
2026年5月15日 09:00
電力不足の時代が到来 製造業はどう生き残るのか
生成AIの台頭によるデータセンターや半導体工場の需要増加によって、今後は国内の電力需要が増大することが予測されています。
製造業では、設備の稼働に大量の電力を必要とするため、電力不足の影響は自社の生産計画だけでなく、サプライチェーン全体に及ぶ可能性があります。
さらに、電力価格の高騰や供給規制は企業の競争力低下につながるリスクにもつながります。
かねてから工場ではさまざまな省エネ対策が進められてきましたが、今後は「受身の姿勢」だけでは乗り越えられない局面がくるかもしれません。
この記事では、現在予測されている電力不足のリスクと、電力不足に対応できる製造業のあり方について解説します。

人口が減っているのになぜ電力が不足する?
少子高齢化によって人口減少が進む日本では、将来的に電力需要も減っていくと考える方も多いのではないでしょうか。
さらに、近年は省エネ技術の進化によってエネルギー効率も向上していることから、今後の日本では、電力不足とは無縁のようにも思えます。
しかし実際には、国内の電力需要は今後増加していくことが見込まれています。
その背景にあるのが、生成AIの普及やデジタル技術の進展を受けて建設が相次ぐ、データセンターや半導体工場です。
ここ数年で急速に普及した生成AIは、膨大な学習データの処理や高度な回答生成のために大量の演算処理が必要となり、それを支えるデータセンターには消費電力の大きいサーバーが何千、何万台も設置されています。
さらに、これらのサーバーを安定的に稼働させるための冷却設備にも多くの電力が必要で、データセンター全体の電力消費を押し上げる要因となっています。
このようにデータセンターの電力消費は非常に大きく、1拠点あたりでも数十MW規模に達するといわれています。
これは一般家庭に換算すると、約1万〜1万6千世帯分の消費電力に相当する規模です(図1)。*1
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図1:データセンターが消費する電力のイメージ 出所)JOGMEC「AIの普及により電力需要が急増! 電力不足を防ぐ取り組みを解説」
https://www.jogmec.go.jp/about/publish/jogmec-news-plus/plus_vol27.html
電力広域的運営推進機関が公表した今後10年の電力需要想定では、人口減少や節電の影響がある一方で、データセンターや半導体工場の新増設などにより、需要電力量は全体として増加傾向にあると予測されています(図2)。*2

図2:今後10年の電力需要の想定(電力量) 出所)経済産業省「今後の電力需要の見通しについて」p.3
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/085_06_00.pdf
2034年度の全国の需要電力量は8,524億kWhと見込まれており、2024年度と比べて約6%増加する見通しです。
急増する電力需要が供給能力を上回ると、これまでのような電力の安定供給を維持することが難しくなるかもしれません。

電力不足によって産業界に訪れる危機
もし今後、深刻な電力不足が発生した場合、製造業にどのような影響が及ぶのでしょうか。
これまでも日本では、自然災害などの影響により、電力需給がひっ迫する局面が幾度か発生してきました。
2011年に発生した東日本大震災では、福島第一原発が被災した影響により深刻な電力不足に直面し、計画停電が実施されました。
大規模な電力を必要とする半導体工場では、震災後に一旦は生産を再開したにもかかわらず、計画停電によって再度生産停止を余儀なくされた工場もありました。
幅広い製品に不可欠な半導体の生産が滞ったことで、サプライチェーン全体に影響が広がり、電子機器や自動車などさまざまな製品の供給に支障が生じました。*3
経済産業省が2011年4月に実施した震災後の産業実態に関する調査によると、計画停電もサプライチェーン断絶の一つの要因となっており、とくに加工業では約5割の企業が影響を受けていました。*3
震災後の原子力発電所の稼働停止に加え、老朽化した火力発電の休廃止が増加したことで、2022年以降にも電力供給がひっ迫する事態が発生しています。
電力を十分に確保できない場合、電力需要が大きくなる夏季や冬季を中心に、企業や家庭に対して節電要請が発令されます。
電力の需給ひっ迫が深刻化し、企業への電力使用制限が発動されると、景気が低迷することが懸念されています。
もし企業向けの電力供給が1%減少すると、国内生産額は年間9,616億円も減少するという試算もあり、とくに製造業が大きな影響を受けます(図3)。*4

図3:1%の電力供給減少が生産に与える影響 出所)日本総研「電力不足が今後の生産下振れリスクに」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/research/pdf/13610.pdf
このように、製造業は電力を大量に消費する産業構造であることから、電力不足の影響を他産業よりも受けやすく、さらにその影響はサプライチェーン全体に波及する可能性があります。

電力不足時代にもとめられる製造業の姿とは
今後、慢性的な電力不足に陥った場合、これまでのような節電や省エネだけでは根本的な解決につながらない可能性があります。
単なる使用量削減にとどまらず、既存の大規模電源に依存せずに事業を継続することを目指す、さらに一歩進んだ取り組みが求められるでしょう。
その一例として挙げられるのが、分散型電源である再生可能エネルギーや蓄電池を活用した非常用電源の確保です。
直接的な電力不足対策ではありませんが、脱炭素推進の観点や、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の一環として、すでに多くの工場で導入が進んでいます。
物流・エネルギー分野の設備を製造するトーヨーカネツ株式会社の和歌山工場では、BCP 対策の一環として、2026年2月から新たに導入した太陽光設備の運転を開始しています。 総容量約316kWの太陽光発電設備により、工場の消費電力の約20%を再生可能エネルギーでまかなうことが可能になり、気候変動の緩和にも貢献する取り組みです。
さらに、この工場は災害時の地域住民の避難拠点としての役割も担っているため、この自家発電設備は工場機能と地域生活の両方を支える非常用電源としても活用されることが想定されています。*5
英国にあるパナソニックの工場では、2025年から純水素型燃料電池・太陽発電・蓄電池の3つを組み合わせた分散型エネルギーシステムの実証を開始しました(図4)。*6

図4:パナソニック英国工場の実証設備 出所)Panasonic Group「英国自社工場に水素を活用した再生可能エネルギー自家発電設備を導入」
https://news.panasonic.com/jp/press/jn241203-2
工場内で電力を発電・蓄電し、需要に応じて最適に制御することで、再生可能エネルギーによる電力の100%自給自足を目指す、世界にも類を見ない先進的な取り組みです。 発電時に生じる熱を空調や給湯に活用することでエネルギー効率を高めるとともに、外部電力への依存を低減し、安定した操業を維持できる体制を構築しています。
また、近年相次いだ電力ひっ迫の際に注目されたデマンドレスポンス(需給調整)も、電力が不足したときに有効な取り組みです。
デマンドレスポンスとは、消費者側が電力の供給に合わせて使用量を制御し、電力の需給バランスを調整することです。
製造業の場合、生産計画を変更し、電力需要の多い時間帯から夜間へシフトさせて設備を稼働させることで、生産量を維持しながら電力負荷の分散やピークカットを実現することができます。*7
2022年夏の電力需給ひっ迫時にも、電力の使用を抑制する下げDR(デマンドレスポンス)が実施され、多くの企業が協力したことで供給力不足に対応することができました。*8
下げDRでは、電力が足りなくなる時間帯に合わせて生産設備や空調・照明などを停止し、自家発電機の稼働、蓄電池への放電をおこなうことで、電力使用量を抑制します(図5)。*9
図5:電力の足りない時間帯に電力使用量を抑制する下げDR 出所)中部電力ミライズ「デマンドレスポンス」
https://miraiz.chuden.co.jp/business/carbon-free/demand-response/
このようにデマンドレスポンスは、自家発電設備や蓄電池設備と組み合わせて活用することで効果を発揮しやすく、電力需給の変動に応じて柔軟にエネルギーを運用することができます。
デマンドレスポンス自体は、電力不足そのものを解消するものではありませんが、電力不足の影響を和らげ、安定した操業を支える有効な手段の一つといえるでしょう。

おわりに
電力不足時代の到来に備え、製造業に求められているのは、さまざまなリスクに対応できるレジリエンス性を高めることです。
自家発電設備の導入やデマンドレスポンスの実施など、「自社の電力を自社でまかなうこと」、そして「自社でエネルギーを管理・制御できる仕組みを持つこと」が重要になるのではないでしょうか。
どんな状況でも安定して事業を継続していくためには、受動的に電力を使うのではなく、能動的にエネルギーをマネジメントする仕組みがこれまで以上に求められるのかもしれません。
参考文献
*1
出所)JOGMEC「AIの普及により電力需要が急増! 電力不足を防ぐ取り組みを解説」
https://www.jogmec.go.jp/about/publish/jogmec-news-plus/plus_vol27.html
*2
出所)経済産業省「今後の電力需要の見通しについて」p.3
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/085_06_00.pdf
*3
出所)経済産業委員会調査室「東日本大震災による我が国ものづくり産業への影響」p.138, p.140
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110601137.pdf
*4
出所)日本総研「電力不足が今後の生産下振れリスクに」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/research/pdf/13610.pdf
*5
出所)トーヨーカネツ株式会社「当社和歌山工場における太陽光発電設備の運転開始、および同工場でのBCP対策等、強化の取り組みのお知らせ」
https://www.toyokanetsu.co.jp/info/2026/0216/000980.html
*6
出所)Panasonic Group「英国自社工場に水素を活用した再生可能エネルギー自家発電設備を導入」
https://news.panasonic.com/jp/press/jn241203-2
*7
出所)経済産業省「ディマンド・リスポンスってなに?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/dr/dr.html
*8
出所)経済産業省「ディマンド・リスポンスの活用で広がる、電力需給調整の新ビジネス」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/dr_business.html
*9
出所)中部電力ミライズ「デマンドレスポンス」
https://miraiz.chuden.co.jp/business/carbon-free/demand-response/
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

