ラジオ体操の秘密 毎朝のストレッチがもたらす驚きの効果とは?

一見古風な習慣に映るかもしれない朝のラジオ体操。実は、ラジオ体操には科学的な健康効果があります。
今回は、そんなラジオ体操の効果や豆知識を紹介します。
朝からラジオ体操をするのは面倒と思っているそこのあなた!一緒にラジオ体操を見直してみませんか。

2.jpg

富士山と同レベル!?ラジオ体操の実態

筆者がラジオ体操に出会ったのは、小学校の時。夏休みになると地域の子どもが集まりラジオ体操をしていました。最終日に配られるお菓子を楽しみにしていたことも懐かしい思い出です。今となってはどのように体操を覚えたのかもわかりませんが、あの音楽が流れれば、自然と体操ができる程度には体に染み付いています。

正確に体操ができなくても、音楽を聞けばラジオ体操だと分かる人も多いでしょう。
では、具体的に日本国内で何%の人がラジオ体操の存在を認知していると思いますか?
かんぽ生命が2021年に実施したアンケートによると、その認知率は実に96.9%。ほとんどの人がラジオ体操の存在を認知しているのです。*1

少し話は変わりますが、2013年に富士山が世界遺産に登録されました。
富士山の世界遺産登録についての認知率は 96.2%で、ラジオ体操の認知率とほぼ同じです。*2
日本のシンボルとも言える富士山と同等の認知率を誇るラジオ体操もまた、日本のシンボルであるとは少し言い過ぎでしょうか。

シンボルとは言わないまでも、ラジオ体操が広く認知されていることは間違いありません。

一方で、前述のかんぽ生命のアンケートによると、77.1%の人がラジオ体操を実施していないことがわかっています。*1

このアンケートは全国の20歳~79歳の男女を対象としているため、大人になってからラジオ体操をする人は少数派であることがわかります。
大人になるとラジオ体操をする機会は少なくなってしまいますが、特定の業界ではラジオ体操は非常になじみ深いものです。

その業界とは、製造業や建設業などの比較的体を使うことが多い職場。
高知県の調査によると、ラジオ体操を実施している業種で最も多いのが、建設業。次いで製造業です。*3

「うちの会社でもやっているよ」と思った方も多いかもしれません。
実は筆者も毎朝ラジオ体操をしている人間です。

3.jpg

ラジオ体操で若返り?その効果とは

前述の通り、始業前にラジオ体操をする企業は珍しくありません。
しかし、「なぜ仕事前にラジオ体操をするのだろう」と思ったことはありませんか?
筆者も、朝から体操して何の意味があるのだろうかと思っていました。

もちろん、企業が目的もなしにラジオ体操を行っているわけではありません。
従業員の健康、規律を正しくする、事故防止対策、能率向上などの目的があるのです。*4

ラジオ体操にはさまざまな効果があることが科学的に明らかになっています。
一般財団法人簡易保険加入者協会がラジオ体操を3年以上、週5日以上実践している55歳以上の男女合計543名に調査を行ったところ、以下のような効果が報告されました(図1)。*5

・体内年齢が実年齢よりも約20歳若い
・血管年齢が実年齢よりも若い
・呼吸機能が実年齢よりも若い
・骨密度が標準値よりも高い

1.png

図1: ラジオ体操の効果
出所)株式会社かんぽ生命保険「すこやかコラム 第1回」

https://www.jp-life.japanpost.jp/health/exercise/health-app/kam_201902.html

上記の調査は55歳以上の方を対象としていますが、若年層で検証した事例もあります。

21歳~22歳の女子大学生にラジオ体操を3カ月間実施してもらった上で新体力テストを実施した実験を紹介します。
この実験では、ラジオ体操をした群が非ラジオ体操群より「筋力・筋パワー(瞬発力)・全身持久力」などの体力面で優れていることがわかりました。*6

体操を行うだけで体内年齢が若くなったり、体力がついたりするとは驚きです。
日々のルーチンとしてなんとなくラジオ体操をしている方も、これを期に意識的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

筆者自身も何も考えずラジオ体操をしていた人間です。しかし最近、ラジオ体操がよく考えられた体操であることを実感する出来事がありました。

ことの発端は、不意に撮られた写真を見たことです。写真の中の私は自分の想像よりも太っていて衝撃を受けてしまいました。
ショックを受けた筆者はジムに入会して筋トレを始めたのですが、普段運動をしていないため当然翌日は強烈な筋肉痛に襲われます。

ある日、いつもより筋肉痛が少なかった私は「トレーニングに慣れてきたのかも」と嬉しく思っていたのですが、ラジオ体操をしてみると今まで感じたことのない部分に痛みが。
体のこんな場所にも筋肉があるのかと驚くと同時に、普段の生活ではあまり使わない筋肉も動かすように工夫されていることに気が付きました。

ジムのトレーナーさんや通っている整骨院のスタッフさんからは「ラジオ体操は全身運動でよく考えられた体操ですからおすすめです。」と言われたことがありましたが、あまり真剣に受け止めていませんでした。
しかし、ラジオ体操の全身運動効果を身をもって経験したことで、今では真剣に取り組んでいます。

コツを押さえて正しい体操を

ここまで紹介したような効果が得られるのであれば、ラジオ体操にもうちょっと真剣に取り組んでみようと思うかもしれませんね。

そんな方のために、それぞれの動き方のコツや効果について紹介します。
ラジオ体操第一は13の動きがあり、例えば一番初めの伸びの運動は、「腕をよく伸ばす」、「腕をゆっくり高く上げる」、「背すじを伸ばす」と意識することがコツです。

2.png図2: 伸びの運動のコツ
出所)株式会社かんぽ生命保険「【図解】ラジオ体操第一・立位の順番とコツを解説」
https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/instruction/radio_first.html

この動きには、「正しい姿勢づくり」、「肩こり予防」、「リフレッシュ効果」が期待できます。
2つ目以降の動きにも、「血行促進」、「転倒予防」、「首の疲労回復」、「呼吸機能アップ」、「柔軟性アップ」などさまざまな効果が期待できます(表1)。*7

3-1.jpg

表1: ラジオ体操のコツと効果
出所)株式会社かんぽ生命保険「【図解】ラジオ体操第一・立位の順番とコツを解説」
https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/instruction/radio_first.html
を参考に筆者が作成

体操の流れも、まずはゆっくりとした動きでリラックスを促す。中盤でダイナミックな動きになり、終盤ではまたゆっくりとした動きに戻りリラックスするという順番です。
急激に体に負荷を与えないよう、よく考えられていることがわかります。
立って行う「立位」以外に、座って行う「座位」もあるので、オフィスワークの休憩としてラジオ体操の一部を取り入れてみてもいいかもしれません。

運動強度の面から見てもラジオ体操は優秀です。
ラジオ体操第一の運動強度は4メッツ、第二は4.5メッツです(表2)。*8, *9

4.png

表2: ラジオ体操とその他の運動の運動強度
出所)サントリーホールディングス株式会社「ラジオ体操の消費カロリーとは?ラジオ体操で期待できる健康効果についても解説」
https://www.suntory-kenko.com/column2/article/6970/#
出所)厚生労働省「メッツ / METs」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.html
を参考に筆者が作成

ラジオ体操はおおよそランニングの半分の運動強度にあたりますが、ランニングするよりラジオ体操を2倍したほうが楽だと思うのは筆者だけでしょうか。
また、ラジオ体操の消費カロリーは、第一と第二を連続で行った場合おおよそ20~30キロカロリーです。*10
第一の消費カロリーを10キロカロリーと仮定すると、20日間行えば200キロカロリー消費できます。
これはSサイズのフライドポテトと同程度のカロリーです。*11

わざわざお金を払ってジムに通いカロリーを消費している筆者からすると、日頃のラジオ体操でフライドポテト分のカロリーが消費できると思えば、体操で回す腕にも力が入るというものです。

4.jpg

あなたは知っている?ラジオ体操の豆知識

少し話は変わりますが、ラジオ体操といえばあの音楽と「新しい朝が来た」から始まる歌詞。
おなじみの楽曲は「ラジオ体操の歌」といい、1956年(昭和31年)に発表されました。*12

いたるところで使用されているので意識することは少ないかもしれませんが、ラジオ体操の歌や伴奏曲にも表の通り著作権が存在するので注意しましょう(表3)。*13

6.png

表3: ラジオ体操に関わる著作権等
出所)株式会社かんぽ生命保険「楽曲等の使用について」
https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/abt_csr_rdo_cr.html

ただし、著作権法に関わらず、下記項目に該当する場合は、申請の必要はありません。*13

・自治体が主催するイベントで使用する場合
・スポーツイベント等で参加者の準備運動として使用する場合
・職場において従業員の健康増進を目的として始業前や昼休みなどに使用する場合
・個人が動画投稿サイトへラジオ体操第一を行っている動画をアップロードする場合

職場における使用は、申請が不要なので安心してください。

著作権所有者がなぜかんぽ生命なのかというと、ラジオ体操の起源である「国民保健体操」を旧逓信省簡易保険局(現日本郵政グループのルーツ)が制定したためです。*12
1928年(昭和3年)に旧ラジオ体操第一が制定され、戦後には中止や再開を経て1951年(昭和26年)に現在のラジオ体操第一が制定されました。

ラジオ体操の他にも「みんなの体操」という体操があります。
この体操はゆっくりとしたテンポなので、ラジオ体操が体力的にきつい方はこちらを試してみてもいいかもしれません。*14

あまり知られていないラジオ体操の取り組みとして、ラジオ体操指導士制度や表彰制度があります。

ラジオ体操指導士とは、ラジオ体操等の理論と実技、指導方法等に対して統一した基準に基づく審査を経て認定される指導者です。*15

他にも、ラジオ体操の普及奨励に寄与した功績の著しい団体または個人を対象として、全国表彰、地方表彰、府県等表彰を行う制度があります。*16

5.png画像 中央労働災害防止協会 ゼロ災マーク

目指せ健康!目指せ無災害!

普段のラジオ体操だけでは物足りない!という方や企業の皆様は、ラジオ体操指導士や表彰を目指してみるのもいいかもしれません。
今回紹介したようにラジオ体操にはさまざまなメリットがあります。あなたもラジオ体操を極め、社内の健康番長になってみませんか?

冗談はさておき、まずは丁寧なラジオ体操を心がけ、安全第一で業務にあたりましょう。

参照・引用

*1

出所)株式会社かんぽ生命保険「「ラジオ体操」の認知率と実施率」

https://www.jp-life.japanpost.jp/information/assets/pdf/211011pr-6-2.pdf

*2

出所)富士急行株式会社「富士山の世界遺産登録についての認知率 登録前の44.6%から96.2%へ大幅アップ!!」

https://www.fujikyu.co.jp/data/news_pdf/pdf_file2_1402964855.pdf

*3

出所)高知県「職場の健康づくり実態調査報告書」p.9

https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/111901/files/2016032400228/1.pdf

*4

出所)「いつでも、どこでも、だれでも ラジオ体操75年の歩み」ラジオ体操七五周年記念編集委員会 編 p.108, p.109

*5

出所)株式会社かんぽ生命保険「すこやかコラム 第1回」

https://www.jp-life.japanpost.jp/health/exercise/health-app/kam_201902.html

*6

出所)日本体育学会第68回大会「女子学生のラジオ体操におけるトレーニング効果について」宮辻和貴 p.137

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspehss/68/0/68_137_1/_article/-char/ja

*7

出所)株式会社かんぽ生命保険「【図解】ラジオ体操第一・立位の順番とコツを解説」

https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/instruction/radio_first.html

*8

出所)サントリーホールディングス株式会社「ラジオ体操の消費カロリーとは?ラジオ体操で期待できる健康効果についても解説」

https://www.suntory-kenko.com/column2/article/6970/#

*9

出所)厚生労働省「メッツ / METs」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-004.html

*10

出所)高見京太,北川薫,石河利寛「カロリーカウンターによるスポーツ活動中のエネルギー消費量の測定」p.380

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspeconf/43A/0/43A_380/_article/-char/ja

*11

出所)日本マクドナルド株式会社「メニュー情報」

https://www.mcdonalds.co.jp/products/2010/#pdpNutrition

*12

出所)株式会社かんぽ生命保険「ラジオ体操の歴史」

https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/abt_csr_rdo_history.html

*13

出所)株式会社かんぽ生命保険「楽曲等の使用について」

https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/abt_csr_rdo_cr.html

*14

出所)日本放送協会「みんなの体操」

https://www.nhk.or.jp/program/radio-taisou/pdf/minna.pdf

*15

出所)NPO法人全国ラジオ体操連盟「指導者資格認定制度とは」

https://www.radio-exercises.org/shidou/license

*16

出所)株式会社かんぽ生命保険「2022年度ラジオ体操優良団体等表彰 全国表彰式典 開催報告」

https://www.jp-life.japanpost.jp/radio/event/abt_csr_rdo_hyosho_32.html

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。