
2025年6月20日 09:00
ものづくりの世界で女性活躍は進んでいる?すべての人が働きやすい職場を目指すには
ものづくりの世界では女性は少数派、そんなイメージはありませんか?
実際、厚生労働省の調査によれば、2023年の製造業における女性労働者の割合は22.4%となっており、決して高い数字ではありません。
製造業で女性の活躍を進めるためには、理工系人材における女性比率の低さだけでなく、業務内容や勤務時間などの体制に関するさまざまな課題があります。
しかし、製造業は工場稼働の効率性の観点から、ゴールデンウィークや年末年始などに長期休暇が設定されていることが多いため、ワークライフバランスが実現しやすいという見方もあります。
この記事では、製造業における女性活躍の現状と課題、企業の取り組みについて紹介します。
製造業で女性社員はいまだに少数派?
女性活躍に関する政府の取り組みの影響もあり、女性の社会進出は確実に進みつつあります。
内閣府男⼥共同参画局が2022年に実施した調査によれば、女性就業者数は、2012年〜2021年の9年間で約340万人増加しています。(図1)*1
図1 :女性就業者の推移
出所)内閣府男⼥共同参画局「⼥性活躍に関する基礎データ」p.1
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000116409.pdf
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により一時的に減少しているものの、2021年には
女性就業者は3,000万人を突破しています。
女性の生産年齢人口(15歳〜64歳の人口)における就業率に関しては、OECDに加盟している38カ国中13位で、平均を上回っています。*1
また、これまで日本の女性就業者は、結婚・出産をきっかけに一度退職し、育児が落ち着いた頃に再び復職するパターンが多く、労働力率の割合はM字カーブを描くことが知られていました。
近年では、M字カーブの底が浅くなり、他の先進国が描く台形のカーブに近づいています。(図2)*1
図2 :女性の年齢階級別労働力率の国際比較
出所)内閣府男⼥共同参画局「⼥性活躍に関する基礎データ」p.4
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000116409.pdf
このように女性活躍が進みつつある日本ですが、ものづくりの世界は依然として男性中心のイメージが根強いのではないでしょうか。
厚生労働省がまとめた女性活躍推進に関する資料によると、製造業における女性労働者の割合は22.4%、他の産業と比較して著しく低いわけではありませんが、産業全体の平均の26.8%は下回っています。*2
産業ごとの女性労働者比率と女性管理職比率を見てみても、製造業はどちらも低くなっています。(図3)*3
図3 :女性労働者比率×女性管理職比率
出所)総務省「⼥性活躍の推進に関する政策評価 ー実地調査結果の中間公表ー」p.4
https://www.soumu.go.jp/main_content/000605298.pdf
製造業で女性が少ない理由と業界が抱える課題
製造業に女性が少ない理由の一つとして、そもそも理工系人材における女性比率が低いことが考えられます。
日本の高等教育機関の入学者に占める女性割合は、「自然科学・数学・統計学」「工学・製造・建築」のどちらにおいても、OECD加盟国で最下位です。(図4)*4
図4 :OECD加盟国の高等教育機関の入学者に占める女性割合
出所)内閣府「Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ」p.18
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/saishu_print.pdf
メーカーでの研究開発や設計、品質管理などの技術系職種は理工系の学部を卒業していることが選考の条件になることが一般的であるため、理工系学部の女性比率の低さが、そのまま技術職における女性比率の低さに直結してしまうと考えられます。
女性研究者数に関しても先進国と比較して低い水準であり、ものづくり業界で女性活躍を進めるためには、理系人材の不足は避けられない課題と言えるでしょう。(図5)*5
図5 :女性研究者数の割合の国際比較
出所)経済産業省「ものづくりの基盤を支える教育・研究開発」 p.256
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_03_01.pdf
このように製造業における女性割合の低さは、そもそも人材が少ない、つまり女性の応募者自体が少ないことが理由として考えられます。
女性のキャリアアップの推進に取り組む横浜市女性活躍推進協議会が実施した「市内中小製造業におけるアンケート調査」によると、製造業女性活躍に対する課題として、「女性を採用したいが応募がないこと」と回答した会社がもっとも多くなっています。
一方で、「代替要員の確保などがむずかしいこと」「部署によって、キャリア形成がむずかしいこと」「業務内容が女性にはそぐわないこと」などの企業の取り組みによって改善が可能な体制に関する課題も挙げられています。*6
愛知県のものづくり企業を対象に実施したアンケートでも、「生産部門」や「開発・設計部門」での女性活躍に対する課題として、「女性の従業員数が少ない」「女性従業員自身の意向が弱い」「女性の採用希望者が少ない又はいない」が上位となっています。
このアンケートでは、「重いものや大きな製品の取り扱いがある」「2交替・3交替など交替勤務や深夜の業務がある」などの製造業ならではの課題も挙げられています。*7
ものづくり企業で女性が活躍するための取り組み
企業における女性のものづくり人材の活躍推進に向けて、以下のような取り組みがおこなわれています。(図6)*8
図6 :女性のものづくり人材の活躍推進への取り組み状況
出所)経済産業省「ものづくり産業における労働生産性の向上と女性の活躍促進」 p.225
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/pdf/honbun02_01_01.pdf
図6をみてもわかるように、女性従業員の活躍促進に積極的な企業ほど、女性でも働きやすい作業環境の整備や勤務シフト、勤務時間の設定、出産や育児との両立支援などをおこなっている割合が高くなっています。
さらに、男女を区別せず仕事を割り当てるなど、性別にとらわれず、人材活用に取り組んでいることがうかがえます。
仕事と家庭の両立支援に関しては、育児・介護のための短時間勤務制度の導入や残業や深夜業務の免除などに取り組んでいる企業が多くみられます。(図7)*8
図7 :仕事と家庭の両立支援のための取組状況(複数回答)
出所)経済産業省「ものづくり産業における労働生産性の向上と女性の活躍促進」 p.227
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/pdf/honbun02_01_01.pdf
また、愛知県が実施した、女性活躍を推進している先進企業へのヒアリング調査によると、女性活躍への取り組みとして、複数の企業が「機械・設備のユニバーサル化」を挙げています。
製造現場では、大きな力が必要となる工具や重量物を扱ったりすることが多いため、女性が働きやすい作業環境を実現するために、工具の改良や軽量化、電動リフトなどの設備の導入による負担軽減を進めています。*9
このような取り組みは、女性だけでなく、すべての人にとって働きやすい環境を実現することにつながります。
女性におすすめ?製造業はワークライフバランスがとりやすい!
2024年8月に実施された、福島県知事と福島県内のものづくり企業で活躍する女性若手社員の意見交換会では、製造業の魅力として「ワークライフバランスがとりやすい」ことが話題になりました。*10
このトークセッションに参加した女性社員の1人が所属する会津オリンパスは、土日は原則休みの完全週休2日制、ゴールデンウィーク・夏季休暇・年末年始休暇は9日や10日の大型連休になることも多く、プライベートを充実させやすい環境が整っています。*11
このように製造業では工場稼働の効率性の観点から、一般的なカレンダーとは異なり、大型連休が設定されている企業が多くみられます。
例えば、トヨタとその子会社・関連会社が使用する「トヨタカレンダー」もそのひとつで、飛び石の祝日を勤務日にする代わりにゴールデンウィークや年末年始を大型連休にしています。
多くの製造業で柔軟に休日を設定していることを背景に、トヨタをはじめとしたものづくり企業が多い愛知県では、「休み方改革」が進んでいます。
「休み方改革」のひとつとして2023年から導入されているのが、家族の休みを合わせることができる「ラーケーションの日」です。
この制度によって、愛知県内の公立の小中学校や高校、特別支援学校に通う児童や生徒が、保護者の休みにあわせて、年間3日まで休むことができます。
土日に働く保護者の休暇に合わせて一緒に過ごす機会を増やすこの制度は、全国屈指のものづくり県愛知ならではの「休日を柔軟に考える文化」を象徴しています。*12
多くの製造業が取り組んでいるワークライフバランスの実現は、女性が働きやすい職場であることの重要な指標の一つになるでしょう。
すべての人にとって働きやすい環境を実現しよう
男女共同参画、女性活躍の社会潮流のなかで、製造業での女性活躍にむけて、さまざまな取り組みがおこなわれています。
経済産業省のものづくり白書には、女性活躍の推進に積極的な企業ほど、労働生産性が向上しているというデータもあります。
「3年前とくらべて労働生産性が向上した」と回答した企業の割合が、女性従業員の活用促進に対して消極的な企業が56.8%であったのに対して、女性従業員の活用促進に対して積極的な企業は、69.8%になっています。(図8)*8
図8 :女性のものづくり人材の活躍推進への取り組み状況
出所)経済産業省「ものづくり産業における労働生産性の向上と女性の活躍促進」 p.228
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/pdf/honbun02_01_01.pdf
このデータから、女性が働きやすい職場を目指す企業の取り組みは、経営面にも良い影響を与えることがうかがえます。
ワークライフバランスの実現や設備のユニバーサル化によって、女性が働きやすい職場を実現することで、結果としてどんな人材も活かせる職場が実現できるのではないでしょうか。
参考文献
*1
出所)内閣府男⼥共同参画局「⼥性活躍に関する基礎データ」p.1, p.2, p.4
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000116409.pdf
*2
出所)厚生労働省「雇用の分野における女性活躍推進等に関する参考資料」p.28, p.147
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001262821.pdf
*3
出所)総務省「⼥性活躍の推進に関する政策評価 ー実地調査結果の中間公表ー」p.4
https://www.soumu.go.jp/main_content/000605298.pdf
*4
出所)内閣府「Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ」p.18
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/saishu_print.pdf
*5
出所)経済産業省「ものづくりの基盤を支える教育・研究開発」 p.256
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_03_01.pdf
*6
出所)横浜市「製造業界における女性活躍推進に向けて」p.7
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/seisaku/torikumi/danjo/kigyou/kyougikai.files/0020_20190401.pdf
*7
出所)愛知県「モノづくり企業における女性管理職に関するアンケート調査結果概要」 p.26-p.28
https://jokatsu.pref.aichi.jp/special/manufacturing/assets/files/summary.pdf
*8
出所)経済産業省 ものづくり白書「ものづくり産業における労働生産性の向上と女性の活躍促進」 p.225, p.227, p.228
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/pdf/honbun02_01_01.pdf
*9
出所)愛知県「先進企業へのヒアリング調査結果概要 (企業毎の事例整理)」 p.4, p.14, p.17, p.32
https://jokatsu.pref.aichi.jp/special/manufacturing/assets/files/hearing.pdf
*10
出所)テレビユー福島「「製造業はワークライフバランスがとりやすい」若手女性社員が知事と意見交換 ものづくりの魅力PR 福島」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/tuf/1391736?display=1
*11
出所)会津オリンパス「福島県知事とのトークセッションに参加」
https://www.aizu.olympus.co.jp/news/2024/nr02752.html
*12
出所)NHK「ラーケーションって何?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230824/k10014170231000.html
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。