
2025年7月11日 09:00
生成AIでものづくりの現場はどう変わる?工場での導入事例も紹介
製造業が生成AI市場の牽引役に 設計、製造、メンテナンス...どんなところに使われている?
製造業には材料の調達から製造、製造管理、流通、製造機器の保守管理、サプライヤーの管理など様々な工程があります。
それと同時に部品の軽量化・小型化や、人手不足に対応するために工程の短縮も進めていかなければなりません。
そのような中、製造業でも多くの工程でAIを活用する試みが始まっています。
生成AIの牽引役は製造業
生成AIの火付け役となったChatGPTはいま多くの業種で取り入れられています。
アメリカのセキュリティ会社Zscalerが2023年に公表したレポートによれば、その中でも、業務でChatGPTを活用している企業を業界別にみると下のようになっています。
業界別のChatGPTユーザーの内訳
(出所:「Analysis of Generative AI Trends and ChatGPT Usage」Zscaler)
https://www.zscaler.com/blogs/security-research/analysis-generative-ai-trends-and-chatgpt-usage#ai-ml-usage-trends
トップは製造業で21.2%、次が金融業で14.0%、サービス業が13.4%と続いています。
また、アメリカなどに拠点を置くGlobal Market Estimatesによれば、製造業での生成AIの世界市場は2023年から2028年にかけて約20%の年平均成長率を示すとの予測もあります。*1
自動車、エレクトロニクス、航空宇宙、消費財業界における製品設計、予知保全、効率向上に役立てられています。精度向上、在庫コスト削減、分析能力向上によってコストを削減できると期待されているのです。
どんなところに生成AIが使われている?
では、実際どのような工程に生成AIを使っていけそうなのか、国内外の先進例を見ていきましょう。
設計をAIに任せて車両を軽量化
例えばジェネレーティブデザインという考え方があります。*2
ChatGPTやDall-Eなどは文章や画像を生成しますが、ジェネレーティブデザインのアルゴリズムは製品を設計するために利用されます。デザイナーが材料、希望する製品サイズと重量、使用する製造方法、コストといったパラメータを入力すると、AIが設計図と指示書を生成します。
米ゼネラル・モーターズはすでにこのアルゴリズムを用いて部品の最適化と車両の軽量化を実現しました。生成された複数の設計案を実際の環境下でシミュレーションし評価・選定しています。*3
CADデータと条件送信後、1分で見積もり
また、CADデータと条件や数量を送信するだけで、1分で見積もりを提出するというシステムもあります。
ミスミグループの「meviy(メビー)」です。
「meviy」利用の流れ
(出所:株式会社ミスミ meviy商品サイト)
https://meviy.misumi-ec.com/ja-jp/
従来、部品の発注には立体を2Dの図面にばらしたものが必要ですが、3DであるCADデータをそのまま送信すれば良いほか、これまでになかった形上の部品製作を行うサービスも展開しています。
部品発注のための2D図面の作成には多くの時間を要していました。それを大幅にカットできるサービスです。
meviyによる時間短縮
(出所:ミスミ株式会社「meviy総合カタログ」)
https://pages.jp.meviy.misumi-ec.com/asset/meviy_service.pdf p1
meviyでは図面の作成、見積もりの手間と待ち時間を9割以上カットできるとしています。
自然言語で動かせるロボット
AIを搭載したヒューマノイド(ヒト型ロボット)も製造業の中で注目を集めています。
これまでロボットを操作するとなると、専門用語やプログラミングが必要でした。
しかし自然言語処理が可能な生成AIを搭載することで、まるで会話しながらロボットに作業を手伝ってもらうような感覚をもたらすことが可能になりそうです。
米Agility Roboticsや米Kind Humanoidなどの企業は、自然言語処理(NLP)を搭載し、口頭での指示を聞いて対応できるヒト型ロボットを開発しました。また米Figure AIは自社のヒト型ロボットに言語処理機能だけでなく視覚機能を持たせるために、米Open AIと提携しています。*4
製造業でのヒト型ロボットの試験運用は特に自動車産業で進んでおり、独メルセデス・ベンツ、BMWはロボット開発会社とそれぞれ連携し、工場への導入を試みています。また米テスラは工場用のヒト型ロボットを自社開発しました。
サプライチェーンの可視化
また現代の製造業では、原材料の調達先についてもステークホルダーから高い関心が寄せられているといえます。大規模な環境破壊を行っていたり劣悪な環境で労働者を雇用したりしているサプライヤーとの関係は、それだけで企業価値を棄損してしまいます。
そこで生成AIの登場です。
生成AIは、複雑なサプライチェーンネットワーク全体の可視性を高め、部品表の仕様、原材料の入手可能性と納期、サステナビリティ指標といった関連基準に基づいて最適なサプライヤーを推奨することも可能です。*5
自然言語処理を用いて法的文書や契約書から条項を抽出する能力に長けており、サプライチェーンに関するリアルタイムのインサイトを提供することで、意思決定の改善を支援できるようにもなるでしょう。
また、自然災害への備えにも一役買いそうです。マイクロソフトの「Dynamics 365 Copilot」では、ある地域で気象災害が発生した場合、AIがサプライヤーの被害状況をインターネットを通じて調べ上げます。そのうえで、直接的な被害情報が無くても、過去の同様の事象から材料供給に影響を及ぼしそうなサプライヤーを洗い出して報告してくれるという機能を持っています。*6
さらにサプライヤーに実際に被害が出ていないか、伺いを立てるためのメールまで作成してくれるため、緊急時の対応にかかる負担を軽減してくれます。
「製造業はAIに奪われる」のではない
「工場の仕事はいずれAIに奪われるのでは」
生成AIが台頭したとき、よく囁かれた話です。
しかし製造業での生成AI導入の現状をみると、生成AIは「人を助ける」存在として働いています。
もちろん人間がこなさなければならない作業は減りますが、それはすなわちその人手が不要になるというわけでもありません。AIに仕事を奪われるかどうかは、AIのおかげで浮いた時間をどう活用するかというアイデアがあるか否かがカギを握っています。
生産性の工場や新事業、従業員の労働環境改善のため、という前向きな前提がなければ、AIは単なる敵になってしまうでしょう。それはあまりにも勿体ないことではないでしょうか。
*1
Global Market Estimates「Generative AI in Manufacturing Market」
https://www.globalmarketestimates.com/market-report/generative-ai-in-manufacturing-market-4297
*2
Forbes「Artificial Intelligence In Manufacturing: Four Use Cases You Need To Know In 2023」
https://www.forbes.com/sites/bernardmarr/2023/07/07/artificial-intelligence-in-manufacturing-four-use-cases-you-need-to-know-in-2023/
*3
Forbes「The Future Of Manufacturing: Generative AI And Beyond」
https://www.forbes.com/sites/bernardmarr/2023/07/25/the-future-of-manufacturing-generative-ai-and-beyond/
*4
日本経済新聞「製造業で生成AI活用進む テスラはヒト型ロボット導入へ」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC104L30Q4A610C2000000/
*5
Google「製造業が生成型AIを導入するための5つのユースケース」
https://cloud.google.com/blog/topics/manufacturing/five-generative-ai-use-cases-for-manufacturing
*6
日経クロステック「ChatGPTで保守点検支援など、MSやシーメンスらが製造業の生成AI活用事例を披露」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02435/042100004/

清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。