スポーツドリンクと経口補水液は別のもの?知って納得、共通点と使い分け

ヒトは、1日に約0.9リットルの水分を呼気や汗で失っています。*1

汗をかきやすい運動時や夏場はさらに多くの水分を失うため、積極的な水分補給が必要です。また、汗をかくと水分とともにミネラル分も排出されるため、脱水時や熱中症の予防には適度な塩分補給も欠かせません。

図:1日の水の収支

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引用)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>水道対策>「健康のため水を飲もう」推進運動」*1
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html

発汗にともなう脱水・熱中症対策に有用なのが、スポーツドリンクや経口補水液です。それでは、スポーツドリンクと経口補水液は何がどう違うのでしょうか。場面に応じて使い分けるほうがよいのでしょうか。
今回は、スポーツドリンクと経口補水液の違いや共通点、使い分けのポイント、飲用時の注意点などを解説します。

スポーツドリンクと経口補水液の違いと共通点

スポーツドリンクと経口補水液は、組成が若干異なります(下表)。

表:一般的なスポーツドリンク・経口補水液などの組成 *2

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筆者補足
WHO 2002年:WHOが提案する経口補水液の組成 *3
3号液 輸液:1日に必要な水分・電解質を補給できる輸液(点滴液)*4
引用)日本救急医学会「刊行物>ガイドライン>2015年>熱中症診療ガイドライン」P.10*2
https://www.jaam.jp/info/2015/info-20150413.html
https://www.jaam.jp/info/2015/pdf/info-20150413.pdf P.10

この表を見ると、スポーツドリンクはミネラル分(Na:ナトリウム、K:カリウム、Cl:塩素)が少ない一方で、炭水化物(糖分)の量が比較的多いことがわかります。
他方、経口補水液はWHOが提案する経口補水液の組成に近いものとなっており、ミネラル分が多く炭水化物が少なめです。

ただ、通常の水分補給であれば、組成の違いを気にする必要はほとんどありません。なぜなら、スポーツドリンクも経口補水液も、発汗で失われる水分やミネラル分を豊富に含む飲料である点は変わりないからです。

事実、日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2015」では、「通常の水分・電解質補給であれば市販のスポーツドリンクで十分」とされており、「梅昆布茶や味噌汁などもミネラル、塩分が豊富に含まれており熱中症の予防に有効」との記載もあります。*2

なお、経口補水液については「常温で飲むほうが良い」といわれることもありますが、冷やしたり凍らせたりして摂取しても問題ありません。*5

また、沸騰させなければ温めて飲んでも構いません。*6

ただし、凍らせる場合は溶け残りがあると組成が変わるおそれがあります。そのため、凍らせる場合は一口サイズの製氷皿などを使用してください 。*5

ちなみに、飲料は5~15度程度に冷やして飲むと吸収が良くなり、冷却効果も高まります。*7

したがって、脱水や熱中症対策として経口補水液を利用する場合は、軽く冷やしてから飲むのがおすすめです。

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スポーツドリンクと経口補水液はどのように使い分ければいい?

基本的に、通常の水分補給であればスポーツドリンクと経口補水液を使い分ける必要はありません。
強いて言えば、運動して汗をかいている場合はスポーツドリンク、運動はしていないものの気温の上昇や発熱などで汗をかいている場合は経口補水液がおすすめです。*8

しかし、脱水や熱中症が疑われる場合、基礎疾患がある場合は使い分けが必要な場合もあります。

脱水時は経口補水液がおすすめ

脱水を起こしている場合や熱中症が疑われる場合は、スポーツドリンクより経口補水液のほうがおすすめです。
経口補水液はスポーツドリンクにくらべて体内に塩分や水分を取り込みやすい組成になっているため、より速やかな回復が期待できます。 *2 *9
なお、自力で飲水できないほど症状が悪化している場合は、速やかに医療機関で治療を受けてください。

参考)日本救急医学会「刊行物>ガイドライン>2015年>熱中症診療ガイドライン」P.7 *11を参考に筆者作成
https://www.jaam.jp/info/2015/info-20150413.html
https://www.jaam.jp/info/2015/pdf/info-20150413.pdf P.7

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基礎疾患がある場合は慎重に

スポーツドリンクは炭水化物(糖分)の量が比較的多いため、常飲すると糖分の過剰摂取につながります。そのため、糖尿病の方や肥満傾向のある方がスポーツドリンクを飲む場合は、飲み過ぎにならないよう注意が必要です。
また、ローカロリータイプやカロリーゼロタイプのスポーツドリンクもおすすめできません。低カロリー製品に添加されている人工甘味料は、習慣的に摂取すると味覚や腸内細菌のバランスに変化を起こし、糖の代謝に悪影響をおよぼす可能性が指摘されています。*12

他方、経口補水液はナトリウムやカリウムを豊富に含みます。
ナトリウムの過剰摂取は血圧の上昇につながることもあるため、高血圧の方は摂り過ぎないようにしてください。*13
また、腎機能が低下しているとカリウムの排泄がうまくいかなくなるため、高カリウム血症を起こしやすくなります。血液中のカリウム濃度が極端に高くなると命にかかわる症状があらわれることもあるため、大変危険です。*14

したがって、医師からカリウムの摂取制限を指示されている場合は、安易に経口補水液を摂取しないようにしましょう。

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脱水・熱中症予防には日々の体調管理も重要

脱水や熱中症の予防には、こまめな水分補給はもちろんのこと、暑さを避けること・通気性の良い衣類を選ぶことなど環境を整えることも大切です 。*15
また、脱水や熱中症になりやすいかどうかは、その日の体調にも影響されます。食事や水分を十分に摂れていないとき、睡眠不足のとき、体調が万全ではないときなどは無理をせず、こまめに水分を摂りながら作業や運動をするようにしてください。*16

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引用)環境省 熱中症予防情報サイト「普及啓発資料>熱中症環境保健マニュアル」P.36
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_pr.php#manual
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdfP .36


参考文献・参考サイト
*1
出所)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>水道対策>「健康のため水を飲もう」推進運動」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html
*2
出所)日本救急医学会「刊行物>ガイドライン>2015年>熱中症診療ガイドライン」P.10*2
https://www.jaam.jp/info/2015/info-20150413.html
https://www.jaam.jp/info/2015/pdf/info-20150413.pdf P.10
*3
出所)Word Health Organization「ORAL REHYDRATION SALTS Production of the new ORS」P.3 TABLE1.
https://apps.who.int/iris/rest/bitstreams/65535/retrieve
*4
出所)大塚製薬工場「患者さん・一般の皆さま>輸液と栄養>水・電解質輸液」
https://www.otsukakj.jp/healthcare/iv/electrolytes/
*5
出所)経口補水液OS-1ブランドサイト「Q&A>凍らせてもいいですか?」
https://www.os-1.jp/faq/10/
*6
出所)経口補水液OS-1ブランドサイト「Q&A>温めて飲んでもいいですか?」
https://www.os-1.jp/faq/08/
*7
出所)環境省 熱中症予防情報サイト「普及啓発資料>熱中症環境保健マニュアル」P.33
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_pr.php#manual
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdfP .33
*8
出所)農林水産省「消費者の部屋>消費者相談>過去の相談事例>加工品・調味料>熱中症対策には、水よりスポーツドリンクを飲むとよいと聞いたのですがどうしてですか。また、経口補水液との違いも教えてください」
https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/2007/02.html
*9
出所)経口補水液OS-1ブランドサイト「脱水対策>素早く見つけて、すぐ対策!脱水症&熱中症>脱水症になってしまったら経口補水液を摂取」
https://www.os-1.jp/dehydration_heatstroke/dehydration_heatstroke05/
*10
出所)日本救急医学会「刊行物>ガイドライン>2015年>熱中症診療ガイドライン」P.14
https://www.jaam.jp/info/2015/info-20150413.html
https://www.jaam.jp/info/2015/pdf/info-20150413.pdf P.14
*11
出所)日本救急医学会「刊行物>ガイドライン>2015年>熱中症診療ガイドライン」P.7
https://www.jaam.jp/info/2015/info-20150413.html
https://www.jaam.jp/info/2015/pdf/info-20150413.pdf P.7
*12
出所)農畜産業振興機構「砂糖>調査報告>その他>人工甘味料と糖代謝」
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001494.html
*13
出所)健康長寿ネット「健康長寿とは>栄養素>ナトリウムの働きと1日の摂取量」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-na.html
*14
出所)健康長寿ネット「健康長寿とは>栄養素>カリウムの働きと1日の摂取量」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-k.html
*15
出所)全日本病院協会「みんなの医療ガイド>「熱中症について」」
https://www.ajha.or.jp/guide/23.html
*16
出所)環境省 熱中症予防情報サイト「普及啓発資料>熱中症環境保健マニュアル」P.36
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_pr.php#manual
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdfP .36 heatillness_pr.php#

中西 真理

公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。