
2025年2月14日 09:00
ものづくりを見て・触れて・感じよう!地域を盛り上げるオープンファクトリーの取り組み
近年、工場の製造現場を見学したり、実際にものづくりを体験できるオープンファクトリーの取り組みが活発化しています。
オープンファクトリーには、企業の認知度アップや近隣住民との交流促進、人材育成などのさまざまな狙いがあります。
これまでも工場見学という形で一般公開されている工場もありましたが、オープンファクトリーは、同じエリアの複数の企業が協力し、地域の魅力を発信する役割を担っています。
このような取り組みは「地域一体型オープンファクトリー」と呼ばれ、「ものづくりのまち」として知られてきたさまざまな自治体を中心に全国各地で開催されています。
この記事では、ものづくりの現場を身近に感じられるオープンファクトリーの魅力について紹介します。
朝ドラにも登場!オープンファクトリーとは
オープンファクトリーとは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取り組みです。*1
他にも、「ある特定のエリアにおいて、期間限定で複数の工場を公開し、見学・体験プログラムやツアーを提供し、モノづくり及びモノづくりのまちを地域内外にアピールするイベント」という定義もあります。*2
ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地が集まる地域を中心に広がっているのが、「地域一体型オープンファクトリー」です。*1
これまで企業単独で行われてきた工場見学や施設公開とは異なり、複数の工場が協力するものづくりを主体としたイベントやお祭りのようなイメージで、まちおこしや地域活性化の要素も含まれます。
2022年度後期のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」では、東大阪の町工場で育ったヒロインが、工場のことを近隣住民に知ってもらうため、複数の工場と協力しながらオープンファクトリーの開催に奮闘する様子が描かれました。
これは、東大阪市で実施されている地域一体型オープンファクトリー「こーばへ行こう!」が題材となっています。
ドラマ内でオープンファクトリーを開催するきっかけとなった、住宅と工場が隣接する「住工混在」による騒音問題やリーマンショック後の下請け企業の業績悪化などに関しても、実話がベースとなっています。*3 *4
地域一体型オープンファクトリーは、全国で広がりをみせており、地域の新たな魅力発信手段としても期待されています。
認知度アップだけじゃない?オープンファクトリーの意外な効果
オープンファクトリーを実施し、工場を多くの人に見学してもらうことで、技術や商品をアピールすることができます。
若い世代にものづくりの魅力を伝えることで、製造業で深刻化している労働力不足の解消にも貢献できると考えられています。
地域が一体となって実施するオープンファクトリーには、他にもさまざまなメリットがあります。
地域住民との交流による「住工共生」
オープンファクトリーを実施する背景には、町工場が集まっている地域が抱える「住工混在」の問題があります。
工場と住宅が混在するエリアには、騒音や振動、臭気などの公害や工場に出入りする大型車による交通渋滞など、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。
とくに1980年代以降は、土地価格が抑えられる工場集積地域への住宅建設が急増していることから、新住民の参入による新たな住工混在問題が顕在化することも指摘されています。*2
多くの町工場が集まっている川崎市高津区の下野毛・久地・宇野根は工場と住宅どちらも建設できる準工業地域として、町工場と地域住民がより良い関係性を構築する「住工共生」をキーワードとした取り組みを実施しています。(図1)*5
図1:工場と住宅が混在する下野毛・久地・宇野根の街並み(2015年撮影)
出所)川崎市高津区「共に生きる 住工共生のまち」p.3
https://www.city.kawasaki.jp/takatsu/cmsfiles/contents/0000077/77823/juukoukyouseinomachi.pdf
住工共生の取り組みの一つとして年に一度オープンファクトリーを実施し、新たに引っ越してきた住民に近隣の工場を知ってもらうために製造現場を公開しています。
「近くにあるけど何をしているのかわからない」という思いを解消し、地域住民と工場との距離を縮めることが狙いです。
複数の企業が参加したオープンファクトリーには毎年多くの住民が参加し、ポジティブな意見も多く寄せられています。*5
企業同士のコラボレーションによるイノベーションの創出
複数の企業が参加する地域一体型オープンファクトリーは、企業同士のコラボレーションや意見交換などの交流の場にもなっています。
製造現場とデザイナー・バイヤーとのマッチングやコラボ商品の開発などによって、さまざまなイノベーションを創出しています。*6
大阪府八尾市のオープンファクトリー「みせるばやお」では、出会いが加速する場を創出することをメインテーマとし、「シェアリングから生まれるイノベーション」を目指しています。
「みせるばやお」は、関西を中心とする他地域のオープンファクトリーとの広域連携により、圧倒的なコラボ実績を誇っています。
経営陣だけでなく若い世代にも働きかけ、企業同士が気軽に交流や相談ができる関係づくりを重視しています。*7
2018年8月には、中小企業35社が集結し、イノベーション推進拠点である「みせるばやお」の常設拠点がオープンしました。(図2)*8
図2:ものづくりのワザを魅せる場 みせるばやお
出所)みせるばやお「みせるばやお」
https://miseruba-yao.jp/information/
こどもたちにものづくりの魅力を伝えるこの拠点を、複数の企業がアイディアを出しながら共同運営することは、新たなものづくりのイノベーションを起こすことにもつながります。
インバウンド促進による新規顧客獲得
オープンファクトリーでは、「日本のものづくり」を高く評価している海外へ積極的にアピールしていこうという狙いもあります。
経済産業省近畿経済産業局が実施した、ヒアリング調査によると、オープンファクトリーを実施している約4割の企業が外国語に対応しています。
2025年の大阪・関西万博に来場するインバウンド(訪日外国旅行者)をターゲットとして、オープンファクトリーにおける多言語対応がさらに進むと考えられています。*6 *9
江戸時代から続く金属加工の生産地である新潟県の燕三条地域でも、インバウンド促進を視野にいれた取り組みをおこなっています。
2013年から開催されているオープンファクトリー「燕三条 工場の祭典」は、東京からもツアーが組まれるほどの人気で、日本の調理器具に関心がある外国人旅行者も訪れています。
通年で実施されているものづくり体験のワークショップでは、外国人旅行者の受け入れも始めています。*10
地域一体型オープンファクトリーに行ってみよう!
地域一体型オープンファクトリーは全国各地で開催されており、地域やイベントごとにさまざまな特色があります。(図3)*1
図3:全国の地域一体型オープンファクトリーMAP
出所)経済産業省 近畿経済産業局「地域一体型オープンファクトリー」
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/openfactory/openfactory.html
オープンファクトリーは、普段なかなか入ることのできない製造現場を間近で見学できるだけでなく、ものづくりを実際に体験できるのも魅力です。
製造業が盛んな大阪府大東市のオープンファクトリーでは、町工場の技術を体験できるさまざまなワークショップを開催しています。
参加企業の一つである山田製作所では、金属加工や溶接を体験してオリジナル貯金箱をつくることができます。(図4)*11
図4:金属板でつくるオリジナル貯金箱
出所)大東市「産業のまち大東 オープンファクトリーを開催」p.2
https://www.city.daito.lg.jp/uploaded/attachment/34692.pdf
横浜市内でもっとも工場が多い港北区で開催されている「港北オープンファクトリー」は、小学生向けのワークショップが充実しています。
精密金型部品製造の田島精研では、未完成の部品を持って工場内を見学しながら、製品が製造されてる様子を体験し、ものづくりについて学ぶことができます。
見学後は、高い金属加工技術を活かしたおもちゃ「ピコピコスター」を組み立てることができます。(図5)*12
図5:オリジナルおもちゃ「ピコピコスター」
出所)横浜市港北区「港北オープンファクトリー」p.6
このワークショップは小学校1年生から6年生を対象としており、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えることも狙いの一つです。
おわりに
オープンファクトリーは企業のブランディングに寄与するだけでなく、地域貢献や人材育成などにも効果的な取り組みです。
参加する側にとっては、普段見ることのできないものづくりの現場や職人の技に触れることができる、貴重なチャンスともいえます。
近隣住民がものづくりの現場を見て、触れて、体験し、製品や企業への理解を深めることは、地域コミュニティの醸成にもつながります。
ものづくり企業の魅力、地域の魅力を再発見できるオープンファクトリーに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
*1
出所)経済産業省 近畿経済産業職「地域一体型オープンファクトリー」
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/openfactory/openfactory.html
*2
出所)中小企業季報「オープンファクトリーの意義と効果」p.18
https://www.osaka-ue.ac.jp/file/general/23942
*3
出所)産経新聞「リアル朝ドラ コロナ禍で苦しんだ中小企業は「舞いあがれ!」るか」
https://www.sankei.com/article/20230524-2OOVJXIGZVMOXLM554JE7TI5PY/
*4
出所)東大阪公式観光情報サイト「<お知らせ>東大阪オープンファクトリーと飛行機工作セットについて」
https://pikahiga.jp/news/2023-02-27/13426/
*5
出所)川崎市高津区「共に生きる 住工共生のまち」p.3, p.4, p.5
https://www.city.kawasaki.jp/takatsu/cmsfiles/contents/0000077/77823/juukoukyouseinomachi.pdf
*6
出所)経済産業省「地域一体型オープンファクトリーのイノベーション機能強化等に係る調査事業」p.1, p.9
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000622.pdf
*7
出所)経済産業省 近畿経済産業職「OPEN FACTORY REPORT 1.0」p.62
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/openfactory/R4fybooklet.pdf
*8
出所)みせるばやお「みせるばやお」
https://miseruba-yao.jp/information/
*9
出所)経済産業省 近畿経済産業局「関西企業フロントラインNEXT」p.6
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/frontline/frontline_no14.pdf
*10
出所)一般財団法人 自治体国際化協会「インバウンドも視野に、「ものづくり」の燕三条が新しいフェーズに!」
https://economy.clair.or.jp/casestudy/inbound/1066/
*11
出所)大東市「産業のまち大東 オープンファクトリーを開催」p.2
https://www.city.daito.lg.jp/uploaded/attachment/34692.pdf
*12
出所)横浜市港北区「港北オープンファクトリー」p.6
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。