3Dプリンターはもう古い⁉4Dプリンターとは

4Dプリンターとは 3Dプリンターと何が違う?できることは?

3Dプリンターはもはや珍しいものではなくなりました。もしかしたらこの記事を読んでいる方の中にも使ったことがある、または、個人で所有しているという人もいるかもしれません。
でも、待ってください!近年、3Dの上をいく「4Dプリンター」が登場しているんです。
4Dというと、まるでSF映画から飛び出してきたような架空の技術のように思えます。
3Dプリンターと4Dプリンター、いったい何が違うのでしょうか。

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3Dプリンターはもはや当たり前?

筆者が社会人になった2008年頃は、3Dプリンターは一般的ではなく、恥ずかしながらその存在すら知りませんでした。それが今や、これほど身近な存在になるなんて驚きです。
3Dプリンターは、今や珍しい存在ではありません。
3Dプリンターの知名度が上がったのは2013年。アメリカのオバマ大統領が一般教書演説で3Dプリンターに言及したことがきっかけです。

" The 3D Printing that has the potential to revolutionize the way we make almost everything."

(3Dプリンタはものづくりに急激な変化をもたらす可能性がある)という演説を行ったため、広くその存在を知られるようになりました。*1
少し前までは、職場に3Dプリンターがあると言われると「すごい!」と思っていたのですが、今ではその驚きもなくなってしまいました。
実際、世界の3Dプリンター市場は急成長しています。樹脂3Dプリンターだけでも、2020年の680億円から2026年には1,430億円まで膨らむと予想されています。金属3Dプリンターに至っては、2025年に2,500億円市場になるのだそうです。*2
個人で3Dプリンターを使う人も珍しくありません。筆者個人は「3Dプリンターで作った」と言われても、驚きは少なくなっています。
でも、みなさん。3Dプリンターの進化はまだまだ止まりません。むしろ、これからが本番かもしれません。次は何が来るのか、想像できますか?

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画像:4D-printing method could allow flat-pack furniture to be assembled with heat aloneより

https://www.dezeen.com/2018/04/29/4d-printed-flat-pack-furniture-of-the-future-assembled-heat-carnegie-mellon-university/

4Dプリンターの登場!4Dのプリンターとは

4Dプリンターというプリンターの存在をご存じでしょうか。「3Dプリンターはわかるけど、4Dって何?」と思われるかもしれません。
4Dを日本語にすると4次元です。4次元というと、筆者は某国民的アニメの猫型ロボットが持っているポケットを思い浮かべてしまいます。そこから連想すると、あたかも架空の魔法プリンターのように思えてしまいますが、実際に存在するプリンターです。
簡単に言うと、4Dプリンターは「印刷した後に、自分で形を変えることができる」という技術が使われています。
3Dプリンターとの決定的な違いは「時間」という要素が加わっていること。3Dプリンターは、一度プリントするとその形で固定されます。しかし、4Dプリンターは、プリントした後でも外からの刺激(熱や水)に反応して、時間をかけて形を変えていくのです。*3
「時間」が加わったプリンターというと、なんだか「未来っぽい」ですよね。しかし、既に存在する技術なのです。
次の章では、この4Dプリンターのすごさをもっと詳しく見ていきましょう。

4Dプリンターのスゴイところ

前述の通り、4Dプリンターの最大の特徴は、プリントした後に形が変わること。
例えば、以下のようなことができます。*3, *4


●ある温度になると、素材自体が変形する内力で折れる構造物(図1)
●熱、UV、水分吸収によって自己組み立てする構造物
●特定の温度に応答して収縮または伸長する義手

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図1:4Dプリントされた熱で変形する構造物
出所)小川 純, 志賀 郁也, 古川 英光「4Dプリンティングによるソフトマターデバイス『ゲルクリッパー』の開発と応用」成形加工 2021 年 33 巻 9 号 P311

https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikeikakou/33/9/33_309/_pdf/-char/ja

3Dプリンターは、どんなに複雑な形でも、ピタッと止まった状態のものを印刷することしかできません。しかし、4Dプリンターはひと味違います。
2010年代前半に登場したこの技術は、3Dプリンティングを進化させたもので、印刷後に温度変化や水、光や風といった外部からの刺激に反応して、時間をかけて形を変えていくことができるのです。まるで魔法のようですが、れっきとした科学技術。米マサチューセッツ工科大学のスカイラー・ティビッツ氏が提唱したこの概念は、未来のものづくりに革新をもたらすと期待されています。*5
科学技術・学術政策研究所の「科学技術予測調査」では、2030年ごろ自動で望み通りの形に組み立てる技術が実用化すると予想されています。*6
近い将来、私たちの身の回りにも、この技術を使った製品があふれているかもしれません。
放っておけば勝手にモノが出来上がっていくとは、まさに某国民的猫型ロボットアニメの世界です。 次の章では、そんな4Dプリンターがものづくりにどのような影響を与えるのか見ていきましょう。

未来のものづくりはどうなる?

4Dプリンターを使った造形は、私たちの生活のあらゆる場面に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。*7(図2)

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図2:4Dプリンティングの応用研究
出所)科学技術・学術政策研究所「3Dプリンティングから4Dプリンティングへ-デジタルファブリケーションの新たな展開-」

https://www.nistep.go.jp/activities/sti-horizon%E8%AA%8C/vol-07no-02/stih00258

4Dプリンターの活用事例の一部を紹介します。

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画像:家具が自動で組み上がる未来も? 世界で広がる「4Dプリント」研究

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1805/18/news018.html


医療分野

4Dプリンター技術を使用した生体吸収可能なステント(内腔を保持するための小さい器具)が開発されています。中国の病院では、このステントを用いた手術に既に成功しています。*8

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画像:4Dプリンターで生産する未来の果物 Meydan Levyのプロジェクト「Neo Fruit」

https://www.axismag.jp/posts/2019/12/157800.html


食品分野

輸送時には平らな形状で省スペースに保管・輸送され、調理や水分などの刺激により立体的に変化する食品が検討されています。これが実現すれば、輸送コストや保管スペースの削減が可能です。
例えば、「熱や水に接触すると事前に設計された形状に変化するパスタ」といったユニークな研究も行われています。*9

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建築分野

4Dプリンティングが確立されれば、建築物が自己組織化し、最低限の人手で組み立てられるようになります。*10
今回紹介した分野以外にも、図2に示すように様々な活用方法が検討されています。
ただし、4Dプリンティングは大きな可能性を秘めている一方で、実用化にはいくつかの課題も残されています。
例えば、現状では刺激に対する変化が一方向的なものが多く、元の形状に戻る、変化後も強度を維持することが難しい、材料の時系列変化による変容を事前に予測することが難しい、成形方法が確立されていない材料も多いという課題があります。*4, *6
しかし、世界中の研究者がこれらの課題解決に取り組んでおり、4Dプリンティング市場は急速に成長しています。2024年には約4億5000万ドルであった市場規模は、2029年には28億5000万ドルに達すると予測されており、今後の技術革新によって、私たちの生活を大きく変える技術として、ますます注目を集めることになるでしょう。*11
前の章で科学技術・学術政策研究所の「科学技術予測調査」によると、2030年ごろには自動で望み通りの形に組み立てる技術が実用化すると予想されていると紹介しました。
この予想や市場予測を見て「あと数年で本当にそんな世界になるのだろうか」と思ってしまったのが筆者の正直な感想です。皆さんも、まるでアニメや映画、本の中にあるSFの世界が実現しつつあるような気がしないでしょうか。
確かに、現時点で4Dプリンターは、一般的に活用されるレベルではありません。
しかし、最近のAI技術の急速な進歩を見ていると、このSF的な未来が現実味を帯びてきたようにも感じます。
近いうちに、「4Dプリンターで作りました」が当たり前の時代が来るかもしれません。


参照・引用を見る
*1
出所)株式会社キーエンス「誕生から現在までの歩み」

https://www.keyence.co.jp/ss/products/3d-printers/agilista/usage/birth_history.jsp

*2
出所)株式会社日本能率協会総合研究所「3Dプリンタの市場規模は?市場動向の調べ方を徹底解説!」

https://mdb-biz.jmar.co.jp/column/45#66a2ff63517ff42222700d7b-1643189885463

*3
出所)Merck KGaA「3Dおよび4Dプリンティング技術」

https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/3d-printing/3d-and-4d-printing-technologies?srsltid=AfmBOophoaYIslRPa0OY2M107gkhqxNzhGXQqdaGtaXqGZn1mYzIrrIX

*4
出所)小川 純, 志賀 郁也, 古川 英光「4Dプリンティングによるソフトマターデバイス『ゲルクリッパー』の開発と応用」成形加工 2021 年 33 巻 9 号 P311, P312

https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikeikakou/33/9/33_309/_pdf/-char/ja

*5
出所)ビジネス+IT「4Dプリンターとは何か? どういう原理なのか?3Dプリンターと何が違うのか」

https://www.sbbit.jp/article/cont1/34168

*6
出所)日本経済新聞「『4D造形』、製品が勝手に完成 省エネに期待」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64209690U0A920C2X90000/

*7
出所)科学技術・学術政策研究所「3Dプリンティングから4Dプリンティングへ-デジタルファブリケーションの新たな展開-」

https://www.nistep.go.jp/activities/sti-horizon%E8%AA%8C/vol-07no-02/stih00258

*8
出所)SciencePortal China「陝西省の病院、手術に4Dプリンターを活用」

https://spc.jst.go.jp/news/160403/topic_3_01.html

*9
出所) ScienceDirect「4D printing: Recent advances and proposals in the food sector」

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0924224421000844

*10
出所)ScienceDirect「A review of 4D printing」

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0264127517302034

*11
出所)株式会社グローバルインフォメーション「4Dプリンティング市場」

https://www.gii.co.jp/report/moi1432874-4d-printing-market-share-analysis-industry-trends.html

タイトル画像
出所)形状記憶材料を利用した新たなプリンティング技術より

https://idarts.co.jp/3dp/mit-engineers-smp-4d-printing/

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。