デジタル給与の普及率はどのくらい?メリットとデメリットの考え方は?

キャッシュレス決済が広がるなか、給与の受け取り方にも変化が生まれています。その一つが、資金移動業者の口座で給与を受け取る「デジタル給与」です。


まだ一般的とは言えないものの、少しずつ導入する企業も現れています。デジタル給与の実態を、仕組みや事例を交えながら見ていきましょう。


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画像: ITmedia NEWS「給与デジタル払い」6つの疑問に答える
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/15/news095.html

デジタル給与とは

デジタル給与とは、給与の一部または全部を、銀行口座ではなく、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座で受け取れる仕組みのことです。キャッシュレス決済の普及や、送金手段の多様化のニーズに対応するための制度として整備されました。


もともと労働基準法では、賃金は現金で支払うのが原則です。ただし、これまでも労働者の同意があれば銀行口座などへの振込が認められてきました。*1


筆者自身の経験を振り返ってみても、確かに勤務先から銀行口座への振り込みの同意確認がありました。当時は、銀行口座への振り込みが当たり前と思っていたので、「なぜわざわざ同意を取る必要があるのだろうか?」と思っていましたが、今になって思えば、きちんと必要な手続きをしていたのだとわかります。


デジタル給与は、そこに新たな選択肢として加わったものといえます。つまり、従来の銀行振込がなくなるわけではなく、給与の受け取り方法が多様化した、という理解が適切でしょう。


注意したいのは、デジタル給与は、企業が一方的に切り替えられる制度ではないという点です。導入には労使協定の締結が必要であり、さらに個々の労働者本人の同意も求められます。賃金の一部を指定資金移動事業者口座で受け取り、その他は銀行口座等で受け取ることもできますし、希望しない場合は、これまでどおり銀行口座などで給与を受け取ることができます(図1)。*1

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図1:デジタル給与の受け取り方イメージ
出所)厚生労働省「賃金のデジタル払いが可能になります!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001065931.pdf


また、デジタル給与には次のような注意点もあります。*1


まず、現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払いは認められません。雇用主は希望しない労働者に賃金のデジタル払いを強制してはいけません。もし、労働者本人の同意がない場合や賃金のデジタル払いを強制した場合には、雇用主は労働基準法違反となり、罰則の対象になり得ますので注意しましょう。


なお、2026年2月27日時点では、指定資金移動業者は「PayPay株式会社(PayPay給与受取)」「株式会社リクルートMUFGビジネス(COIN+(スタンダード))」「楽天Edy株式会社(楽天ペイ給与受取)」「auペイメント株式会社(au PAY 給与受取)」の4事業者のみです。*2


万が一、指定資金移動業者が破綻したときには、保証機関から弁済が行われます。*1

デジタル給与は、銀行振込に代わるものというより、給与の受け取り方を広げる新たな選択肢といえそうです。
次に、実際の普及状況を見ていきましょう。


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デジタル給与の普及率は?

デジタル給与の普及はまだ限定的です。
2024年10月に帝国データバンクが行った調査では、賃金のデジタル払いについて「導入予定はない」と答えた企業が88.8%にのぼりました。
一方で、「導入に前向き」とした企業は3.9%にとどまっており、多くの企業が慎重な姿勢を取っていることがわかります(図2)。 *3


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図2:企業における賃金のデジタル払いへの対応状況
出所)株式会社帝国データバンク「企業の『賃金のデジタル払い』対応状況アンケート」P.2
https://www.tdb.co.jp/resource/files/assets/d4b8e8ee91d1489c9a2abd23a4bb5219/ccf11a9d536543cf8a5e87024be6ba3a/20241016_%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E3%80%8C%E8%B3%83%E9%87%91%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E6%89%95%E3%81%84%E3%80%8D%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88.pdf


この結果を見ると、制度そのものは始まっていても、現場ではまだ「様子見」の段階にあるといえそうです。


導入に踏み切れない理由としては、業務負担の増加への懸念や、制度への理解不足、セキュリティリスクへの不安などが挙げられています。*3
企業側からすると確認すべき事項が多く、すぐに導入を決めにくいのが実情なのでしょう。


前述の通り、厚生労働省の指定を受けている資金移動業者は4社にとどまっています。制度としては前進しているものの、利用環境はまだ発展途上にあると見るのが自然です。 こうした状況を踏まえると、現時点のデジタル給与は、銀行振込に代わる新たな標準というより、一部企業が先行して取り入れ始めた新しい選択肢と捉えるのが適切でしょう。


正直なところ、筆者自身、デジタル給与を利用したいと思ったことはありませんでした。


普段からお金のやり取りの多くは銀行やクレジットカードを通しており、現金を使う機会はそれほど多くありません。それでも、長く使われてきた銀行という仕組みへの安心感がある一方で、電子マネーのような比較的新しい仕組みには、どこか漠然とした不安がありました。事業者が破綻したらどうなるのか、給与を本当に安心して預けられるのか、と感じていたのです。


しかし今回調べてみると、デジタル給与には、事業者の破綻時に備えた補償の仕組みがあり、口座残高の現金化も可能で、しかも給与のすべてをデジタル給与で受け取る必要もないことがわかりました。恥ずかしながら、筆者も今回調べるまでこうした制度の中身を十分に理解していませんでした。


普及率が低い背景には、こうした「なんとなく不安」「よくわからないから様子見したい」という受け取る側の心理もあるのでしょう。筆者と同じように、詳しく知らないまま漠然とした不信感を持っている人は、実は少なくないのではないでしょうか。


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デジタル給与のメリット・デメリットとは

ここで、デジタル給与のメリット・デメリットを整理してみましょう。
まず、企業側の主なメリットは次のとおりです。*4


・給与振込手数料の縮減が期待できる

・企業イメージ向上につながる可能性がある

・採用ブランディングの一つとして活用できる可能性がある


とくに人材確保に悩む企業にとっては、「給与の受け取り方を選べる」という点が差別化要素になるかもしれません。資料でも、即日払い・複数回払いが可能になれば、短期的な人手の確保や正社員の副業に好影響を与える可能性があるとしています。


一方で、企業側には次のようなデメリットもあります。*4


・新しい給与システムの導入コストがかかる

・給与の支払先が増えることで事務負荷が大きくなりやすい


給与計算や振込業務は、もともと正確性が強く求められる業務です。そこに新しい支払い手段が加われば、現場としては「便利そうだが、運用は簡単ではない」と感じるのも無理はないでしょう。


次に、労働者側のメリットです。*4


・銀行口座やクレジットカードからチャージする手間が省ける

・普段使っている決済アプリで、そのまま支払いに使いやすい

・スポットワーカーなどにとって利便性が高い


給与が直接決済アプリに入金されれば、これまで必要だったチャージの手間がなくなります。消費までよりシームレスになり、少額決済の利用機会が増えることが期待されるでしょう。


ただし、労働者側にも注意点があります。*4


・受取口座残高には上限100万円以下という制約がある

・デジタル残高には利子が付かない


便利さと安心感のどちらを重視するかは人それぞれです。デジタル給与は、すべての人にとって最適な仕組みというより、向いている人とそうでない人が分かれる制度なのかもしれません。

デジタル給与の導入事例

デジタル給与は、まだ広く普及しているとは言いにくいものの、導入に踏み切る企業は少しずつ出てきています。こうした動きはIT企業や小売業に限ったものではなく、製造業を含む幅広い業種で見られます。


大橋鉄工株式会社

自動車部品や産業機械部品の開発・生産を手がける大橋鉄工株式会社では、従業員の間でデジタルでの給与受け取りニーズが高まっていたことを背景に、PayPay給与受取を導入しました。


導入の後押しになったのは、利用中の労務管理クラウドが対応していたことで、企業側の運用負担を抑えながら進められた点です。*5

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画像: 大橋鉄工株式会社 ホームページより https://www.ohashi-tekko.co.jp/


シャープ株式会社

シャープ株式会社では、キャッシュレス決済の普及を踏まえ、従業員からの需要が今後高まることを想定して先駆けて導入を決定しました。

同社では、給与デジタル払いを「給与や賞与の一部を受け取れる第2口座」と位置づけています。こうした柔軟な受け取り方の提供が、従業員のエンゲージメント向上につながることを期待されています。 *6

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北海道コカ・コーラボトリング株式会社


北海道コカ・コーラボトリング株式会社では、2025年1月から導入した「育休サポーター支援金」の受け取り方法を増やす目的で、デジタル給与払いを導入しました。
同社では、通常給与への加算に加えて、デジタル払いを自由に選べるようにすることで、支援金をより迅速かつ柔軟に受け取れる体制を整えています。

加えて、自社の自動販売機事業とPayPayとの親和性も評価しており、従業員向けの制度にとどまらず、今後の事業提案への広がりも視野に入れている点が印象的です。*8

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画像: 日本コカ·コーラ㈱ ホームページ 北海道コカ・コーラボトリング社「白旗山の森づくり」Water Action! 実施レポートより
https://www.coca-cola.com/jp/ja/environment/activities/wateraction3-hokkaido2025



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まずはデジタル給与について知るところから

ここまで見てきたように、デジタル給与は、銀行振込に代わる新しい受け取り方法として制度化された仕組みです。とはいえ、現時点ではまだ普及が進んでいるとは言いにくく、多くの企業が様子見の姿勢を取っています。

利用者にとっても、便利そうに見える一方で、「本当に安全なのか」「使い勝手はどうなのか」といった不安が残るのも無理はありません。
前述のように、筆者自身も、どこか漠然とした不安を感じていました。長く使われてきた銀行には安心感がありますし、給与のように生活の基盤となるお金を受け取る先となると、なおさら慎重になります。

ただ、その一方で、実生活で電子マネーをまったく使っていないわけではありません。実際には、給与の一部を電子マネーにチャージして日常の支払いに使っています。そう考えると、そのひと手間が省けるのであれば、デジタル給与も意外と便利なのかもしれない、と感じ始めています。

もちろん、すべての人や企業にとって最適な仕組みとは限りません。しかし、制度の詳細を見てみると、印象は少し変わります。キャッシュレス決済が当たり前になりつつある今、今後の働き方やお金の受け取り方を考えるうえで、一度は知っておきたい制度だといえそうです。



参照・引用を見る
*1
出所)厚生労働省「賃金のデジタル払いが可能になります!」P.1~P.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001065931.pdf

*2
出所)厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

*3
出所)株式会社帝国データバンク「企業の『賃金のデジタル払い』対応状況アンケート」P.2~P.3
https://www.tdb.co.jp/resource/files/assets/d4b8e8ee91d1489c9a2abd23a4bb5219/ccf11a9d536543cf8a5e87024be6ba3a/20241016_%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E3%80%8C%E8%B3%83%E9%87%91%E3%81%AE%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E6%89%95%E3%81%84%E3%80%8D%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88.pdf

*4
出所)財務省「キャッシュレス決済および デジタル給与の展望」P.2
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202411/202411m.pdf

*5
出所)PayPay株式会社「OBC連携でスムーズ導入!給与デジタル導入で従業員満足度を強化」
https://paypay.ne.jp/biz-case/paycheck-employer/ohashi-tekko/

*6
出所)PayPay株式会社「『給与デジタル払い』で従業員に寄り添う、シャープの先進的な取り組み」
"https://paypay.ne.jp/biz-case/paycheck-employer/sharp/

*7
出所)PayPay株式会社「社員の選択肢を拡大!北海道コカ・コーラの給与デジタル払い戦略」
https://paypay.ne.jp/biz-case/paycheck-employer/coca-cola/

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。