
2024年1月 5日 09:00
仕事のやりがいはどこにある?自分のやりがいを見つけるヒント
「仕事にやりがいを感じない」そんな時に役立つ、"働く意味"を探すヒント|看護師の私の場合
あなたは仕事のやりがいを、どんなところに感じていますか?
ものづくりに励む職人さんは、自分の理想以上のものが完成したり、納品先の企業に喜んでもらえたり、こういったところにやりがいを感じている人もいるでしょうか。
その一方で、もしかしたら「やりがいが感じられない」と悩んでいる方もいるかもしれません。
筆者は、看護師として病院や在宅介護の分野で働いていました。看護師のやりがいの多くは「悩んでいる患者さんの気持ちに寄り添えた」「元気になって退院する患者さんを見送れたとき」などがあります。確かにそれは筆者も感じますが、仕事を続ける中で別のやりがいに気付くことができました。
そのひとつが、「利用者さんの皮膚の汚れを落として、きれいにすること」。
今「仕事のやりがいが感じられない」と思っている方も、もしかしたら意外なところでやりがいに気付くかもしれません。
予想外だった仕事のやりがいは「皮膚の汚れをきれいにすること」
筆者は、訪問入浴介護で看護師をしていました。看護学校を卒業後、附属の総合病院に勤めましたが、環境が合わず早々に退職します。その後、友達が働いていた介護事業所に誘われ、訪問入浴介護で働くことになりました。
転職した当初は、なんとなく「看護師の仕事ができればいいや」と、軽い気持ちでいました。他の仕事には興味がなかったですし、せっかく苦労して看護師の資格をとったんだから活かさないといけないかな...と、どちらかというと消極的な考えで選びました。看護師のやりがいは全く求めておらず、訪問入浴介護がどんな仕事なのかも分かりませんでした。
訪問入浴介護での看護師の役割は、その日利用者さんが安全に入浴できるかどうか判断することです。
体温や血圧を測り、全身状態を確認し、家族がいれば変わった様子がなかったか聞いて、総合的に判断します。もちろんそれだけではなく、着替えや体を洗うサポートも行います。
実際に働いてみて気付いたのは、入浴を楽しみにしている利用者さんが想像以上に多かったことです。
「今日お風呂に入れることを楽しみにしていたよ」
と言われたり、家族から
「訪問入浴はいつ来るのか、朝から何回も聞いてくるんですよ」
と言われたことが何度もあります。
利用者さんのほとんどが寝たきりで、入浴が難しく、ときどき温かいタオルで体を拭いたり、足だけ洗ったりしている方が多くいました。
このような介助でも体の清潔はある程度保たれますが、やはり入浴とは全然違います。
そして、入浴好きの方が多いのは、日本には湯船につかる文化があったり、各地に温泉が豊富にあることも影響しているのかもしれません。
このようなことをお伝えすると、看護師や介護の仕事は
「人の役にたつ、いい仕事」
「やりがいがたくさんある仕事」
のように思われるかもしれませんが、実際はそればかりではありません。
あまり入浴できないということは、皮膚の汚れもたまっているということ。垢が固まってこびりつき、1度の入浴で落とし切れない利用者さんもいます。
こういう話をすると「自分はそんな仕事、絶対にやりたくない」という人もいるでしょう。
しかし私は意外にも、この「汚れた皮膚をきれいにする」ことに、看護師としてのやりがいを見つけたのです。
仕事のやりがいに気付くきっかけは、「5年間入浴していない利用者さん」
私が出会った利用者さんの中で、お風呂に入っていない期間が一番長かったのは、5年間入浴していない人でした。
その利用者さんは、がっちりとした体型の男性でした。やはり細身の人よりも、がっちりとした体型の人を介助するのは大変です。
介護を仕事にしている人でもそうなので、家族はより一層大変に感じるでしょう。
寝たきりになってから、なんとか家族が入浴させようとしたそうですが、利用者さんは断固拒否。
仕方なく体を温かいタオルで拭いて、なんとか清潔を保とうとしたそうです。
それでも家族は、なんとかして利用者さんに入浴してもらいたいと思い説得を続けると、しぶしぶ入浴すると決意してくれました。
それで、私たち訪問入浴介護のスタッフが訪問することになったのです。
初めて利用者さんのお宅を訪問した日、私は利用者さんが抵抗したり暴れたりするのではないかとドキドキしていました。すると、意外にもこちらの介助をすんなりと受け入れてくれて、入浴してくれました。
ホッと一安心したのも束の間、利用者さんが服を脱いでびっくり。皮膚には黒ずんだ汚れや垢がびっしりこびりついていて、まるで象の皮膚のようになっていました。
「この汚れは、どうやって落としたらいいんだろう...」
一緒に訪問したスタッフと共にしばし呆然としましたが、やるしかありません。普段どおり、タオルとボディソープで、体を洗っていきます。
すると、だんだんと汚れがふやけて少しずつ落ちて、きれいな皮膚が見えてきました。他の利用者さんでも、ここまではっきりと目に見えて皮膚に汚れがたまっている人はあまりいません。こうやって汚れが落ちていくんだなと、ある意味感動しながら体をあらっていきました。
訪問入浴介護では、利用者さんの体の負担にならないように、ある程度入浴時間が決まっています。その時間内では完全に汚れが落とし切れなかったので、次回に持ち越すことになりました。
その後、利用者さんは週に1回の入浴で、どんどん皮膚がきれいになっていきました。利用者さん本人はあまり関心がないようでしたが、家族からは「本当にありがとうございます」と感謝の言葉をもらいました。
なかなか強烈な経験でしたが、この偶然から私の仕事のやりがいに「利用者さんの皮膚の汚れを落として、きれいにすること」が加わったのです。
仕事のやりがいは、思わぬところにある
「利用者さんの皮膚の汚れを落として、きれいにすること」がやりがいになるとは、看護師になった当初は全く予想していませんでした。
それがたまたま、長年入浴していなかった利用者さんとの出会いによって、新たなやりがいに気付くことができたのです。
自分が感じる仕事のやりがいは、内容も出会うタイミングも分かりません。
「やりがいを見つけよう!」と思って探しても見つからないこともありますし、仕事を始める当初に思い描いていたものと違う可能性もあります。
初めはやりがいに感じていたことも、仕事を続ける途中で感じなくなることもあるでしょうし、私のように他の人にとってはやりたくないなと思うことでも、自分にとっては面白くやりがいを感じるかもしれません。
もし今「仕事のやりがいが感じられない」「そもそも、仕事のやりがいって何?」と思っている人には、ぜひ焦らないでいただきたいです。
仕事のやりがいは、今自分に与えられた役割に日々コツコツ取り組むことで、突然目の前に現れることもあると感じています。
そしてそのやりがいは自分が感じられればいいだけで、他の人と同じである必要もないのではないでしょうか。
浅野 すずか
フリーライター。看護師として勤務後、ライターに転身。その経験を活かし、主に医療や介護に関する記事を執筆。社会課題にも関心があり、NPO法人でも活動中。