
2025年3月28日 09:00
企業が運営する博物館や美術館 一体何を展示しているの?
「企業博物館」や「企業美術館」と聞くと、お堅くて、展示物もその会社の歴史や製品ばかりが淡々と展示されていて退屈そう...というイメージを持っていませんか。
実は企業博物館・美術館の中には、想像以上にユニークで、ためになる展示が盛りだくさんの穴場スポットがたくさんあるのです。
今回は、そんな知られざる企業博物館・美術館の魅力をご紹介します。
なぜ企業が博物館や美術館を運営してるのか?
そもそも、なぜ企業が博物館や美術館を運営しているのでしょうか。
企業博物館や美術館には、以下のような目的があります。
社外へのブランドイメージのPR
企業博物館や美術館は、単なる会社の歴史の展示にとどまらず、企業ブランドを発信し強化する重要な役割を担っています。自社の歩んできた道のりや技術の進化、企業理念を視覚的に伝えることで、訪問者に企業の価値を深く理解してもらうことができます。
たとえば、企業の創業当初から現在に至るまでの製品の変遷を展示すれば、技術革新の積み重ねや、社会への貢献を具体的に伝えることができます。また、開発の裏側や試行錯誤の過程を紹介することで、企業の姿勢や情熱を来場者に感じてもらうことができます。*1
企業博物館や美術館は、単なる展示施設ではなく、企業のDNAに触れ、その歴史や技術を深く理解できる場所なのです。
さらに、本当は公にしたくないはずの「失敗」を公開している企業も。*2
成功の陰には数々の失敗があり、それを乗り越えて今があるというストーリーは、来場者に共感を与えますし、本来隠したい部分を公開していることに誠実さを感じるのではないでしょうか。
社会貢献・地域活性化
企業博物館・美術館は、その地域にとって貴重な観光資源となり得ます。ユニークな展示や体験プログラムは、地域外からの観光客を誘致し、経済効果をもたらします。また、地域住民にとっては、地元の魅力を再発見する機会となり、地域への愛着を深めることに繋がります。*3
創業の地が地方にある企業は、博物館や美術館を地方で営業している場合もあり、地方における企業の知名度向上に一役買っています。*2
社内へのPR
企業博物館・美術館は、社外にアピールするだけでなく、社員のエンゲージメントを高め、企業文化の浸透を促進するためのツールにもなります。
図1:企業博物館が自社の従業員に伝えているもの
出所)株式会社丹青社「企業ミュージアムの目的とは?コンセプト・テーマの考え方も解説」
https://corporatemuseum.tanseisha.co.jp/column/detail059/
図1からもわかるように、企業博物館は自社の創業理念や技術力、経営理念、歴史などを伝えています。*4
これらに触れることで、社員は「自分たちがどんな会社で働いているのか」を深く理解し、誇りを持つことができます。
展示物を通して会社の歩みや創業者の想いに触れることで、社員は企業文化への理解を深め、組織への帰属意識を高めることができるでしょう。
企業博物館とは少し違う側面がある企業美術館
企業美術館は、企業博物館の一形態として捉えられることもありますが、その実態は、企業の歴史や製品紹介といった枠を超え、より広い芸術、文化、社会貢献といった領域に深く関わっています。
企業美術館は、企業の「本業」とは関係ない場合が珍しくありません。
かつては、創業者などが個人的に収集したコレクション品を一般公開したというケースも多く見られます。
企業美術館は、本業とは異なる分野だからこそ、新たな顧客層との接点を生み出す可能性を秘めています。本来であれば接点の少ない消費者層とのコミュニケーションの場を創出することで、企業は新たなビジネスチャンスやイノベーションの種を見出すことができるかもしれないのです。*5, *6
個性豊かな展示内容!企業博物館・美術館の魅力
企業博物館・美術館の魅力は、その個性豊かな展示内容にあります。
企業博物館・美術館は全国各地にありますが、その中でも筆者の独断と偏見でおすすめしたい施設をいくつかご紹介します。
トヨタ産業技術記念館
所在地:愛知県名古屋市則武新町4-1-35
言わずと知れた日本を代表する企業であるトヨタ。
コロナ禍では来場者が減少していますが、近年はコンスタントに年間40万人以上が訪れています(図2)。
図2:来場者数の推移
出所)トヨタ産業技術記念館「概要 」
https://www.tcmit.org/about/overview
レストランやミュージアムショップ、カフェ、図書室、なんと蒸気機関の展示まであり、一日中楽しめる施設です。
バーチャルガイドツアーも実施されており、なかなか現地に行くことができない人もトヨタの歴史や技術に触れることができます。
自動車産業のルーツである繊維機械から最新技術まで、見て触れて学べる展示は、子供から大人まで知的好奇心を刺激されるでしょう。*7, *8, *9
技術革新の歴史を辿ることで、インスピレーションが得られるかもしれません。
画像引用: キッズアートプロジェクトしずおか 資生堂企業資料館
資生堂企業資料館
所在地:静岡県掛川市下俣751-1
トヨタと並び世界的企業である資生堂も、企業資料館を運営しており、商品や宣伝制作物をはじめとする収蔵品の一部を展示公開しています。
その資生堂の資料は、なんとマサチューセッツ工科大学(MIT)の講義の教材として使用されています(図3)。
図3:資生堂の広告資料
出所)資生堂企業資料館「当館のご案内」
https://corp.shiseido.com/corporate-museum/jp/visit/
学術的に評価されていることにも驚きますが、筆者自身もTVや雑誌で資生堂の広告やデザインにたくさん触れてきました。記憶に残っているCMやポスターも多くあり、過去の化粧品広告とデザインやアートが閲覧できることも魅力だと考えています。*10, *11
化粧品の変遷だけでなく、時代を映す広告デザインに触れることで、新たな発見が得られるかもしれません。
ミキモト真珠島
所在地:三重県鳥羽市鳥羽1-7-1
パールジュエリーで有名なミキモトは真珠の養殖を世界で初めて成功させたことで有名です。
そのミキモトは小さな島全体を施設にしています(図4)。
図4:ミキモト真珠島の外観
出所)ミキモト真珠島「島内図」
https://www.mikimoto-pearl-island.jp/%E5%B3%B6%E5%86%85%E5%9B%B3
博物館や、パールジュエリー・お土産品などを取り揃えたパールショップ、創業者の記念館などが設置され、真珠養殖を支えた海女の実演も行われています。
博物館には紀元前1世紀~紀元1世紀のイヤリングや20世紀初頭のティアラなどが展示されているため、宝飾品に目がない筆者はいつか行ってみたいと思っています。*12, *13, *14
真珠の輝きはもちろん、海女さんの実演から真珠養殖の歴史や技術に触れることで、より深く真珠の魅力を知ることができそうです。鳥羽の美しい海を背景に、真珠の知識を深め、ジュエリーを堪能する。そんな贅沢な体験をしてみたいものです。
ポーラ美術館
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
ポーラ創業家2代目の故・鈴木常司氏が40数年かけて収集した美術品が展示されています。
美術館に展示されているものとしてイメージしやすい絵画以外にも、古今東西の化粧道具が展示されているところが、さすがポーラ。
箱根の国立公園に隣接しており、アートと同時に自然も楽しむことができるのも魅力です(図5)。
図5:ポーラ美術館の外観
出所)ポーラ美術館「基本理念」
https://www.polamuseum.or.jp/about/
四季折々の自然の中で、アート鑑賞と散策を組み合わせれば、心身ともにリフレッシュできるでしょう。カフェやレストランも併設されており、美しい景色を眺めながら食事を楽しむことも可能です。*15, *16
企業博物館・美術館で新しい発見を
企業博物館・美術館は、企業の歴史や技術、文化に触れられるだけでなく、地域社会への貢献といった企業の姿勢を知ることもできる、魅力的な場所です。
普段私たちが何気なく手にしている製品の背景には、企業の歴史や技術、そしてそれを支える人々の情熱があります。そんな物語に触れることで、製品への愛着も一層深まるかもしれません。週末のお出かけ先として、企業博物館・美術館を訪れてみるのはいかがでしょうか。
参照・引用を見る
*1
出所)経営研究「企業博物館の価値創造活動とそれらが企業 および社会にもたらす効果に関する考察」 第66巻第3号 高柳直弥 p.89~p.90
*2
出所)「企業ミュージアムへようこそ: PR資産としての魅力と可能性 (上巻)」株式会社電通PRコンサルティング 著 p.10
*3
出所)株式会社丹青社「企業博物館・企業ミュージアムの役割と効果及びその可能性」
https://corporatemuseum.tanseisha.co.jp/column/detail54/
*4
出所)株式会社丹青社「企業ミュージアムの目的とは?コンセプト・テーマの考え方も解説」
https://corporatemuseum.tanseisha.co.jp/column/detail059/
*5
出所)中京企業研究「美術館と地域社会・経済の連関性を考える」35 号 寺岡 寛 p.13
*6
出所)株式会社丹青社「企業ミュージアムにおいて異質な存在である美術館が放つ輝き」
https://corporatemuseum.tanseisha.co.jp/column/detail53/
*7
出所)トヨタ産業技術記念館「概要 」
https://www.tcmit.org/about/overview
*8
出所)トヨタ産業技術記念館「館案内・マップ」
https://www.tcmit.org/enjoy/exhibition
*9
出所)トヨタ産業技術記念館「学ぶ」
*10
出所)資生堂企業資料館「入館情報」
https://corp.shiseido.com/corporate-museum/jp/visit/about.html
*11
出所)資生堂企業資料館「当館のご案内」
https://corp.shiseido.com/corporate-museum/jp/visit/
*12
出所)ミキモト真珠島「アクセス」
https://www.mikimoto-pearl-island.jp/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%B9
*13
出所)MIKIMOTO「MIKIMOTOについて」
https://www.mikimoto.com/jp_jp/about-mikimoto
*14
出所)ミキモト真珠島「『天然真珠の時代』展示品目録」
https://www.mikimoto-pearl-island.jp/_files/ugd/1a444e_c98d9db7ccdc4b01b59dad5c820c9173.pdf
*15
出所)ポーラ美術館「基本理念」
https://www.polamuseum.or.jp/about/
*16
出所)ポーラ美術館「レストラン/ショップ 」
https://www.polamuseum.or.jp/shop/
田中ぱん
学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。