じつは「男もつらい」更年期 仕事のミスや苛立ちが増えたのはそのためかもしれません

イライラ、ミスの増加... 男性にもある更年期障害について知り、適切な対処を

「更年期障害」というと、女性の閉経前後に現れるさまざまな症状のことを思いつく人は多いことでしょう。
ホルモンバランスが大きく崩れることによって、心身にさまざまな影響を与えるというものです。

しかし、男性も無縁ではありません。
実は男性にも、更年期障害は襲いかかります。しかも女性の更年期よりもやっかいかもしれません。

男性の更年期障害について知り、職場への影響を最小限で済ませるにはどうすれば良いか。
そして「更年期障害」に対する従来のイメージを変えるお手伝いをできればとも思います。

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ある引越し業者さんのお話

先日筆者は引っ越しをしたのですが、引っ越しのトラックに乗せることは避けたいな、と思うものがあったため、料金はかさみましたがタクシーで移動しました。
楽器類です。筆者の自宅にはサックスとギター、電子ピアノがあります。

やはりそこらへんの段ボールと同じ扱いをされると不安が残る、という理由があったのです。業者さんも嫌がることでしょう。
しかしこれらを一気に電車で運ぶのはかなり大変ですので、必要経費だと思いタクシーを使いました。片道1時間と少し、料金は2万円です。

そこで筆者は、勉強になる話を運転手さんから聞きました。
実は彼は、若い頃に引っ越し業者で働いていた人だったのです。

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「いけるはず」の危険さ

現場に来てくださる引っ越し業者さんは、ベテランさんと若い人がセット、という印象があります。

筆者なら5秒でギックリ腰になってしまいそうな重さの段ボールをいくつも重ねて搬出していったり、冷蔵庫や洗濯機といった重い家電もたったふたりで搬出してトラックに乗せてしまいます。
その手際の良さと体力にはいつも感動しています。
そしてこの運転手さんは、それを楽しんでいた人でした。

「ファイトのある若いやつが助手にくるとね、ほら、もう一個くらい段ボール行けるだろ!乗せるぞ!って、それはそれでお互い楽しんでやってたんだよね」

最近敏感な「パワハラ」という感じとは違い、お互い筋トレ頑張ろう、という感じのようでした。

「で、やっぱり建物や家具を傷つけちゃいけない。そこに関してはやりすぎてもやりすぎじゃないくらい丁寧に養生も梱包もやってたよ」

ということでした。

しかしある時、助手の人が大変なミスを犯してしまったのです。
高級マンションに運ばれる、いかにも高そうなガラステーブル。
それを、助手さんが無理をしてひとりで運ぼうとして、結果、割ってしまったというのです。

「相談してほしかったんだけど、頑張る子だったからね、自分でなんとかしようと思っちゃったんだろうね」

その後は地獄のような空気で作業を続けたといいますが、しかしこれはとても良い教訓でもあります。
「いけるはず」という思い込みがいかに危険かということです。

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得体の知れない不調、中高年男性で疑うべき「更年期障害」

さて、この作業員さんは若い人でしたが、中高年男性が「いつもなら大丈夫なことができなくなった」というとき、更年期障害が理由になっている可能性があります。
更年期障害といえば女性特有のもの、と思われるかも知れませんがそうではありません。


加齢と性ホルモン分泌量の変化

女性の更年期障害は性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が急激に減少することで始まり、閉経前後およそ10年間に症状が現れます。
しかし、性ホルモンの分泌量がある年齢から急激に減少するのは、男性も同じです。

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加齢と性ホルモンの関係
(出所:「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」日本内分泌学会)

https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71

女性の場合は閉経前後が発症時期ですので、事前にある程度本人でも予測できますが、男性の場合ホルモン分泌量の低下による不調が「40歳代以降、いつでも起こりうる」というのがやっかいなところともいえます。

そして男性ホルモン(テストステロン:アンドロゲン)の低下は以下のような症状を招きます。

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男性ホルモンの低下で起きる不調
(出所:「男性更年期障害」全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/20150226007.pdf p1

筋肉量、認知力、造血機能、骨密度の減少など、じつに多岐にわたる変化が体の中で起こります。
これが男性の更年期障害なのです。

なお、男女の更年期障害にはこのような違いがあります。

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男女の更年期障害の違い
(出所:「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」日本内分泌学会)

https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71

いつ始まるかわからない、終わりがない、といった意味では、男性の更年期障害のほうが実はやっかいな存在なのです。
気がついたら「いけるはず」のものがそうともいかない時期が続いている、そのような場合は更年期障害を疑ってみる必要があります。

こころにも現れる男性更年期障害の症状〜セルフチェックしてみよう

男性の更年期障害が影響を及ぼすのは、身体だけではありません。

診断基準は血中のテストステロン減少と、以下のポイントです。

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男性更年期症状のおもな症状
(出所:「男性更年期障害」全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/20150226007.pdf p2

なお更年期障害を確認するチェックシートもありますので、その内容もみておきましょう。

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男性更年期障害のチェックシート
(出所:「男性更年期障害」全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/20150226007.pdf p2

点数を計算して、合計が27点以上かどうかが診断基準にもなっています。
睡眠の悩み、いらいらする、神経質になった、など心理的な項目もチェックポイントなのです。

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気になったら病院で治療を

さて、現場で上司が気づかぬままにイライラを周囲にぶつけたり、「もっといけるはず」と過信してミスを起こす、といったことが続くと、ほかの従業員が疑問を持ったり居心地の悪さを感じたりしてしまいます。

そうなる前に、一度専門医を受診するという方法があります。
泌尿器科がメインに治療を行うところです。
例えば投薬治療では、以下のような方法があります。

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男性更年期障害に対するおもな治療方
(出所:「男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)」日本内分泌学会)

https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71

なかには保険適用となるものもあります。
そして場合によっては、心理的なアプローチでの治療方法もあります。
周囲に迷惑を及ぼす前に、積極的な受診を検討してみてください。

そして、男性更年期障害を遠ざけるポイントというのも紹介されています。下のようなものです。

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更年期障害を遠ざけるポイント
(出所:「男性更年期障害」全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/20150226007.pdf p5

また、全ての疾患に言えることですが、ストレスの蓄積もよくありません。
自己防衛をしつつ、しかし自己防衛にも限界があるということ、ある意味では「良い諦め」を持って頼るべきところに頼るというのも、また「できる人」の特徴です。

年齢は、誰もが平等に重ねていくものです。自分に対する過信が事故の元になることはしっかり自覚しておきたいところです。

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。