
2026年2月13日 09:00
CO2排出量を「売買」する? カーボンクレジットとは
※表紙写真はイメージです。売買には一定の規制があり、その内容は各国の法律やルールによって異なります。
2026年4月からはじまる排出量取引制度、売買される「カーボンクレジット」とは?
世界的に温室効果ガスの削減が急がれるなか、2026年4月から日本で「排出量取引制度」が本格始動します。
温室効果ガスの削減は、業種によって達成しやすかったり難しかったりします。
そこで削減できた企業の「残った排出枠」を削減が難しい企業が購入することで、全体として温室効果ガスの排出量をプラマイゼロにしようという考え方です。そこで売買されるのが「カーボン・クレジット」です。
カーボンクレジットについての詳細や、活用事例などを探っていきましょう。

カーボンクレジットの定義と歴史、背景
まず、カーボンクレジットの概念と定義について簡単に説明します。*1
カーボンクレジットとは、個人や企業が、CO2排出削減・除去の取り組みを行った結果を認証したものです。CO2を1トン削減・除去するごとに1クレジットが発行されます。
似た言葉に「カーボンオフセット」があります。「オフセット」は「相殺する」という意味を持ちます。例えばある企業が工場等で排出したCO2に対し、植林など別のCO2削減・除去活動を実施したり、第三者がCO2を削減・除去する活動を行い発行したカーボンクレジットを購入したりすることで、工場からの排出量を削減したと見なす(相殺する)行為です。

カーボンオフセット
(出所:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「カーボンクレジットとは? 仕組みや今後の展望について解説!」)
https://www.jogmec.go.jp/publish/plus_vol26.html
これにより、クレジットを購入することで一定量の温室効果ガス排出を「なかったことにできる」というのがカーボンクレジット売買の仕組みです。
なお、カーボンクレジットの概念は、1997年の京都議定書にさかのぼります。*2
京都議定書では先進国に対して温室効果ガスの排出削減目標を設定し、その達成手段として導入されたのがクレジット取引です。温室効果ガスの排出削減がビジネスになった瞬間といえるでしょう。
さらに2015年のパリ協定でさらなる温暖化対策の強化が求められ、カーボンクレジットの役割が一層重要視されることになりました。特に、CSR基準の強化に伴い、カーボンクレジットの需要は増加しています。

カーボンクレジットの取引状況と「義務化」とは?
海外ではすでに、民間企業やNGOが認証・発行する「ボランタリークレジット」が稼働しています。

主要ボランタリークレジットによるカーボンクレジット発行量
(出所:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/006_03_00.pdf p.7
ほぼ右肩上がりといって差し支えないでしょう。
また、唯一詳細な情報を公表しているXpansivによれば、カーボンクレジットの価格は以下のように推移しています。

カーボンクレジットの価格推移
(出所:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/006_03_00.pdf p.20
市場取引ですから、カーボンクレジットの価格は需要と供給のバランスで決まります。2020年以降、高騰している様子がうかがえます。
日本では「J-クレジット」が稼働
日本では政府や自治体を中心にした「J-クレジット」の制度が以前からあり、東京証券取引所で取り扱われています。*3

J-クレジット認証量の推移
(出所:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向」)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/006_03_00.pdf p.37
ただ、これは任意参加です。2026年度からは、CO2排出量が年間10万トン以上の企業に参加を義務づけ運用を本格化します。運輸業など300~400社が対象になる見込みです。*4
政府が企業に対し毎年度の排出量を定めた「枠」を無償で割り当て、企業は枠の範囲内で排出していれば負担は生じません。かつ排出実績が少なく枠が余れば、枠が足りない企業に売却したり、将来に繰り越したりすることができます。
一方で、枠を超えて排出した場合には他社から枠を買ったり、排出削減効果が認められたクレジットを購入したりして埋め合わせる必要があります。埋め合わせができないと、超過分に応じた負担金をペナルティーとして支払わなければならない仕組みです。
取引制度で先行する海外では、排出量のカバー率が欧州で4割、韓国で7割となっています。日本は欧州をはじめとする海外並みの参加義務を課す予定です。

カーボンクレジットの活用事例
さて最後に、カーボンクレジット活用の好事例を挙げていきましょう。
まず、J-クレジットを「創出する」メリットです。
J-クレジットによる資金循環
大林組は保有技術である低炭素型コンクリート「クリーンクリート」を普及拡大することでコンクリート製造時のCO2排出量を削減し、J-クレジットを創出しました。このクレジットの売却で得られた利益を新規のプロジェクトに活用するなどして、さらなる低炭素技術の開発に充てています。*5

大林組のJ-クレジット発行
(出所:J- クレジット特設サイト「低炭素型コンクリートの活用でCO2排出量を削減し、J-クレジット化!より一層の普及拡大への原動力に!」)
https://japancredit.go.jp/case/18/
CO2の削減が現金となり新プロジェクトのための資金に充てられていくため、リーズナブルかつ持続可能な技術開発が進んでいくことでしょう。
購入したクレジットの有効活用
また、クレジットの購入にメリットを感じている企業もあります。
愛媛・香川・岡山県内でスーパーを運営、あるいは納品する企業の団体「瀬戸内 里山・里海どんぐり大作戦」参加企業はJ-クレジットを購入し、その分食品や日用製品などに「どんぐりマーク」をつけ商品の付加価値を上げました。*6

「どんぐりマーク」参加商品(平成27年)
(出所:J-クレジット制度特設サイト「取組事例集」)
https://japancredit.go.jp/case/data/use_03.pdf p2
この「どんぐりポイント」は、「愛媛の森林(もり)基金」「どんぐり銀行」やNPO法人へ寄付され、地域に貢献する良い循環を作っていると言えるでしょう。

マイナスを補填するだけの導入にならないように
ここまでカーボンクレジットについて紹介してきましたが、CO2排出量が市場取引できるというこの制度の利用にあたっては、注意したいポイントがあると筆者は考えています。
それは自社の削減努力や地域などへの還元なしに、惰性で排出量のオーバー部分を埋めるために買い続けるのはよくない、ということです。
削減するつもりがない慢性的なクレジット購入とも言えるでしょうか。
カーボンクレジットはあくまで、机上でのCO2削減方法です。現代では、温室効果ガス排出は少なすぎて困ることはありません。
すべてをお金で解決する、というような発想ではCO2排出量は減りませんし、カーボンクレジットはCO2削減に積極的な企業に資金が流れる仕組みです。このトレンドに早くついていかなければ、気づいた時には多額のクレジット負債を抱えることになるでしょう。
*1
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「カーボンクレジットとは? 仕組みや今後の展望について解説!」
https://www.jogmec.go.jp/publish/plus_vol26.html
*2
丸紅新電力「カーボンクレジットとは?仕組みや価格、企業のデメリットを徹底解説」
https://denki.marubeni.co.jp/column/carbon_credits/
*3
日本取引所グループ「市場参加者」
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/participants/index.html
*4
日本経済新聞「排出量取引、年10万トン以上の企業に義務化 300〜400社」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA191M10Z11C24A1000000/
*5
J-クレジット制度特設サイト「低炭素型コンクリートの活用でCO2排出量を削減し、J-クレジット化!より一層の普及拡大への原動力に!」
https://japancredit.go.jp/case/18/
*6
J-クレジット制度特設サイト「取組事例集」
https://japancredit.go.jp/case/data/use_03.pdf p2

清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。
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