新たな事業の柱になるかもしれない「越境EC」とは?

新たな事業の柱になるかもしれない「越境EC」 鬼塚タイガーの事例をもとに解説!

eコマースが一般的になってきた昨今、国内だけではなく海外にものを売ることのハードルは下がりつつあります。

海外向け販売でECを活用している、または検討している企業は6割強にのぼるとされ、今後も拡大が見込まれます。


今回は、インターネットを通じて商品やサービスを海外の顧客へ販売する越境ECのメリット・デメリットを整理しながら、事業の柱になり得る可能性を考えていきます。


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越境ECとは

冒頭で紹介したように、越境EC(E-Commerce)とは、インターネットを通じて、国境を越えて商品・サービスを販売(または購入)する電子商取引のことです。*1, *2

コロナ禍による生活様式の変化もあり、世界的に見てもECの市場規模は年々拡大しています。

その中で国境を超えた越境ECも活発になっており、特に中国の消費者による日本の事業者からのEC購入額は2020年時点で20,000億円に迫る勢いです(図1)。*3

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図1:越境ECの市場規模の推移(推計)
出所)中小企業庁「2022年版 中小企業白書 第4節 中小企業が対応を迫られる外部環境」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_4.html


ちなみに、世界的にみて日本製品はどの程度人気なのでしょうか。2017年時点の調査によると、製造国として信用できる国ランキングで日本は8位になっています(図2)。*2

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図2:「メイド・イン・どこ?」信用できる国ランキング
出所)日本商工会議所「越境EC/海外販売の基礎知識」P.3
https://www.jcci.or.jp/kokusai/ec_supportbook.pdf


もちろん、百十数カ国ある国の中から8位に選ばれるということは、非常に信頼されていることだと思います。
しかし、筆者はベスト3に入っているだろうと思っていたので、8位という結果は意外でした。


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どのような企業が越境ECを始めているのか

結論から言うと、越境ECは大企業ではなく、むしろ中小企業のほうが前向きです。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、海外向け販売でのEC利用(検討中を含む)は6割強にのぼります。一方、(海外向け販売で)ECを利用している企業の販売形態を見ると、日本から海外へ販売(越境EC)の割合は中小企業44.9%、大企業28.4%でした。


もう一つ特徴的なのが、海外販売の"やり方"の違いです。大企業は「海外拠点で販売する」比率が相対的に高い一方で、中小企業は「日本から海外へ売る(越境EC)」の比率が高くなっています(図4)。*4

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図3:ECの利用状況(2024年度、企業規模別)
出所)独立行政法人日本貿易振興機構 「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」P.22
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/c45cf2de4d0ebf45/20240043.pdf#page=22


つまり、現地拠点を持ちにくい中小企業ほど越境ECが現実的な手段になっているのでしょう。


加えて、「越境EC=BtoC(一般消費者向け)」と思われがちですが、ジェトロのレポートでは、海外向けECを実施・検討している中小企業のビジネスモデルはBtoBが74.0%、BtoCが65.3%(複数回答)と、企業向け販売(BtoB)もかなり多いのが特徴です。*5


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越境ECのメリット・デメリット

前述のように、多くの企業が取り組む越境ECにはメリットはもちろん、デメリットもあります。


販路拡大

越境ECの最大のメリットは販路の拡大ですが、単に販売先が増えることだけではありません。商品によっては、国内よりも海外のほうが競合が少なかったり、関心を集めやすかったりして、想定以上に伸びる市場に出会えるかもしれません。

また、インバウンドとの相性も見逃せません。訪日中に知った商品を帰国後に越境ECでリピート購入する人が一定数いるため、リピート購入につなげる仕組みにもなり得ます。*2


立ち上げと運用に手間がかかる

一方で、越境ECは始めれば自然に売れるほど甘くありません。ゼロから立ち上げるには相応の労力が必要で、事業が軌道に乗るまでに3年程度かかると言われます。

運用面も、受注処理、商品登録、サイト更新といった日々のメンテナンスに加え、海外からの問い合わせ対応、レビュー対応、返品対応、プロモーションなどが発生します。

さらに、国際物流・配送、関税、各国の規制や商習慣など、貿易・法律まわりの知識も避けて通れません。準備不足のまま進めると、出品や販売開始までに時間がかかったり、途中でつまずいたりしやすい点は要注意です。*2


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オニツカタイガーにみるEC戦略

各種Eコマース事業を手掛けるBEENOS株式会社の調査によると、帰国後に、旅行中に気に入って買った商品・ブランドを越境ECで再購入した経験がある人は44.0%。さらに、同じ店から2回以上購入したことがある人は77.6%にのぼります。メリットで紹介したように、越境ECにはリピートが起きやすい性質が現れています。

旅アト(帰国後)購入の理由には「自国で買えない」「ブランドやショップ、商品のファンになったから」などが挙がっており、旅行体験がファン化を促し、帰国後の購買を生む構図が読み取れます。*6


2025年の年間訪日外客数は42,683,600人で、年間過去最高を更新しました。*7

母数が増えるほど日本で商品を知る・好きになる機会が増え、旅アト購買(越境EC)も大きくなりやすいと言えます。

この流れを戦略として見せている例が、オニツカタイガーの体験設計です。


オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)は、日本発のスポーツシューズブランドで、1949年に鬼塚喜八郎によって創業されました。現在は、スポーツ用品メーカーアシックスが展開するブランドのひとつとして親しまれています。*8

オニツカタイガーでは、POP-UP STOREを越境ECの潜在顧客とブランドとの"出合いの場"とすべく、購入したシューズへの刺繍カスタマイズ、人気漫画とのコラボ商品の先行販売などその場でしか得られない体験を用意しています。

POP-UP STOREに関しては、顧客体験を最も重要なKPI(重要業績評価指標)として位置づけています。店舗では、訪れた人々がブランドの世界観を深く感じ取れるような体験設計に注力しており、あえて売上目標は設定していないそうです。*9


こうした「思い出化」「ファン化」は、帰国後にサイズや色を落ち着いて選び直して購入するといった越境ECの利用動機にもつながります。


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越境ECは"海外に売る"以上の意味があるかもしれない

ここまで見てきた通り、越境ECは国内にいながら世界中へ届けられる反面、物流・関税・CS・運用体制など、国内ECにはない業務が増えるため、始めれば自動的に伸びるビジネスではありません。

ただ、筆者が越境ECに新たな事業の柱としての可能性を感じるのは、越境ECが売上の獲得チャネルであると同時に、顧客との関係を継続的に築いていくための接点としての役割を担っているからです。


前述のBEENOS株式会社の調査では、旅アト購買をしなかった理由として「越境ECで購入できるかわからなかった」「検索したが気に入った商品を見つけられなかった」などが挙げられています。*6

店舗や接客で満足して終わるのではなく、帰国後も買える導線(QRコードの掲載、英語表記の商品名、欲しいものを検索しやすいホームページの設計など)を渡すだけで、旅アト購買の確率を上げられる可能性があります。


オニツカタイガーの事例は象徴的で、体験型ストアで世界観を伝え、出会いをつくり、帰国後は越境ECで購入・再購入できる。そんなリアルの接点とオンラインの受け皿をつなげることで、国境を越えた販売戦略が成立し、顧客接点を将来につなぐ仕組みとして再定義されつつあるようにも見えます。


さらに、越境ECが「売れる国」を探す手段にもなる点もポイントです。もちろん、国内での勝ち筋がそのまま海外で通用するとは限りません。

しかし逆に言えば、小さく始めて反応を見ながら、どの国・どの客層・どの商品が刺さるのかを確かめられます。越境ECは、海外拠点を作る前に市場との相性を検証できる、現代的なテストマーケティングの場でもあります。


結局のところ、越境ECの価値は「海外に売れるか」だけで決まりません。越境ECを通じて、どんな顧客と、どんな関係を、どう継続するのか。この問いを持てた企業にとって、越境ECは単発の販路拡大ではなく、次の成長をつくる"柱"に近づいていくのではないでしょうか。



参照・引用を見る
*1
出所)NTTドコモビジネス「越境ECとは?意味・定義」
https://www.ntt.com/bizon/glossary/j-a/ekkyou-ec.html

*2
出所) 日本商工会議所「越境EC/海外販売の基礎知識」P.3, P.10
https://www.jcci.or.jp/kokusai/ec_supportbook.pdf

*3
出所)中小企業庁「2022年版 中小企業白書 第4節 中小企業が対応を迫られる外部環境」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_4.html

*4
出所)独立行政法人日本貿易振興機構 「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」P.22
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/c45cf2de4d0ebf45/20240043.pdf#page=22

*5
出所)独立行政法人日本貿易振興機構「越境ECを中心に、中小企業のEC活用が進展(世界、日本)」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2022/0301/356a608f3e048cb0.html

*6
出所)BEENOS株式会社「越境ECを利用する海外のお客様1,345名に聞いた、 越境ECの利用意向に関する意識調査」
https://beenos.com/news-center/press-release/20250106_bns_pr/

*7
出所)日本政府観光局「訪日外客数(2025年12月推計値)」
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html

*8
出所)株式会社アシックス「アシックスの歴史 」
https://corp.asics.com/jp/about_asics/history

*9
出所)日本経済新聞「オニツカタイガー『越境EC戦略』LTV向上2つのカギ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC164M90W4A110C2000000/

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。