「分解」こそものづくりの基本 100均ガジェットを徹底分析した話が面白い

ものづくりを知るには「分解」から 100均ガジェットをバラすと面白い!

いろいろな電化製品を見た時に、「これはどうやってできているのだろう?」「どんな仕組みで動いているんだろう?」と思ったことがある人は少なくないことと思います。

そして近年は、100円ショップでちょっとした家電製品も売られています。
じつは、それらを分解すると、100均一製品のさまざまなカラクリがわかります。

なぜあそこまで安くて、それなりに使えるのか。
身近にあるものを分解してみた、そんな世界をご紹介します。

画像2.png

クルマを分解してみた大胆な先輩

ずいぶん前のことになりますが、筆者が経済記者をしていたとき、上司が大胆なことを言い始めました。

「昔、クルマを分解するっていう企画をやったことがあって」。

クルマを分解すると何がわかるのかというと、一台のクルマの中に、どんなメーカーが作ったどんな部品が入っているのか、ということです。
ある自動車メーカーの業績が好調になると、そこに部品を納入している企業の成績も好調で株価に影響する、そんな経済のしくみを紹介するためのVTRでした。
おそらく自動車メーカーの協力を得ている話かとは思うのですが、すごいなあと思いました。なんだか楽しそうでもあります。

確かに、ものづくりは素材や部品を組み合わせる作業です。
そして、どんな部品を使うかによって、性能やコストに大きな差が出ます。高い部品を使えば性能は良くなる一方でクルマの値段も上がりますし、安い部品を使えばリーズナブルなクルマを完成させることができます。

そこはメーカーの腕の見せ所でもあるでしょう。高級路線を追求する車種もあれば、リーズナブルさを売りにする車種もあり、どんな車種をどう組み合わせて利益を得ていくのか、これはメーカーの腕の見せ所と言えます。
そんな世界を、手頃な「100均ガジェットの分解」で追求している人がいます。

画像4.png

100円ショップの電化製品のカラクリ

いま100円ショップでは様々な電化製品やアクセサリーが売られています。ケーブルやイヤホン、電池といったものから、マウスや充電器など。
「割と使える!」と感じている人も多いのではないでしょうか。
全てが100円で売られているわけではありませんが、それでも格安であることに変わりはありません。

そんな「100均ガジェット」の分解を続けている人がいます。
「感電上等!ガジェット分解のススメHYPER」の著者のひとりである山崎雅夫さんは100均ガジェットの分解に詳しい人で、その分解ぶりは徹底しています。

山崎さんは100均の電化製品の中でも、光学式マウスは部品がぎっちり詰まっているわけではないので基盤を取り出しやすく、比較的分解しやすいと紹介しています*1。
その分解の様子はこのようなものです*2。

外殻のプラスチックを外し、電線など取り外せるものを取り外していく。そうすると見えてくる基盤には、製造年月や型番が書かれているのがわかるとのこと。
そして山崎さんは、それら部品にまつわる情報をネットで検索し、メーカーなどを突き止めていきます*2。多くは中国製なのだそうです。

この作業を続けると、なぜ安いのかを探ることもできます。

山崎さんの指摘は、分解しやすいものは組み立てやすい=つまり工程の数が少ないのでコストカットできる、という点です*1。工程数の多さは人件費などに直結しますから、うなずける指摘でしょう。

また、「特定の機能しか持たないチップ」ではなく「複数の用途があるチップ」を使うことでコストカットしている事例もあるといいます*1。
確かに、それぞれ専門のものを使っていたら工数も増えてしまうので納得です。
こうした部品メーカーも中国の技術全体の向上により進歩していることでしょう。それが100均の電化製品も「そこそこ使える」という評価に繋がっているのでしょう。

徹底的に分解したからこそわかる、100均ガジェットの安さと進化の秘密と言えます。イメージだけで「安かろう悪かろう」と決めつけてしまうのはもったいないことかもしれません。

画像5.png

「油で揚げて」チップを取り出す?

さて、基盤にはICチップが組み込まれています。いま話題の「半導体」です。
これを家庭にあるもので基盤からはがすことができるといいます。

方法は「油で揚げる」のだそうです。天ぷらや唐揚げを揚げる油の温度は160℃~190℃ですが、はんだは200℃程度で溶けるので、揚げ物と同じ油温で基盤からチップを外すことができるのだといいます*1。
ただ、有害物質も出てきますので、料理に使う鍋とは別のものを使ってください。

基盤から取り出したICチップは中性洗剤を水で薄めたもので洗います。
そして半導体の材料であるシリコンに迫ることができるのです。

チップは硬いプラスチックのケースで覆われていますが、金属製のトレイなどに載せてバーナーで慎重に熱することで中身を見ることができるといいます。
よく、言葉では聞く「シリコン」。どんな色をしているのか、質感なのか。それを実際、自分の目で見ることができるのです。

もちろんこうした分解は、怪我やヤケドのないように行ってください。

画像6.png

ガジェットに限らない「分解」からの学び

ものごとを分解してその構成要素を観察する。
これは何も、ガジェットなどの製品に限りません。
100均ガジェットが「部品の安さ」「工程の少なさ」で低価格を実現し売れているように、わたしたちの日々のビジネスも分解して考える必要があります。

例えば、ある商品の売れ行きが良くない。
この現象を分解してみましょう。

売れ行き=(価格、コスト) × (品質) × (プロモーションや口コミ、企業イメージ)

のようなものではないかと筆者は考えています。
そして、どれが欠けてもいけません。

ですから、「品質」だけがよければ勝手に売れていくのかといえばそうではないでしょうし、安ければなんでも良い、というわけではありません。
また口コミも、数多くなればなるほど逆にネガティブな意見も出てきてしまいます。

そしてものをつくって売るまでの過程には予算もありますから、それぞれの要素にどんなふうに配分していくのかも考えなければなりません。

ものを「つくる」だけでなく、コスト計算をし、売る人の労力も考える。
全てがマッチしてこそヒット商品が生まれるのです。

「せっかく頑張って、質のいいものを作ったのになんで売れないんだ。売り方が悪いに決まってる!」。

そう言っても話は始まらない、というのが現実です。
100均ガジェットが効率的なコストカットに成功している中、「そこそこのものを都度買い換えればいいや」という意見があるのも事実です。

特にいま給料が上がりにくい中、「プチ贅沢」としての「一点豪華主義」を求める人がいてもおかしくありません。筆者もその一人です。筆者の場合は、薄給なりにも、そこそこ美味しいお酒を飲んでいたいなあという考え方です。

「ものをつくる」人たちには、どんな人が使ってくれるかな?みんなはどんなものが欲しいんだろう?今、ものを買う人のお財布事情はどうなっているのだろう?と考えることはとても大事なんだろうと筆者は思っています。


資料一覧

*1
ギャル電、山崎雅夫、秋田純一、鈴木涼太、高須正和「感電上等!ガジェット分解のススメHYPER」p23、p27、p30、p47-50

*2
「どうせ100均だろ?」って軽い気持ちで分解したら、 ガジェットの進化に驚いた!」パーソル クロステクノロジー

https://staff.persol-xtech.co.jp/i-engineer/technology/gadgetdisassembly

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。