仕事一筋の人生で本当に満足ですか?やりがいと健康を両立させるためにできること

「多少自分の生活を犠牲にしてでも、仕事はしっかりやらなければならない」

もしかすると、職人さんの中にはこのような熱い思いを抱きながら日々の仕事に取り組んでいる方が多いかもしれません。

仕事にやりがいを感じ一生懸命になるのは素晴らしいことですが、看護師だった筆者からすると少しだけ健康にも目を向けてほしいなと思います。

健康だからこそ、思いっきり仕事に打ち込むことができます。

体調を崩し、人生の最期が近づいてきたとき、「自分の人生は満足だった」と心から言えるでしょうか。

そこで今回は、筆者が実際に体験した事例を紹介しながら、仕事のやりがいと健康を両立させ満足のいく人生にするためにはどうすればいいのか考えたいと思います。

仕事に熱心だった人は、人生の最期で何を感じているのか

筆者が看護学生だったころ、実習で受け持ったAさんという患者さんがいました。肺がんで入院していたのですが、体の状態はよく、しっかり話すこともできるし一人で歩けていました。性格もとても穏やかで、私がベッドサイドに行くといつもにこやかに話してくれました。

そんなAさんですが、仕事の話となると厳しい一面が見えました。

自分が左官工として、多くの部下を抱えながら仕事をしていたこと。いつも仕事をきっちりこなしていたこと。いかに自分が仕事に対して誇りを持ちながら働いていたかを、熱く語っていました。

時には、Aさんは医者の文句を言うこともありました。職人のこだわりからでしょうか、左官工と医者という、全く違う分野の職業ではあるのですが、医者の仕事への姿勢に対して「あんな仕事をしていちゃダメだ」とぼやいていました。このことからも、Aさんがいかに仕事に一生懸命生きてきたかが分かります。

その後、検査を進めていくうちに、Aさんは肺がんの末期であることが分かりました。家族の希望で、Aさんには病状が知らされないことになります。

それから数日経ち、実習の終了をもってAさんとの関わりはなくなりました。実習は3週間ごとにいろいろな診療科を回るため、Aさんとの関わりもそのタイミングで終わることになったのです。

通常であれば、実習中に受け持った患者さんがその後どうなったのか知ることはありません。しかし、私はたまたまAさんの状態を知ることになります。

そのきっかけが、キャンドルサービスです。私が通っていた看護学校では、クリスマスが近くなると夜にキャンドルを持ちながら病棟を回り、クリスマスソングを歌うというイベントがありました。

入院している患者さんは、外に出る機会が限られるので、普段の生活よりも季節を感じることが難しくなります。そのため、キャンドルサービスは患者さんたちがとても楽しみにしているイベントでした。

誰がどの病棟を回るのかは、教員が決めるのですが、私はたまたまAさんが入院している病棟を回ることになりました。

でも、Aさんがそのときまで入院しているかどうかは分かりません。退院していたり他の病棟に転院している可能性もあります。

キャンドルサービスの当日。「Aさんに会えたらいいな」と期待しながら、私はAさんが入院している病棟を回りました。何人かの患者さんは、廊下やラウンジに出てきています。

Aさんはいるだろうか...。照明が落とされ薄暗い中、私はキョロキョロとAさんを探しました。

すると、病室の前に立ち、こちらを見ているAさんらしき姿を見つけました。少しずつ近づくにつれて、その方がAさんだと分かりました。私がすぐにAさんだと認識できなかったのは、やせ細って見た目がかなり変わっていたからです。

私が実習で担当していた頃、Aさんは標準的な体型でしたが、頬がこけて体が一回り小さくなったようでした。もしかすると、がんの影響や抗がん剤治療の副作用による食欲低下などが原因で、やせてしまったのかもしれません。

Aさんは、私を見るなり泣きだしました。キャンドルサービスというイベント中なのでしっかり話すことはできず、Aさんの手を少し握るくらいしかできませんでしたが、あのときのAさんの気持ちを考えると今でも胸がしめつけられます。

Aさんは、何を思って涙を流したのでしょうか。長引く入院生活やよくならない体調に不安を抱いていたのかもしれませんし、もしかすると自分の最期を意識していたのかもしれません。

年配の人の多くが「自分らしく生きていきたい」と思っている

人生の最期が近づいている人は、どう生きていきたいと考えているのでしょうか。

これは、2021年に発表された日本財団の調査です。人生の最期をどのような場所でどのように迎えたいかについて、看取る側と看取られる側(※)の両方の考え、思いを明らかにすることを目的としています。

(※)看取る側:35歳~59歳かつ、親あるいは義親(の1人以上)が67歳以上で存命の男女

看取られる側:・67歳~81歳の男女

看取る側は親御さんを看取ることを想定、看取られる側は看取られることを想定して回答しました。

看取られる側に対して、「生活に対する意識について、当てはまるものを全て答えてください」という質問を行ったところ、最も多かったのは「自分らしく生きていきたい」で70.4%でした。77-81歳は、「モノではなく、こころが豊かな人生を送りたい」「平凡に暮らしていきたい」「人との出会いやつながりを大事にしていきたい」などが、他の年代に比べて高いという結果でした。*1

このデータから、精神面の豊かさや安定を示す回答が多く選ばれていることが分かります。

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引用)日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査」

https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2021/03/new_pr_20210329.pdf p12

ここで、最も多く選ばれた「自分らしく生きていきたい」について考えてみましょう。

「自分らしく生きる」とは、かなり曖昧な表現です。ある人は好きな趣味に没頭することかもしれませんし、仕事に邁進して社会的地位を高めることを目標として生きる人もいるでしょう。そしてそれは、人生の最期までずっと同じではなく、時期によっては変わるかもしれません。

大切なのは、「自分らしさとは何か」を考えることではないでしょうか。もし自分らしさが仕事であれば、思う存分仕事に打ち込めばいいと思います。ただ、健康でなければ仕事に打ち込むことも難しくなってしまいます。

自分らしくやりたいことをやる。そのために、できるだけ健康も維持する。このような生き方が、本当の意味で「自分らしく生きていきたい」という願いを叶えるのだと思います。

人生のいきがいを大事にするためにできること

仕事のやりがいを感じながら、健康的に生活するためにできることを考えてみましょう。


(1)できるところから、生活習慣を整える

バランスのいい食生活、十分な睡眠...。これらは健康になるための定番で、さまざまな病気の対処法にも共通して挙げられる項目です。これを見ると「分かっているけど、できないから困っているんだよ」と感じる人も多いかもしれません。

確かに、毎日毎日健康を意識して生活習慣を整えている人は、ごくわずかでしょう。多くの人が、そのときの気分や好きなことに流され、守れないものです。

だからといって、乱れた生活をしてもいいかというと、そうではありません。

ここで、たばこを例に話します。生活習慣に関する話をすると、「自分の父親はヘビースモーカーだけど、病気になったことはないし、元気にしているよ」と言う人がいます。しかし、だからといって「たばこを吸っても大丈夫」とはならないのです。

もちろん、たばこを吸っても元気に暮らしている人もいるでしょう。ただ、たばこは血管や呼吸機能に悪影響を及ぼすことが分かっており、病気になるリスクは高まります。つまり、病気になりやすいかそうでないかという確率の問題なのです。

反対に、健康にとても気を付けていた人が病気になることもあるでしょう。これは全く不思議なことではありません。先ほども話したとおり、病気になりやすいかどうかという確率の問題で、「この生活習慣を守れば、絶対に病気が防げる」というものはないのです。

毎日でなくてもいいですし、完璧にこなそうとしなくていいので、健康につながる生活習慣をできるところから取り入れてみてはいかがでしょうか。

例えば、週の半分は7時間以上寝る、週末は自炊して野菜多めの食事を心がけるなど、自分のライフスタイルにあった方法を検討してみてください。


(2)健康診断を受ける

「特に体の不調はないから大丈夫」と、安心するのは早いです。初期の場合、症状が出にくい病気は多くあります。代表的なものが、高血圧です。高血圧は、狭心症や脳梗塞などの病気を引き起こしますが、自覚症状はほとんどありません。そのため、気づいたときには病気になっていることもあるのです。

自覚症状がない病気に気づくためには、健診が有効です。早く気づけば、治療できる病気もあります。元気なときほど健康への意識が遠くなりますが、その元気な状態を維持するためにも定期的に健診を受けましょう。


(3)人生で大切にしたいもののバランスを考える

家族や友人、趣味の時間など、仕事以外に大切にしたいものはないでしょうか?もしあったとしたら、仕事と同じくらい、もしくは仕事より少し優先順位を下げてでもいいので今よりもっと大切にできないでしょうか?

私たちは、いつ人生の最期を迎えるか分かりません。仕事のやりがいを見つけ、健康も保ちながら、人生において大切にしたいもののバランスを考えていきましょう。

【まとめ】

仕事に熱中すると、多少体調が悪くても無理をしてしまうことがあるかもしれません。そういう時期も大切かもしれませんが、ずっと続いてしまうと体調を崩してしまいます。健康維持も仕事のひとつとして、日々の体調管理を意識していきましょう。



【参照サイト】

*1

参考)日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査」

https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2021/03/new_pr_20210329.pdf p12

浅野 すずか

フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた記事を執筆。