トランプ関税「25%」 日本の製造業の行方は?

世界に衝撃「トランプ関税」で日本の製造業はどうなる?

アメリカのトランプ大統領が4月2日、世界からの輸入品にかける関税の引き上げについて具体的な数字を発表し世界に衝撃を与えています。
世界各国に一律10%の関税をかけたうえで、国や地域によって異なる税率を上乗せしており、日本には合計で24%の追加関税が適用されるというものです。


背景にはアメリカが抱える大幅な貿易赤字があり、トランプ大統領は各国に「相互関税」を求めています。

トランプ大統領が主張する相互関税とはどのようなものでしょうか。また、日本や世界の製造業にどのような影響を与えていくのでしょうか。


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世界同時株安を招いたインパクト

トランプ大統領が発表した「相互関税による輸入制限により、米国の巨額かつ恒常的な財貿易赤字に寄与する貿易慣行を是正する」と題する大統領令では、


「米国は貿易関係における多国間との互恵性の欠如、異なる関税率と非関税障壁、そして米国内の賃金と消費を抑制する貿易相手国の経済政策という基本的な条件によって、大規模で持続的な貿易赤字が示すように国家安全保障と経済の異常が生まれ、異常なまでの脅威に晒されている」


としています。*1

その上でトランプ大統領は、国家緊急事態を宣言しています。*2

また「ファクトシート」として、製造業については、


・中国は非市場政策とこれまでの慣習で主要な製造業で世界的優位に立ち、これによってアメリカでは370万人の雇用喪失に繋がった

・インドは化学製品、通信製品、医療機器などの分野で、独自の煩雑で重複した試験および認証要件を課しており、米企業がインドで製品を販売することを難しくした。この障壁が取り除かれればアメリカからの輸出は少なくとも年間53億ドル増加すると推定

・中国、ドイツ、日本、韓国などの国々は国内消費力を抑制する政策によって輸出製品の競争力を人為的に高めてきた

・英国は科学的根拠に基づかない基準を維持しており、安全で高品質の牛肉や鶏肉製品の米国への輸出を厳しく制限している


といった調子で他にはアルゼンチンや南アフリカなどにも触れ、全世界に向けてその政策を非難しています。

そして表明した関税は、一部の国や地域を見れば下のようなものです。*3(2025年4月3日提供時点)


国・地域    税率     
中国    34%       
EU    20%       
ベトナム    46%     
台湾    32%     
日本    24%     
インド    26%     
韓国    25%     



この発表で市場は混乱し、世界同時株安が起こりました。


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日経平均は歴代3位の下げ幅に

まず日本では翌週7日の日経平均株価が前の週末より2644円下落し、歴代3位の下げ幅を記録しました。1987年の「ブラックマンデー」に次ぐ下げ幅です。*4


それだけではありません。


アメリカでは発表以降ダウ平均株価が3営業日下がり続け、7日には前の週末より349ドル26セントの値下がり、香港株式市場では代表的な株価指数であるハンセン指数が一時16年ぶりの大幅な下落を記録しました。*5*6


企業の業績悪化を懸念したものです。
専門家の間では「世界経済への影響はリーマンショックや新型コロナショックに匹敵しかねない」とまで指摘されています。*7


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日本の製造業とアメリカ

では、日本の製造業とアメリカとの関係について見てみましょう。


日本の製造業でアメリカへの輸出が多いもの、といえば皆さん「自動車」を思い浮かべることかと思います。トランプ大統領はすべての国や地域から輸入される自動車について25%の追加関税を課す措置を、日本時間の4月3日に発動しました。*8


日本車の場合、これまで乗用車への関税率は2.5%、トラックには最大25%でした。
しかし今回の関税引き上げによって乗用車には27.5%、トラックには最大で50%の関税がかけられることになります。桁違いなのです。
トランプ大統領はさらに、エンジンなどの主要な部品についても、5月3日までに追加関税を発動するとしています。


各メーカーは対応に追われています。


日産自動車はアメリカ向けの自動車を製造する九州の工場で減産し、生産の一部をアメリカに移管する検討に入りました。現地生産に切り替えることで関税は免れます。*9

トヨタ自動車の北米法人はメキシコ・カナダの部品メーカーに対し、関税に伴うコスト上昇への対応を支援すると伝えています。*10

その他、ホンダの三部敏宏社長は「急激な変化は我々にとっては対応する時間がないので、非常に厳しいと感じている」と語っています。*11


日本からアメリカへの輸出企業は「製造業」が最多

帝国データバンクは今回の関税引き上げが、国内企業に与える影響についてのレポートを公表しています。*12

それによると日本では、アメリカ向けの輸出企業で最も多い業種は「製造業」です。

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輸出企業の相手先別企業数
(出所:帝国データバンク「米国の対中・対北米追加関税に対する日本企業の影響調査」)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250207_usachina/


これら多くの企業が何らかの対策を取らなければ、アメリカへの製品輸出が難しくなる、あるいは利益が大幅に減ってしまいます。


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中国での製造にも影響

また、このレポートでは、関税引き上げが及ぼす影響として、日本企業の海外生産についても述べています。


というのは、日本のメーカーは人件費の安さなどを理由に中国やメキシコで生産を行っていることが多く、すると中国やメキシコ経由でアメリカに輸出する製品にも高い関税がかかることになるからです。
実際、トランプ大統領は報復関税を表明した中国への関税率を当初の34%から84%に引き上げる大統領令に署名しました。*13


なお、中国に対しては既に合成麻薬の流入防止対策の不備を理由に計20%の制裁関税を課しているため、中国からの輸入品に対する関税は計104%となります。中国の姿勢によっては今後さらに増税する可能性もあります。


日本の製造業に大きな影響を与える米中の貿易摩擦がどこまで激しさを増すのかは不透明です。


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いつまで続くのか?

ここまで「トランプ関税」が世界経済や日本の製造業に与える影響について紹介してきました。


トランプ大統領の目的はアメリカの国内産業を守り、雇用を安定させることです。アメリカの貿易赤字は、アメリカに自国の製品を押し付ける各国政府の仕業だ、というスタンスです。


しかしトランプ大統領は4月9日時点で早速、この相互関税の一部を90日間一時停止すると発表しました。最初の追加関税の発表からわずか1週間の話です。*14

よって当面は混乱が続くでしょう。関税率の引き上げが実際にはいつ、どのような形でいつまで適用されるかも今の段階では全くわかりません。まずはどのようなことが実際に起きていくのか、今後トランプ大統領がどのような対応をするのか、しっかり観察していく必要があります。


*1
ホワイトハウス「Regulating Imports with a Reciprocal Tariff to Rectify Trade Practices that Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficits」
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/regulating-imports-with-a-reciprocal-tariff-to-rectify-trade-practices-that-contribute-to-large-and-persistent-annual-united-states-goods-trade-deficits/

*2
ホワイトハウス「Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security」
https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/04/fact-sheet-president-donald-j-trump-declares-national-emergency-to-increase-our-competitive-edge-protect-our-sovereignty-and-strengthen-our-national-and-economic-security/

*3
三井住友DSアセットマネジメント「市川レポート トランプ米大統領は相互関税の導入を発表~市場への影響について考える」(2025年4月3日提供時点)
https://www.okasan-online.co.jp/data/fund_report/pdf/250403_5776.pdf

*4
日本経済新聞「株安連鎖、日経平均株価2644円下落 今期一転減益予想も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG073W40X00C25A4000000/

*5
毎日新聞「NYダウ平均続落 11カ月ぶりの安値 トランプ関税で相場乱高下」
https://mainichi.jp/articles/20250408/k00/00m/020/021000c

*6
ブルームバーグ「世界株安加速、円や米国債に逃避買い-トランプ関税巡る混乱深まる」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-06/SUBHCUT1UM0W00

*7
NHKニュース「"トランプ関税" 影響はリーマンショックに匹敵との指摘も」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250408/k10014772891000.html

*8
NHKニュース「アメリカ 自動車に25%の追加関税発動 日本に打撃も」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250403/k10014768651000.html

*9
日本経済新聞「日産、国内生産を米国に一部移管 追加関税で輸出回避」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC04D7I0U5A400C2000000/

*10
日本経済新聞「トヨタ、部品の関税上昇コスト負担 メキシコ生産分など」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD046F30U5A400C2000000/

*11
TBS NEWS DIG「トランプ関税にホンダ・三部社長「非常に厳しい」」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1831201

*12
帝国データバンク「米国の対中・対北米追加関税に対する日本企業の影響調査」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250207_usachina/

*13
毎日新聞「米相互関税、午後にも発動へ "報復"表明の中国は84%」
>https://mainichi.jp/articles/20250409/k00/00m/020/082000c

*14
日本経済新聞「トランプ氏「絶好の買い時だ」 関税停止の発表前に投稿」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN09EN90Z00C25A4000000/

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。