
2026年5月22日 09:00
工場緑化はどこまで進化した? 工場が自然と共に生きる時代へ
工場の経営においては、多くの企業が環境保全や地域住民との共生など、周辺環境との調和を重視しています。
その取り組みの一つが、工場緑化です。
工場内に緑地を設ける工場緑化は、気候変動の緩和や生物多様性の保全に寄与するだけでなく、従業員の働きやすさ向上や地域との関係強化にもつながります。
こうした工場緑化の取り組みは、近年注目されている「グリーンインフラ」とも高い親和性があります。
グリーンインフラとは、自然が持つ多様な機能を活かし、地域の魅力向上や防災・減災、環境負荷の低減につなげるという考え方です。
この記事では、工場緑化に着目し、持続可能な社会の実現において工場が求められる姿について解説します。

工場緑化とグリーンインフラの関係
工場緑化に関しては、「工場立地法」という法律によって一定の基準が定められています。
この法律は、工場の建設段階から周辺の生活環境との調和に配慮し、公害が発生しにくい仕組みを整えることで、周辺環境を守ることを目的としています。
工場立地法では、全国一律の基準として、生産施設を敷地の30〜65%以内に抑え、緑地を敷地の20%以上、環境施設は緑地も含めて敷地の25%以上とすることが定められています。
なお、環境施設には、噴水や屋外運動場、太陽光発電設備などが含まれます。(図1)。*1

図1: 工場立地法の概要
出所)経済産業省「工場立地法の規制の概要」p.1
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiiki_keizai/kojo_ritchi/pdf/033_05_s02.pdf
基準に適合しないと是正勧告や変更命令などの措置が取られ、従わない場合には罰則が科されることもあります。
都道府県や市は、国の基準をもとにしながら、地域の実情に合わせて独自のルールを条例として定めることも可能です。*1
近年では、法的基準を満たすためだけではなく、緑地を積極的に活用することで、企業価値の向上や地域との関係づくりにつなげる動きも広がっています。
こうした動きと密接に関わっているのが、近年注目を集めている「グリーンインフラ」という概念です。
グリーンインフラとは、「自然の機能や仕組みを活用したインフラ整備や社会のあり方」を目指す考え方です。
古くから存在している概念ではありますが、2011年に発生した東日本大震災で、沿岸部の松林が津波被害の軽減に貢献したことが、グリーンインフラが広く認知されるきっかけとなりました。
集中豪雨などの自然災害が激甚化している近年では、田んぼやダム、遊水池、都市緑地などをグリーンインフラとして活用し、流域全体で洪水被害を軽減する「流域治水」への期待が高まっています。
こうした流れを受け、企業や自治体もグリーンインフラの整備に力を入れ始めており、工場緑化もその一環として位置づけられています。*2
このように工場緑化は、法律で定められた単なる「義務」にとどまらず、社会課題の解決に貢献する取り組みへと進化しつつあります。

緑がもたらすさまざまな価値
緑の保全や創出といった緑地政策は、まちづくりにおいても重要なテーマの一つです。
グリーンインフラが提唱されているように、緑を増やすことは、単なる景観の向上だけでなく、さまざまな価値をもたらします。
まず、緑地は温室効果ガスの吸収や、雨水の浸透・貯留による都市型水害の軽減など、自然の機能を活かした環境負荷の低減や防災・減災に寄与します。
たとえば、工場緑化でも取り入れられることも多い屋上緑化は、都市部の温度上昇を引き起こすヒートアイランド現象の緩和に効果があることが確認されています。
次の図2は、建物の屋上に緑化区と無処理区を設け、昼間から夕方にかけて3つの時間帯で表面温度を比較したものです。*3
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図2: 屋上の緑化区と無処理区の温度の違い
出所)ウェザーニュース「ヒートアイランド現象に、街の緑化はどれくらい効果がある?」
https://weathernews.jp/news/202407/110215/
屋上緑化の実施により、気温の高い日中において、緑化区と無処理区で最大約25℃の差が観測されています。
植物が断熱材の役割を果たすことで、夏期のエアコン使用による人工排熱を抑え、ヒートアイランド現象の一因である屋上から大気への熱の放出を抑えることができます。
さらに、階下の天井温度で1〜3℃、室内温度でも0.5〜1℃程度の低減効果があり、職場環境の改善にも貢献します。*3
ほかにも、緑地の活用は、人口減少が進む地域に活力をもたらすというメリットがあります。
少子高齢化に伴う空き家の増加や地域コミュニティの希薄化が懸念されるエリアでは、空き地を市民農園や健康活動の場として活用し、人々が集い、つながる場となっています。*4
また、少し意外に思われるかもしれませんが、経済成長や国際競争力強化の観点からも、緑地の保全は重要な役割を担っています。
オフィス街や商業エリアにおける緑の整備は、空間の魅力を高めることで人の流れを生み出し、周辺の不動産価値の向上や外資系企業の誘致につながると考えられています。
東京・大手町に約3,600㎡にわたって人工的に整備された「大手町の森」は、国際的なビジネス拠点としての魅力を高めるとともに、企業のブランド価値向上やエリア全体の競争力強化にも寄与しています。*4
つまり、緑を増やすことは、環境・社会・経済の持続可能性に貢献するものであり、工場緑化もその一つとして重要な役割を果たしています。

自然や地域と共生する工場緑化の事例
工場地帯に緑をもたらしたキリンビール横浜工場
神奈川県横浜市にあるキリンビール横浜工場では、地域の活性化や課題解決に貢献する緑化の取り組みを進めています。
京浜工業地帯に位置するこの工場周辺は、もともと緑が少ない環境であったことに加え、空き地が少ないことから防災面においても課題がありました。
そこで、工場周辺に緑地や芝生広場などを整備し、緑あふれる街並みづくりに取り組んでいます(図3)。*5
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図3: 工場敷地外に整備された横浜北線・岸谷生麦線高架下 キリン緑地
出所)グリーンインフラ官民連携プラットフォーム「キリンビール横浜工場の緑地を活用した魅力あるまちづくりへの貢献」
https://green-infra-pdf.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/3-3.pdf
工場敷地内のビオトープは環境教育の場として一般にも開放されており、生物多様性の確保や普及に貢献しています。
さらに、安全な遊び場や一時避難所となる緑地も整備し、地域に開かれた憩いの場や防災の拠点としても活用されています。
このキリンビール横浜工場の取り組みは、2021年に「第1回グリーンインフラ大賞」の都市空間部門賞において優秀賞を受賞しています。*6
自然ともに歩んできた 富士通沼津工場
静岡県沼津市にある富士通沼津工場では、1976年の工場開設以来、「緑あふれるインダストリアルパーク」を目指し、工場緑化を推進してきました。
工場敷地内には桜並木や芝生庭園、ビオトープ、茶畑などが整備され、長年にわたって維持されています(図4)。*7

図4: 富士通沼津工場(航空写真)
出所)経済産業省「令和5年緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰の受賞者について」
https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/koujourittihou/ryokukahyousyou/r5_ryokukasuishinundokourousya.html
富士山の南、愛鷹山麓に位置し、茶畑と住宅地に囲まれた同工場は、外壁を設けない開放的な構造となっており、ニホンシカやタヌキといった野生動物も生息しています。*8
二酸化炭素排出削減にも積極的に取り組んでおり、ヤギの放牧による除草や、工場壁面に朝顔を用いた「グリーンカーテン」の設置など、環境負荷の低減につながる工夫がおこなわれています。
工場が単なる生産拠点にとどまらず、自然と共生する環境を形成し、従業員や地域住民にとっても癒しをもたらす空間となっています。
こうした取り組みが評価され、2023年には「令和5年緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰」を受賞しています。*7

まとめ
工場における緑化活動は、「義務としての緑化」の枠を超えて、「地域共生を目指した取り組み」へと変化しています。
緑地の確保は、環境保護にとどまらず、社会や経済の面でも多様な価値を生み出し、持続可能な社会の形成における重要な役割を担っています。
かつては、工場が公害や環境破壊などを引き起こし、「自然とは相入れない対極の存在」と見なされていた時代もありました。
しかし、近年ではこうした取り組みの広がりにより、地域に根ざし、自然と共に生きる工場のあり方が定着しつつあるのかもしれません。
参考文献
*1
出所)経済産業省「工場立地法の規制の概要」p.1, p.2
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiiki_keizai/kojo_ritchi/pdf/033_05_s02.pdf
*2
出所)SDGs ACTION!「グリーンインフラとは 取り入れるメリットや課題、事例を紹介」
https://www.asahi.com/sdgs/article/15024633
*3
出所)ウェザーニュース「ヒートアイランド現象に、街の緑化はどれくらい効果がある?」
https://weathernews.jp/news/202407/110215/
*4
出所)国土技術政策総合研究所「第1章 これからの都市に求められる緑地の役割」p.8 , p.11
https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0914pdf/ks091405.pdf
*5
出所)グリーンインフラ官民連携プラットフォーム「キリンビール横浜工場の緑地を活用した魅力あるまちづくりへの貢献」
https://green-infra-pdf.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/3-3.pdf
*6
出所)タウンニュース「キリン横浜工場緑化活動に優秀賞」
https://www.townnews.co.jp/0116/2021/03/25/567099.html
*7
出所)経済産業省「令和5年緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰の受賞者について」
https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/koujourittihou/ryokukahyousyou/r5_ryokukasuishinundokourousya.html
*8
出所)静岡県公式ホームページ 県政情報「富士通 沼津工場」p.1, p.2
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/071/169/03kyousei.pdf
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

