook/FS/FS_manual.pdf

*6
出所)パナソニック株式会社「家電情報ポケットBook『取扱説明書』について」
https://jpn.faq.panasonic.com/app/answers/detail/a_id/61962

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。