従業員のホンネは? 形骸化する「ダイバーシティ」の現実

多様な属性や考え方を持つ人を組織内に受け入れ、共存する「ダイバーシティ」を経営に取り入れている企業は少なくないと思います。


うまく活用されれば組織に新しい風や気づきをもたらしますが、近年、経営層と現場との間で自社のダイバーシティへの取り組みに対する意識が乖離している、という指摘があります。


ダイバーシティについての経営層の考え、現場の考えはそれぞれどのようなものか、各種アンケート調査の結果をご紹介します。

※画像参照:中村豊『ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義』(2017)

「ダイバーシティ」の定義

まず「ダイバーシティ経営」の定義を見てみましょう。経済産業省はダイバーシティについて以下のように説明しています。


経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
 「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。 

<引用:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進>(太字は筆者による)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html


しばしば「多様な人材」のなかに「女性」が含まれているのは日本の男女平等の意識が薄い証かな、と筆者は残念に感じますが、話を進めていきましょう。


ダイバーシティへの取り組み状況

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが東証上場企業102社から回答を得た調査によれば、ダイバーシティを経営理念などに位置付けている割合は55.9%となっています。

出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「企業におけるダイバーシティ推進に関するアンケート調査」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2024/06/cr_240612_01.pdf#page=5


そして、ダイバーシティ推進の中で重要だと考えている多様性は下のようなものです。

出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「企業におけるダイバーシティ推進に関するアンケート調査」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2024/06/cr_240612_01.pdf#page=6


「女性や外国人などの属性の多様性」がトップにきています。確かにこれが最も想像しやすいダイバーシティの分野でしょう。


しかし、各カテゴリーの人材に対する取組状況について、「積極的な推進のための取組を実施している」、「コンプライアンス上の問題がないよう対応している」、「上記のいずれもしていない」の 3 段階で質問したところ、以下のような回答を得ています。

出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「企業におけるダイバーシティ推進に関するアンケート調査」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2024/06/cr_240612_01.pdf#page=9


「コンプライアンス上の問題がないよう対応している」としているという回答が最も多いゾーンになっています。


つまり、「外から叩かれないように」という色があるとも考えられるのです。


自社の取り組みを「評価できる」のは2割以下という現実

さて、組織・人材開発支援事業を手掛けるリ・カレント株式会社が全国の就業者400人を対象に実施した職場の多様性に関する調査があります。


そこでは、


1)自社で「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が実施されている」と答えた人は全体の38.6%

2)推進している企業のうち「施策を評価できる」と答えた人は全体の18.6%

3)推進が自社で進むこと「望ましい」は年代につれ増加し、20代では13.3%、30代は13.4%と低い水準


などの結果を得ています。*1


人事・経営層と現場の間にあるズレ

そしてパーソル総合研究所の調査によれば、人事・経営層と現場の感覚に大きなズレがあることもわかっています。

出所:パーソル総合研究所「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/diversity.pdf#page=27


人事・経営層が従業員によかれと思って組んでいる施策であっても、従業員側は会社・世間体のため、と受け止めているのです。


実際にアンケート調査から得られた結果を分析したところ、ダイバーシティ推進で最も重視していると思う要素は「企業イメージの向上」が最も多くなっています。

出所:パーソル総合研究所「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/diversity.pdf#page=28


ダイバーシティの本来の目的である「イノベーションの創出や新たな事業開発」「組織風土の改革、組織の活性化」を重視している従業員の割合は下位にとどまり、2割程度しかありません。施策の空回り、施策の形骸化とでも言えるでしょうか。


「葛藤派」という存在

とはいえ、従業員の心持ちは様々なようです。
同調査によると、ダイバーシティの「一般的受容度」と「個人的抵抗感」の2つの軸で測ると、葛藤を抱えている従業員が多いことがわかりました。

出所:パーソル総合研究所「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/diversity.pdf#page=20


表向きでは抵抗感が高い従業員のなかでも、その実情は「理念には賛同しているが抵抗がある」という「葛藤」層が約4割で、最も多くなっています。
頭では理解していても感情や実務が追いつかない層がボリュームゾーンになっているのです。


この層をどうポジティブに変えていくかが、現場でのダイバーシティ推進のカギになるでしょう。

誰のためのダイバーシティなのか

ここまで、ダイバーシティについて従業員個人が思うことや経営層とのズレなどについて紹介してきました。


まずダイバーシティについて、ただなんとなく「良いことだからやろう」と考えているだけでは施策は形骸化してしまうだけです。
自社の施策はどこを向いているのかを経営層と従業員が共有することが大前提です。何のために、誰のためにダイバーシティを進めるのか、それを明確にしなければ施策は意味をなしません。


また、人事が決定した採用をその後は現場に丸投げ、という状況があったとしたら、それは最悪な取り組みと言えるでしょう。


気を遣いすぎて疲れる、不公平を感じる、逆にポジティブに捉えるかどうかは、個人の価値観や人間性さえ反映していく時代になりそうです。



*1
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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000058096.html

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。

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