失敗は成功のもと 失敗で生まれたヒット商品からものづくりを学ぼう

失敗は発明の母 あんなものやこんなものも、実は失敗作から生まれた

いま世を席巻している大ヒット商品の数々の中には、「失敗作から生まれた」というものがよくあります。

「狙ったものを作ったはずなのに」「そういうつもりで作ったわけではなかったのに」。

期待通りに製品を作り出すことは重要です。しかし10割バッターなど存在しません。その中で研究者の「諦めない」執念が、失敗作をヒット商品に変えていった事例はいくつもあります。

今回はそれらを紹介しながら、ものづくりにおいての失敗をいかに成功の母にするかを知っていただければと思います。

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世界でも代表的な失敗作「ポスト・イット」

オフィスや日常生活の中でも必ず見かける「ポスト・イット」。本のしおりの代わりや伝言メモ、覚え書きなどその使い道は幅広く、とても便利な道具です。

そして、ポスト・イットが「失敗」から生まれた商品であることはよく知られています。

ことの始まりは1968年にさかのぼります。
3Mの研究者であるスペンサー・シルバー氏は「接着力の高い接着剤」を開発するために実験を繰り返していました。

しかし、その結果はこのようなものでした。

その当時、私たちは、より優れて強い、丈夫な接着剤を開発しようとしていました。」とシルバーは語りました。「しかし、これは目指していたものとはまったく異なる性質のものでした。」

<引用:「ポスト・イット® ブランドについて」3M>
https://www.post-it.jp/3M/ja_JP/post-it-jp/contact-us/about-us/

シルバー氏が発見したものはマイクロスフィアと呼ばれる接着剤で、たしかに高い粘性を持っていました。
しかし、致命的な欠陥があったのです。

簡単に剥がすことができる、という特徴も持ち合わせていたのです。

今でこそ「よくついて剥がしやすい」接着剤はあちこちで便利なものとして使われていますが、シルバー氏が目指していたものはそうではありませんでした。

そこからシルバー氏は、自分が発明した接着剤の使い道を見つけるのに苦労していました。そこから何年もの間、社内のあらゆる部門の人たちに、この接着剤の使い道はないかとたずねまわったといいます*1。

このようにしてシルバー氏が自分の発明品に対する執念を捨てきれない時間を過ごしていた時、3Mのもうひとりの科学者、アート・フライ氏はある苛立ちを抱えていました。

教会の聖歌隊のメンバーであったフライ氏は、小さな紙切れをしおりとして、次の礼拝で歌う讃美歌のページに挟んでいましたが、ある日、目標に挟んでいたしおりが滑り落ちてしまったのです。

しかし、フライ氏はただでは転びませんでした。

またか...と思った瞬間、フライの頭の中にひらめくものがありました。ページを破ることなく紙にくっつくしおりがあればいいことを思いつきました。

<引用:「ポスト・イット® ブランドについて」3M>
https://www.post-it.jp/3M/ja_JP/post-it-jp/contact-us/about-us/

そうです。シルバー氏が発明した接着剤こそ、ぴったりだったのです。こうしてシルバー氏が作り出した接着剤は、5年の時間を経て製品化に向けて動き始めました。
そして1977年、アメリカでテスト販売にこぎつけ、1980年になってようやく「ポスト・イット」として全米で発売されたのです。その翌年、日本にも上陸しました。

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ポスト・イットを成功に導いたもの

今では随所で欠かせない便利なメモ用紙が生まれたのは、ひとえにシルバー氏の執念でしょう。発見から数年たっても使い道が見つからなければ、製品化をあきらめてしまう人がいてもおかしくありません。

しかしシルバー氏は、自分の発明に5年以上執念を持ち続けたのです。そこにフライ氏の「ひらめき」があいまって、大ヒット作が生まれたというわけです。

ちなみに、ポスト・イットの象徴的な「カナリーイエロー」と呼ばれる黄色は、研究所で使う紙片がその色のものしかなかったから、ということです*2。

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あのコロコロするやつ

カーペットや服についたホコリを取るための便利ツール。あの「コロコロ®︎」も、実は失敗から生まれた製品です*3。
コロコロを販売しているニトムズは、1975年から「ゴキ逮捕」というゴキブリ捕獲商品を発売しました。ハエたたき棒の先端に粘着剤をつけたような形の商品でした。

しかし、ハエとは訳が違い、ゴキブリはあまりにも動きが速すぎて捕まえられず、失敗作になってしまったのです。

しかし、ある日のことです。

社内の倉庫で女性社員が粘着テープで服のホコリをとっていたのを見た社員がひらめきました。ホコリなら、ゴキブリのように速く逃げることはない!
当たり前といえば当たり前です。しかし、この「当たり前」をひらめくのはそう簡単なことではありません。

そこで生まれたのが「粘着カーペットクリーナー」です。消費者から「あのコロコロするやつ」と呼ばれるようになり、商品名も変更されました。

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生活者の視点に立つということ

ポスト・イットもコロコロも、日常生活のワンシーンから得た「ひらめき」が失敗作を大ヒット商品に変えたといえます。
わたしたちはどうしても、普段はひとりの生活者でありながらも、仕事となるとそのことを忘れがちです。

以前、筆者は後輩に農家の取材に行ってもらったところ、こんなことがありました。

その年は白菜が不作で、商品として出せる出来のものが少ないために多くの農家が、育った白菜を自ら破棄する事態になっていました。きっちりと葉が詰まったものができなかったのです。

そのことをニュースにするために農家さんのもとに取材に行ってもらったのですが、彼はインタビューでこんな反応をしてしまったのです。

持ってみたらわかるよ、軽いでしょう、と「スカスカの」白菜を手渡された彼は、

「え、これで軽いんですか?」と言ってしまったのです。

彼はスーパーで白菜を手に取ったことがなかったのでしょうか。一度や二度は「鍋パーティー」などやったことがあってもおかしくなかったのですが。
完全に「生活者の視線」が抜け落ちてしまっていたのです。

「仕事をしている自分」と「生活者である自分」が別物になってしまっている人は多いものです。しかしポスト・イットやコロコロは、「日常の動作」に着想を得て、失敗作を大ヒット商品に変えたという共通点があります。
ものづくりにあたって、とても重要なことだと筆者は思います。

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人気料理にも数々の「失敗作」

さて、最後に、料理の分野での「失敗作」をいくつかご紹介しましょう*4。

まず、みんな大好き「ポテトチップス」です。
これは、ニューヨークのとあるレストランで料理人が「フライドポテトが厚すぎる、やわらかすぎる」とクレームをつけられたことがきっかけだと言われています。
それならば、と料理人は嫌がらせの意味も込めてポテトを可能な限り薄く切って揚げたところ、おいしかった、という話です。

また、グラタンは実は「鍋にこびりついたおこげ」の意味なのだそうです。あのチーズの焦げた部分が筆者は大好きですが、もともとはそんなつもりはなく、うっかり焦がしすぎた料理を食べてみたら意外とおいしかった、というのが始まりだと言われています。

執念から生まれたものや偶然から生まれたものまで、いま当たり前のように私たちが接しているもののなかには、失敗の過去があるものなのです。

失敗しても凹まず諦めず、失敗作の良いところを探し続けてみる。
ひとつのものに対して多くの可能性を感じられる人が、ものづくりの場では成功していくのかもしれません。


*1、2
「ポスト・イット® ブランドについて」3M
https://www.post-it.jp/3M/ja_JP/post-it-jp/contact-us/about-us/

*3
「あのヒット商品はこんな『失敗』を経て世に出た」アエラドットコム
https://dot.asahi.com/aera/2016071300120.html?page=3

*4
「これ、ぜんぶ失敗作」味の素広告
https://www.ajinomoto.co.jp/kfb/cm/newspaper/pdf/2016_7.pdf

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。