
2024年11月 1日 09:00
設備の健康状態を把握していますか?設備の継続的な稼働に欠かせない予防保全・予知保全とは
設備の安定的な稼働に欠かせない予防保全・予知保全とは
多くの会社で行われる健康診断。定期的に体の状態を調べることは、健康を維持するために欠かせません。
それと同じ考え方は、製造現場の設備保全にも当てはまります。体の健康管理が重要であるように、製造設備の「健康」もまた、定期的なチェックとメンテナンスが欠かせません。
今回は、設備の継続的な稼働を支えるための保全活動について紹介します。
健康診断でのサプライズ
皆さん、健康診断は楽しみですか?
これまでの人生、健康優良児として皆勤賞を誇ってきた筆者。小学校から高校まで風邪一つ引かず、大学時代も体調不良で授業を休んだことなど一度もありませんでした。健康診断で恐れているのは、体重の増加くらい。昨年、食生活を見直したこともあり、今年の健康診断はむしろ楽しみでもありました。
ところが、今年の健康診断の結果は思わぬサプライズが待っていました。去年より何キロ体重は減ったかなと思いつつ目を通してみると----「要精密検査」の文字が目に飛び込んできたのです。
「腫瘍マーカーの数値が高い...?」
すぐにネットで調べ始めましたが、むしろ不安が募るばかり。総合病院の予約をして、再検査してもらったところ、結果的に異常は認められず胸をなでおろしました。
この経験を通じて、健康維持には定期的なメンテナンスと検査が必要だと痛感しています。私は、今まで何もなかったことをいいことに、必要最低限の検査項目しか健康診断で検査していませんでした。今回の腫瘍マーカーも、たまたま、そしてなんとなく追加したオプションです。
しかし、考えてみればこの体も数十年ずっと使っています。もうそろそろガタがきてもおかしくありません。
今回は精密検査で異常は見つかりませんでしたが、もし手術や入院が必要になっていたら、現在担当している仕事のスケジュールや受けるはずだった研修、楽しみにしている旅行の予定も変更しなければならなかったでしょう。
予定していたスケジュールをこなせるのも、健康な体があってこそだと痛感した出来事です。
設備の健康は保てていますか?
今回の健康診断の結果を通じて思い出したのは、筆者の過去の経験です。
筆者が勤務していた企業はメーカーで、製品をお客様に納品する立場でした。担当していた製品は、定期的なメンテナンスが必要なものでしたが、なかなか日々のメンテナンスまで目を向けていただけないことも。
その結果、故障してから慌てて、お客様から連絡が入ることもありました。
幸いそのケースでは、お客様の事業の生産性に大きく影響を与えることはなかったのですが、これが大規模な生産ラインに組み込まれていた場合はどうでしょうか。
製造設備に不具合が生じると、製造工程全体に大きな影響を及ぼします。生産ラインが止まると生産計画が狂ってしまいますし、長期的に設備が停止すれば企業の売上や利益にも影響が出るでしょう。さらに、品質の低下や不良品の増加、安全性の低下といった、思わぬ副作用も招く可能性があります。
そこで重要なのが、設備の保全です。体が健康であるからこそ、仕事もプライベートも充実するように、設備も健康であるからこそ、安定した生産や高品質な製品の製造、安全な作業環境が保てるのです。
予防保全と予知保全の重要性
設備保全には、予防保全、事後保全、予知保全の3つの種類があります。
事後保全とは、その名の通り、不具合や故障が起こってからおこなう保全行為です。
必要最低限の保全を行うため、人的・金銭的リソースが最低限で済みます。*1
今回は、「予防保全」と「予知保全」に焦点を当ててお話ししましょう。人間の健康でも、何か症状が出る前の早期発見が大切なように、設備の保全も予防や予知が大切です。
では、予防保全と予知保全について具体例を交えて解説します。
予防保全(Preventive Maintenance)
予防保全とは、設備が故障する前に定期的に保全活動を行い、故障のリスクを低減する手法です。具体的には、使用時間や稼働回数に基づき、部品の交換や点検を計画的に行います。
例えば、車の定期点検のように、エンジンオイルを交換したり、タイヤの空気圧をチェックしたりすることで、長期にわたって車が故障なく動き続けるようにするのと同じ考え方です。これにより、設備の予期せぬ停止を防ぐことができ、生産を安定的に維持できます*1, *2
予知保全(Predictive Maintenance)
予知保全とは、機械や設備が故障する前に、その兆候を予測して保全を行う手法です。センサー技術やデータ解析システムを活用し、設備の異常振動や温度変化を監視することで、具体的な劣化の兆候を捉えます。
例えば、製造ラインに使われているモーターに取り付けたセンサーが振動の異常を検知するシステムを構築しておけば、早めの対応が可能になります。
センサーやデータ解析を行うシステムなど、情報収集インフラを整えるためのコストはかかりますが、無駄なメンテナンスを減らし、必要な時に必要な対応を取ることができるため、効率的な保全ができる方法です。*1, *2, *3
筆者は今回、予知保全について調べていて初めて知ったことがあります。最近では製造ラインにおける作業員の行動履歴を記録する装置が開発されているのです。
トラブル発生時に作業員がどのように対応したかをデータとして残すことが可能になっていて、製造ラインで起こる設備の劣化や、それに対応する作業員の行動をデータ化し、保全作業に役立てる取り組みです。*4
これまで、センサーを用いて、振動や温度、電流値などの値を監視するシステムは見たことがありましたが、「人間の行動も予知保全のデータの対象になるのか」という驚きがありました。
体も設備も大切にしよう
日常生活では、健康を当たり前のものとして捉えがちです。よくある話ですが、いざ異常が見つかると、健康であることがどれほど大切かを痛感します。仕事もプライベートも、すべて健康があってこそ楽しめるもの。だからこそ、定期的な健康診断や適切な生活習慣を心がけ、自分の体に耳を傾けることが重要です。
同じことは、私たちが関わる設備にも言えます。設備が故障してから対応するのでは遅すぎることがあります。
身近な例で、この猛暑にエアコンが故障してしまったらどうでしょうか。最悪の場合、命にかかわる影響が出るかもしれません。
もちろん、一般家庭でエアコンの振動や電流値のデータを取るなどの予知保全を取り入れることは難しいでしょう。しかし、予防保全ならどうでしょうか。一定の期間でメンテナンスを行えば、ある日突然、故障してしまうリスクは低くなります。
予防保全や予知保全を通じて、設備の健康状態を常に把握し、必要なメンテナンスを行うことで、安定した生産環境や労働環境を維持することができます。設備もまた、私たちの仕事を支える大切なパートナーです。
筆者は今回の一件で、自分の健康状態に一抹の不安を覚えたため、もう少し短いスパンで検査を受けることを心に決めました。
また、もっと運動しようと思い、万歩計アプリをスマートフォンに入れています。
もちろん、万歩計アプリを入れただけで歩数が増えるわけはありません。意識していない日は一日2000~3000歩しか歩いていないことも珍しくなく、あまりの歩数の少なさに驚愕しているところです。
筆者がそうでしたが、「まだ若いし、これまで健康だったしお金をかけてまで検査してもらう必要はない」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、若い時期は意外とすぐ終わります。江戸時代の平均寿命が35~40歳程度と推測されていることを考えると、自分も体のことを考える年代に入っているのだなと感じています。*5
みなさんも、筆者の体験を一つの教訓として、自分自身の健康を大切にすることを意識してみてください。
体も設備も、日々の小さなケアがその寿命を延ばし、私たちの生活や仕事をより良いものにしてくれるはずです。
参照・引用を見る
*1
出所)TOPPANホールディングス株式会社「設備保全における事後保全と予防保全の違い」
https://solution.toppan.co.jp/smartdevices/contents/eplatch_column02.html
*2
出所)富士フイルムビジネスイノベーション株式会社「予防保全とは?事後・予知保全との違い、メリット、IoT活⽤による効果を解説」
https://www.fujifilm.com/fb/solution/dx_column/monozukuri/about_preventive_maintenance_01.html
*3
出所)オムロン株式会社「予知保全で使われるセンサーの種類や特徴・選ぶ上で大切なこと」
https://www.fa.omron.co.jp/product/special/maintenance-solution/column/column06/
*4
出所)株式会社村田製作所「設備保全のあるべき姿-予知保全を実現する技術」
https://article.murata.com/ja-jp/article/technology-to-realize-predictive-maintenance
*5
出所)ダイヤモンド・オンライン「健康オタク万歳!徳川家康が平均寿命の2倍生きた理由」
https://diamond.jp/articles/-/313637
田中ぱん
学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。