今注目のスポットワーク人材 製造業では活用できるのか?

人手不足が深刻化する中、今急速に広がっているのが「スポットワーク」という新しい働き方です。数時間から数日といった短期間だけ働くスタイルは、飲食や物流だけでなく、製造業の現場でも活用され始めています。

急拡大のスポットワーク市場

スポットワークとは、継続した雇用関係を結ばず「明日の午後だけ」「数日だけ」といった短期間で働くスタイルです。


2019年には数百万人だったスポットワーク登録者数は、2024年には2,000万人を突破しています(図1)。*1


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図1:スポットワーク登録者数推移
出所)財務省「スポットワーク市場の動向と展望について」P70~
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202412/202412l.pdf


タイミーやメルカリ ハロといったスポットワーク仲介事業者のサービスには、数百万人もの働き手が登録しています。例えば、タイミーは2024年10月時点で900万人もの登録会員数があります。*1

2024年平均の労働力人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)が 6957 万人ですから、約13%の人がタイミーに登録していることになります。*2


なぜスポットワークはこのように急拡大しているのでしょうか?


まず、働く側のニーズが大きく変化しました。「自分のライフスタイルに合わせて働きたい」という人が増えています。授業や就活で忙しい大学生、家庭の事情で決まった時間に働けない主婦、副業で収入を増やしたい会社員など、様々な事情を抱える人たちにとって、「明日の午後だけ」「今週末の数時間だけ」といった柔軟な働き方は魅力的です。


一方、雇う側も深刻な人手不足に直面しています。飲食業や宿泊業では、コロナ禍で激減した仕事が訪日客の回復で急増するなど、需要の波が激しくなりました。「今日の夜だけでも人手が欲しい!」という切実なニーズに、スポットワークがぴったりハマったのです。


国も2018年から副業を推進し始め、社会全体がひとつの会社に縛られない働き方を受け入れる土壌ができたことも一因です。*3

さらに、2019年4月の働き方改革関連法施行により、労働条件通知書の電子化が認められたこともスポットワーク普及の大きな追い風となっています。これまで、雇用契約には必ず紙の書類が必要でしたが、電子契約で完結できるようになりました。企業側は事務手続きの負担を軽減でき、ワーカー側はよりスピーディーに仕事を開始できるようになったのです。*4

2024年時点で、スポットワーク登録者で最も多い属性は正社員です(図2)。*1


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図2:スポットワーク登録者の属性
出所)財務省「スポットワーク市場の動向と展望について」P71
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202412/202412l.pdf


日本労働組合総連合会が実施した「スポットワークに関する調査2025」によると、「生活のために収入を得たい」、「空いた時間を有効活用したい」という理由で働いている人が多いことがわかります(図3)。*5


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図3:スポットワークで働こうと思った理由
出所)日本労働組合総連合会「スポットワークに関する調査2025」P3
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20250123.pdf


終身雇用が崩壊したと言われる昨今、正社員として雇用されているといっても、将来への漠然とした不安を感じている人も少なくありません。*6

不安定な経済状況や、企業の業績変動などを考慮すると、本業の収入だけでは十分な生活基盤が築けない、あるいは将来設計が難しいと感じるケースが増えています。そこで、スポットワークは、手軽に始められる副収入源として、多くの正社員にとって魅力的な選択肢となっているのです。


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製造現場におけるスポットワーク人材の活用は可能?

製造業では、「専門知識や経験がないと難しい」というイメージが先行し、スポットワークの導入に慎重になる担当者が多いのではないでしょうか。

確かに、スポットワークの活用が多い業種は、物流の軽作業が最も多く、その後に飲食と小売が続きます。*4

製造業という言葉からイメージする「ものづくり」のスポットワークは、なかなかないかもしれません。


一方で、興味深い調査結果もあります。B to B向けのクラウドサービスの開発を行う株式会社スタディストが実施した「スポットワーカーの活躍」に関する調査によると、「スポットワーカーの職場での活躍に満足していますか。」という設問に対し、満足しているという回答が最も多かったのは製造業です(図4)。*7


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図4:スポットワーカーの活躍満足度
出所)株式会社スタディスト「スポットワーカー活用の満足度、マニュアル整備等の準備有無で2.6倍の差 ―製造・物流・卸・小売・飲食・サービス・医療/福祉業におけるスポットワーカーの活躍調査―」
https://studist.jp/news/pr_231222


「若い人が多く来てくれたので生産スピードがかなり上がった」とのコメントもあり、現場ではポジティブな変化が起きているようです。

さらに、「今後もスポットワーカーと働きたいと思いますか。」という設問に対し、そう思うと答えた人が最も多かったのも製造業です(図5)。*7


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図5:今後もスポットワーカーと働きたい人
出所)株式会社スタディスト「スポットワーカー活用の満足度、マニュアル整備等の準備有無で2.6倍の差 ―製造・物流・卸・小売・飲食・サービス・医療/福祉業におけるスポットワーカーの活躍調査―」
https://studist.jp/news/pr_231222


精密な作業や高度な専門知識を要する工程では、スポットワーカーの活躍は難しいかもしれません。しかし、単純作業や補助業務であれば、未経験者でも短期間で戦力になり得る可能性を秘めています。「スポットワーカーの活躍」に関する調査では、「機械のオペレーター業務を任せてみたい」という声も挙がっています。*7


つまり、経験やスキルがなくても、研修の実施やマニュアルの整備で、一定レベルの業務をこなせるようになる可能性は十分にあるのです。複雑な工程だけでなく、日々のルーチンワークや補助的な業務にスポットワーカーの力を借りることで、正社員の皆さんはより専門性の高い業務に集中できるようになるかもしれません。これは、人手不足に悩む製造現場にとって、まさに救世主となり得るのではないでしょうか。


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スポットワークを通じた採用も

スポットワークは一時的な人材確保の手段だけではなくなっています。「この職場、なんかいいかも!」と思ってもらえれば、そこから正社員へ登用につながる場合があります。


ある金属加工の会社では、近隣の工業高校や派遣会社に求人を出しても人が集まらない状態でした。

しかし、「溶接経験者限定」という専門性の高い募集を掲載したところ、数時間で全日程が埋まったそうです。

多くのスポットワーク仲介業者は成果報酬型なので、マッチングした時だけ手数料を払えばいいシステムです。月額数万円の求人広告を出しても応募ゼロだったというリスクもありません。*8


まずは短期間で一緒に働いてみて、お互いの相性を確かめる。企業にとってもスポットワーカーにとっても、ミスマッチを防ぎ、長期的な雇用に繋げる賢い方法と言えるでしょう。製造業でも、この「お試し勤務」でスポットワーカーを受け入れることで、未来の正社員候補との出会いが生まれるかもしれません。


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スポットワーカーに選ばれる職場とは?

では、具体的にどのような職場がスポットワーカーに選ばれやすいのでしょうか?


まず大前提として、「働く条件」が明確であることが重要です。時給はもちろん、作業内容、勤務時間、場所などが具体的であればあるほど、応募のハードルは下がります。「軽作業」とだけ書かれた求人より、「段ボールの組み立て(1時間に約50個)」と具体的に書かれている方が、働くイメージが湧きます。*9


組織・人事コンサルティングや人材開発・教育支援などを行う株式会社パーソル総合研究所が行った「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」によると、スポットワーカーからは「教え方がわかりにくい」、「マニュアルがない」、「既存従業員の態度が冷たい」といった声が多く上がっています。この結果から、スポットワークにおける受け入れ体制や職場環境に課題があることがわかります。*10


まず必要なのは、わかりやすいマニュアルの整備です。初めての人でも迷わずに作業できるマニュアルを用意しましょう。

既存従業員への意識改革も必要です。「どうせすぐいなくなる人でしょ」という冷たい態度は、すぐに伝わってしまいます。むしろ「短時間でも助けに来てくれた仲間」として温かく迎え入れる文化づくりが大切です。

そして、業務の「細分化」も欠かせません。


例えば、「製品検査」という大きな仕事を、「外観チェック」「寸法測定」「梱包」といった具合に細かく分解することで、未経験者でもすぐに取り組めるタスクが生まれます。*11

人手不足の今だからこそ、「また来たい」と思ってもらえる職場づくりが企業の生き残りを左右します。

広がるスポットワークの輪

スポットワークといえば飲食店や物流倉庫をイメージする方が多いでしょう。なんと今、中学校の部活動指導者まで、スポットワークでマッチングする時代になりました。


スポットワーク仲介大手のタイミーが日本体育大学と手を組んで始めたのが、部活動指導者と学校をつなぐ新しい取り組みです。日体大が養成した指導者が、タイミーのアプリを通じて、指導者不足に悩む学校とマッチングします(図6)。*12

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図6:学生と部活指導のマッチングフロー
出所)株式会社タイミー「タイミー、日本体育大学と相互連携に関する協定を締結 ーー日本体育大生の学業とアルバイトとの両立、中学校部活動の地域展開の実証を開始」
https://corp.timee.co.jp/news/detail-4860/


これまで部活動の外部指導者を探すのは、学校にとって大変な作業でした。各地方公共団体が人材確保の取組みを進めているものの、指導者の確保に悩んでいます。

スポットワークの仕組みを使えば、必要な時に必要なスキルを持った人材を見つけられます。*12

さらに、タイミーは各地の商工会議所と連携をはじめ、鎌倉、京都など、すでに2025年9月9日時点で21の商工会議所と協定を結んでいます(図7)。*13

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図7:タイミーと商工会議所の連携
出所)株式会社タイミー「タイミー、鎌倉商工会議所と包括連携協定を締結」
https://corp.timee.co.jp/news/detail-5152/


観光地では繁忙期と閑散期の差が激しく、「桜の季節だけ」「紅葉シーズンだけ」人手が欲しいというニーズがあります。第一次産業人口の割合が高い地域では、少子高齢化が進み、労働力の確保が課題です。*13, *14


人口減少と高齢化で働き手が減る中、潜在労働力を掘り起こす手段として、スポットワークに注目が集まっているのです。主婦や学生、定年退職したシニアなど、フルタイムでは働けないけど「週に数時間なら」という人たちを、地域経済の担い手として活用しようとしています。


スポットワークはもはや人手不足を埋める緊急手段から、地域課題を解決する社会インフラへと進化しつつあります。


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さいごに

スポットワークには確かに課題もあります。「労務管理が煩雑になるのでは?」「スキルのない人が来て、かえって足手まといになるのでは?」という不安の声もよく聞きます。

実際、労働条件の相違によるトラブルや、最悪の場合は"闇バイト"への悪用といったリスクも存在します。だからこそ、健全な発展のためには、仲介業者の質の担保や、企業側の受け入れ体制の整備が欠かせません。*1

しかし、仲介業者を利用した企業の中には、機密情報を扱う工程と単純作業を分離し、作業場所を物理的に分けることで情報漏洩リスクを最小化した事例もあります。

さらに興味深いのは、スポットワークが「採用の入口戦略」として機能し始めていることです。この企業では「製造業ってきついイメージがありましたが、こんなに楽しい職場なんですね」というワーカーの声も聞かれています。実際に体験してもらうことで、製造業への偏見が解け、将来の正社員候補との出会いも生まれているのです。*15


終身雇用が揺らぎ、働き方が多様化する今、企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」へと立場が変わりつつあります。人手不足に悩む製造現場にとって、スポットワークは単なる一時的な人材確保策ではなく、持続可能な成長戦略の一つとなり得るのです。


まずは小さな一歩から。単純作業の切り出しと、温かい受け入れ体制づくりから始めてみてはいかがでしょうか。「また来たい」と思ってもらえる職場は、きっと正社員にとっても働きがいのある職場になるはずです。


参照・引用を見る
*1
出所)財務省「スポットワーク市場の動向と展望について」P70~71
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202412/202412l.pdf

*2
出所)総務省統計局「労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)平均結果の概要」P1
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/gaiyou.pdf

*3
出所)日本経済新聞「スポットワークなぜ広がる?多様な働き方求め、背景に人手不足も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD199PQ0Z10C25A6000000/

*4
出所)公益財団法人吉田秀雄記念事業財団「スポットワークがもたらす 『自分の時間で社会貢献』
https://www.yhmf.jp/as/postnumber/vol_92_05-1.html

*5
出所)日本労働組合総連合会「スポットワークに関する調査2025」P3
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20250123.pdf

*6
出所)株式会社マネーフォワード「終身雇用とは?割合や崩壊と言われる理由、企業がすべき対策」
https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/73756/

*7
出所)株式会社スタディスト「スポットワーカー活用の満足度、マニュアル整備等の準備有無で2.6倍の差 ―製造・物流・卸・小売・飲食・サービス・医療/福祉業におけるスポットワーカーの活躍調査―」
https://studist.jp/news/pr_231222

*8
出所)株式会社タイミー「専門性の高い経験者とのマッチングに成功。小さな町工場がタイミーを通じて人材の長期採用を果たした理由」
https://timee.co.jp/business/f/niiborikougyou

*9
出所)株式会社タイミー「求人掲載の注意事項」
https://clients-help.timee.co.jp/hc/ja/articles/16824137791129

*10
出所)株式会社パーソル総合研究所「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/spot-work/

*11
出所)KPMGジャパン「スポットワークが促す将来の働き方変化と企業の人材獲得におけるポイント」
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2024/06/spotwork-talent-acquisition.html

*12
出所)株式会社タイミー「タイミー、日本体育大学と相互連携に関する協定を締結 ーー日本体育大生の学業とアルバイトとの両立、中学校部活動の地域展開の実証を開始」
https://corp.timee.co.jp/news/detail-4860/

*13
出所)株式会社タイミー「タイミー、鎌倉商工会議所と包括連携協定を締結」
https://corp.timee.co.jp/news/detail-5152/

*14
出所)株式会社タイミー「タイミー、三浦商工会議所と包括連携協定を締結」
https://corp.timee.co.jp/news/detail-5120/

*15
出所)タイミーラボ「人が集まらないストレスから解放された」採用の入口としても期待が高まる、塗装業のタイミー活用法
https://lab.timee.co.jp/blog/mylife/interview0070

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。