日進工具が応援する原付世界最高速度を目指すプロジェクト SMC(Super Minimum Challenge) in 秋田 大潟村

2024年5月5日、原付バイク世界最高速記録更新を目指すSuper Minimum Challenge(SMC)が、2024年8月にアメリカのボンネビル・ソルトフラッツ(ユタ州)で行われるボンネビルモーターサイクルスピードトライアル(BMST)の最終調整として、秋田県大潟村の大潟村ソーラースポーツラインでテスト走行を行いました。
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図:大潟村役場「大潟村ソーラースポーツライン」ページより


大潟村でのテスト走行は、昨年11月に続き2回目です。
大潟村は、八郎潟を干拓し造った土地であり、干拓地としては日本最大です。この広大な干拓地に外周25㎞の周回コースが設けられており、主にソーラーカー大会などのエコカーレースに使用されています。
BMSTのレギュレーションでは、少なくとも1500メートル以上の助走がとれ、その後も500メートル以上の計測距離が必要であるため、直線距離2㎞以上を有するところでないとテスト走行ができません。そういう理由で、この地はBMSTのレギュレーションでテスト走行するには適した場所と言えます。
特に中央幹線排水路沿いのコースは数㎞にわたり直線が続いているので、テスト走行を行う場所としては、この地をおいて他にありません。

今回も、11月のテスト走行に引き続き、ライダーの近兼拓史さんと株式会社TPFS(Taira Promote Field Service)のメカニックが帯同し万全の態勢でテスト走行に臨みました。
TPFSは自らもレーシングチームを保有し、オートバイ国内最高峰の全日本ロードレース選手権など幅広くレース活動をしているオートバイレースのプロです。TPFSのメカニックや現役のライダーがSMCをサポートしています。

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BMSTで使われるSMCのマシン

BMSTで使用されるSMCのマシンには、ホンダスーパーカブの4ストロークエンジンが使われています。普通に走れば60㎞/hも出ない実用バイクです。
通常世界最速記録に挑むなら、最新鋭の2ストロークレーシングエンジンをベースに使用するのが最適なのですが、SMCはあえてレースに不向きな実用車、スーパーカブの4ミニと呼ばれる4ストローク横型エンジンを選びました。
画像4.jpg スーパーカブは50年以上にわたって累計1億台以上、世界で最も多く販売されたオートバイです。実用車として耐久性は折り紙付きのエンジンですが、スピードを求める設計にはなっておらず、最高速チャレンジには不利なエンジンと言わざるを得ません。

しかしSMCは、あえてこのエンジンでBMSTに挑みます。SMCの理念が「日本の精密微細金属加工技術を結集して世界最小クラスでのオートバイ世界最速記録を目指す」というものですから、日本の原付エンジンの象徴ともいえるスーパーカブのエンジンを選んだわけです。

日本のモノづくり技術の素晴らしさを世界に示すためなら難しいほどやりがいがあります。しかし、まともに考えれば僅か3.8PSのエンジンに勝機はありません。4ストローク50ccのままパワーを上げるのは技術的に非常に難しいためSMCは小排気量エンジンでは実用不可能と言われていましたが、オートバイ誕生以来130年以上成しえなかった4ストローク50cc+スーパーチャージャーというエンジン製作に挑み、完成させることができました。

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万全の態勢で臨んだはずだったが、結果。。。

今回のテスト走行に向け、マシンには様々な手を加えて、1㎞/hでも速く走れる工夫を施し、万全な態勢でテスト走行に臨んだはずでした。
しかし、一点物のマシンは、何が起こるかわかりません。
昨日まで動いていたエンジンが今日は動かないということが起こります。
今回も、まさにそういう問題が起こりました。

メカニックはエンジンをばらしては組み直し、調整してはデータを解析し修正を続けますが、なかなかエンジンが動きません。
やっとの思いでエンジンが動きそうな気配を見せるものの、安定しないということが続きました。

メカニックの懸命の努力によって、1日目の午後に、ようやくエンジンが動き走行できるようになりましたが、思うように記録は伸びませんでした。
昨年11月の一番良い記録が117㎞/hだったのですが、
初日は、第一回目が116㎞/h、その後107㎞/h、113㎞/h
2日目の朝一が111㎞/h、その後110㎞/h、115㎞/h、110㎞/h、110㎞/hと、なかなか思うような結果が出ません。
2日目の夕方には雨の降る状況となりました。テスト走行は続きましたが、残念ながら初日の一回目に出した116㎞/hを超えることはありませんでした。
116㎞/hという記録は決して悪い記録ではありませんが、エンジン調整を行いやすいようカウル無しでの走行では、昨秋にこの地で出した記録を上回ることができませんでした。

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努力が報われないこともある。それも挑戦

私のように取材に行った人も、はるばる秋田まで応援に来てくださった人も、みんなが良い記録が出ることを期待していました。ライダーの近兼さんも、TPFSのメカニックも皆さんも同じ気持ちだったはずです。
しかし、準備をしたからと言って、必ずしも結果がついてくるわけではありません。それがモータースポーツです。

SMCは豊富な資金を使って行われているものではありません。
マシンの製作も、精密金属加工を生業とする企業が、お金をもらうどころかお金を支払って(スポンサードして)手伝っていることも多いのです。
短時間でマシンを調整するのであれば、スペア(代替)マシンを準備したり、エンジンやフレーム、足回りのスペアパーツを余分に準備できればよいのですが、精密な一点物のマシンであるがゆえに、高額なマシンやパーツに無尽蔵に資金を投入することはできません。

SMCは大企業の行うプロジェクトではありません。
日本の精密金属加工技術を集結して、世界最高速度で走るスーパーカブを走らせたいという"挑戦"する気持ちを応援する人たちによる、下町ロケットのようなプロジェクトなのです。

ボンネビルに向けて準備は整った

今年こそは気象条件に恵まれ、ボンネビルでレースが開催されることを祈りつつ、今後は8月に行われるBMSTに向けてマシンを船便でアメリカへ送る手続きに入ります。
大潟村での経験を活かしマシンを調整できたことで、SMCが日本でやれることはおおよそやりきりました。
万全とまではいかないものの準備は整ったと言えます。

コロナウイルスや異常気象などの不可抗力により、ここ数年レースが開催されなかったり、出られない状況が続いていますが、今年こそはレースが開催され、原付世界最高速記録を更新できるようプロジェクトに関わる全員が注力していきます。

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日進工具のSMCへの想い

日進工具は、2018年からこのプロジェクトのスポンサーをしています。
PRが目的であれば、SMCのような不確定の要素の多いプロジェクトを応援するのは非効率で、メディアで広告や宣伝をしたほうが良いかもしれません。
しかし、日進工具は精密切削工具のグローバルニッチトップ企業。
誰も挑戦しないことに挑み続け、髪の毛に字が彫れるほどの精密な工具を開発し、精密で高品質なメイド・イン・ジャパンのものづくりに貢献し、「超硬小径工具といえば日進工具」という地位を築いてきました。

日進工具は様々な社会貢献活動を行っていますが、SMCは「挑戦する人」を応援するというテーマがあり、それは日進工具の理念に通じるものです。

もちろんSMCには今年こそBMSTで世界最高速度を更新してもらいたいと考えています。
ボンネビルという言葉は、最高速を目指すレースとしてバイク乗りの間では神格化されています。また、日本以上にアメリカで親しまれているレースです。
SMCが原付世界最速の記録を更新し、日本だけでなく、アメリカにおいて NS TOOL を知ってもらえればと思っています。


資料一覧

大潟村役場「ソーラースポーツライン」

https://www.vill.ogata.akita.jp/archive/contents-52

栗本 義丈

アルファ・ファンクション代表(https://www.alpha-function.jp/) 「知らない会社の株は買わない」をモットーに、主に上場企業のIR、ブランディング支援を実施 他にも、経営戦略の策定、株式上場支援、地方創生(観光DMOの設立等)の支援も実施している kurimoto@alpha-function.jp