暑い夏がやってくる!嫌われがちな汗の役割に迫る

「工場内の空調管理」それは多くの企業が、課題としている事柄ではないでしょうか。

大きな体積を持つ工場建物は冷暖房の効率が低く、一般的にビルやオフィスと比べても空調管理が難しい建物です。

そのため、製造現場において「汗」は切っても切れない関係にあります。

一方で、汗で衣類が湿る、においが気になる...皆さん一度は経験したことがある悩みでしょう。

多くの場合、汗は歓迎される存在ではありません。

しかし、汗をかくことは非常に重要な生理現象です。

ここでは、嫌われがちな汗の役割と汗にまつわるトリビアを紹介します。

製造現場と汗

冒頭で紹介したように、製造現場において工場の空調管理は課題として取り上げられることが多い事柄です。

一般的に工場は空間が広いため、空調管理が難しいとされています。*1

製造品目によっては、製造する製品自体が熱いこともありますし、製造工程で使われる設備が発熱する場合もあります。けがを防止するために長袖の作業着の着用を義務化している現場も多いでしょう。*2

中には夏場に、工場内の気温が40℃を超える現場もあり、製造現場ではまさに「汗水たらして」生産が行われているのです。*3

汗の役割

汗の役割として第一に挙げられるのが「体温調節」。

汗の成分はほとんどが水であり、水が蒸発する時に周囲の熱を奪い、体を冷却しています。

この時奪われる熱を気化熱といい、1ミリリットルの水が蒸発する時、その周囲からは約583カロリーの熱が奪われます。

例えば、体重60キログラムの人が250キロカロリーのエネルギーを消費する運動(ウォーキングを1.5時間程度実施)をする時、430ミリリットル程度の汗が出れば体温を一定に保ったまま活動できます。

これが、汗が全くでなかった場合、理論上体温が約5℃上昇してしまいます。

平均的な体温は36.6~37.2℃ですから、5℃体温が上がってしまうと41.5~42.2℃に達してしまい、とても運動をしている場合ではありません。*4,*5

もう一つの汗の重要な役割が「摩擦」です。

私たちは手のひらや足のうらにも汗をかきます。

この手のひらや足のうらの発汗は、ものをつかむ、危険なことからとっさに逃げたりする時に、滑り止めの役割を果たしていたと考えられています。

もっとも、現代では危険から逃れるために走り回ることはほとんどないのですが。

汗は「汗腺」という腺から分泌されますが、手のひらと手の甲では汗腺の配置が異なります。

手のひらは効率よく汗を蒸発させるため、ものに接する面に汗腺が配置されているのです(図1)。*6

図1 汗腺の配置

出所)花王株式会社「汗の基礎知識 - 汗にも種類がある!?」
https://www.kao.co.jp/8x4/lab/article02/

さらに、汗は皮膚をケアする役割も担っています。

私たちの皮膚には常在菌が存在していますが、汗が皮膚表面を弱酸性に保つことで黄色ブドウ球菌のような危険な細菌の繁殖を抑制しています。

他にも、体内の老廃物(アンモニア、尿素など)の排泄や、皮膚の保湿などの役割も果たしています。*7,*8

汗は、私たちが運動したり物を持ったり、健康的に生活するには欠かせないものなのです。

汗が嫌われる理由ーその解消方法とはー

汗が嫌われる理由はそのニオイではないでしょうか。

「汗はくさい」という認識があるかもしれませんが、汗自体にはニオイがありません。

ニオイの原因は、前述の私たちの皮膚にいる細菌が汗や皮膚の汚れをエサにして作り出した物質です。

実は、汗にもよい汗と悪い汗があります。よい汗の成分は水に近く、悪い汗はカリウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、重炭酸イオンなどのミネラルや電解質、さらに乳酸、尿素などの老廃物も含まれています。

汗が作られる工程で、ミネラルは再吸収される仕組みですが、発汗量が多くなると再吸収が間に合わず、いわゆる悪い汗になってしまいます(図2)。*9

図2 汗腺のろ過機能

出所)花王株式会社「汗の基礎知識 - 汗はなぜ臭うの?」

https://www.kao.co.jp/8x4/lab/article03/

この悪い汗は、常在菌のエサが多く含まれているので嫌なニオイが発生しやすい汗です。

実はこの汗の性質は、ある程度コントロールすることができます。

そのコントロール方法とは、普段から汗腺を鍛えること。

汗をかく機会が増えれば、汗腺の機能が向上し、良い汗をかくことができるようになります。

例えば、普段から運動をすることや、42〜43℃のやや熱めのお湯を浴槽に少なめに張り、ひじから下とひざから下だけを15分くらいつけて温めることも有効です。*10

他にも、衣類から発生するニオイを軽減するために、消臭・除菌効果のある洗濯洗剤を使う、衣類に消臭剤をスプレーすることも効果があります。*10

また、汗は気化熱により体温を調節すると紹介しましたが、この役割を果たすのは「目に見えない汗」です。

私たちが「汗をかいている」と認識するのは、汗が滴となっている時ですが、実際は滴になる前から汗をかいています。

この目に見えない汗が、蒸発することで体温を奪い、体を冷却しているのです。

一方、目に見える汗は、蒸発せず冷却効果もありません。少量の汗をかいた時には、抵抗があるかもしれませんが、乾燥している部分に汗を伸ばすようにして軽くふき取ると蒸発面積が増えて冷却効果が高まります。

汗をたくさんかいた時には、汗孔という孔が閉塞する可能性があるので、できるだけふき取ることがおすすめです。*4

汗と体臭に関するトリビア

前述の通り、汗のニオイは肌に住む常在菌によって引き起こされます。

様々なニオイ物質が発生しますが、強い刺激臭を持つアンモニアも皮膚表面から発生することがあります。

アンモニアを含めたヒトの体表面から放散される微量な生体ガスを「皮膚ガス」といい、表面反応で発生したり、汗と一緒に皮膚に表面に上がってきたり、血液から直接染み出すこともあります(図3)。*11,*12

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図3 皮膚ガスの放散経路

出所)におい・かおり環境学会誌 48巻 6 号「皮膚ガス測定は何に役立つか?」関根 嘉香,木村 桂大,梅澤 和夫 P411

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/48/6/48_410/_pdf/-char/ja

実はこの皮膚ガス増加の原因の一つが、タンパク質のとりすぎであることがわかっています。タンパク質を過剰に摂取するとタンパク質が分解されてできたアミノ酸が大腸に届き、腸肝循環する尿素が腸内細菌によってアンモニアに変えられて体に吸収されてしまうのです。

この皮膚ガスはストレスにも影響を受けるため、「疲労臭」と呼ばれていました。近年オリゴ糖を継続して接種することで、腸内のビフィズス菌を増やし発生量を軽減できるという事がわかっています。*13

体臭が気になる方は、まず腸内環境を整えてみるといいかもしれません。

ところで、皆さんは夏場に食欲が落ち、肉料理を避けてさっぱりしたものを食べたいと思ったことはないでしょうか?

人間の体は食べ物を食べると熱産生量が多くなる性質がありますが、タンパク質は摂取エネルギーの約30%のエネルギーが熱になります。

それに比べ、糖質の熱産生は約4%、脂質は約6%です。いかにタンパク質の熱産生量が多いかがわかります。

私たちは食欲に関する脳の中枢が熱に影響されること、経験上肉料理によって体が温まることを知っているため夏場に肉料理を避けたくなるのです。*14

食後に汗をかきたくない場合は、タンパク質を控え目にしましょう。

汗なくして労働はできない

私たちの体の中で、一番熱に弱いのが脳です。

この脳を守るために発達した機能が発汗で、汗がなければ体温は上がり続けて仕事どころではありませんし、手が乾燥してものもうまく掴めないかもしれません。

花王株式会社が発表している消費者実態調査によると、「汗をかくことは体にいいこと」だと考える人は94.8%にのぼります。

しかしながら、「汗をかくことは体にいいことだが、出来るだけ抑えたい」と考えている人は67.5%で、実に半分以上が汗自体をケアしたいと考えています。

やはり気にしているのはニオイ。*15

残念ながら汗を完全に出さなくすることも無臭にすることもできませんが、ニオイを軽減することは可能です。

仕事でいい汗をかくべく、汗腺のトレーニングや腸内環境を整えてみませんか。



参考文献

*1 日本経済新聞「日本の夏にミスト冷却は有効か 暑熱対策に新システム」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC294WM0Z20C22A8000000/


*2 
福岡県医報 第1344号「労働衛生保護具の着用について」江口尚,堀江正知 P1

http://ohtc.med.uoeh-u.ac.jp/soudanmadoguti/No.1344(H17.2).pdf


*3 
東洋経済オンライン「真夏は40℃超え...愛知・某工場の空調事情 | ダイキン工業 空気で答えを出す会社」

https://toyokeizai.net/articles/-/241509


*4 
「汗はすごい」菅屋潤壷 著 P13,P14,P59,P65,P66,P201,P202


*5 
一般財団法人 茨城県メディカルセンター「平熱はどれくらい?体温計での正しい検温のポイント」

https://imc.or.jp/archives/mamechishiki/%E5%B9%B3%E7%86%B1%E3%81%AF%E3%81%A9%E3%82%8C%E3%81%8F%E3%82%89%E3%81%84%EF%BC%9F%E4%BD%93%E6%B8%A9%E8%A8%88%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%84%E6%A4%9C%E6%B8%A9%E3%81%AE%E3%83%9D%E3%82%A4


*6 
花王株式会社「汗の基礎知識 - 汗にも種類がある!?」

https://www.kao.co.jp/8x4/lab/article02/


*7 
東京医療保健大学「皮膚の常在細菌について」

https://www.thcu.ac.jp/research/column/detail.html?id=110


*8 
花王株式会社「知っておきたい汗のチカラ」

https://www.kao.co.jp/8x4/lab/effect01/


*9 
花王株式会社「汗の基礎知識 - 汗はなぜ臭うの?」

https://www.kao.co.jp/8x4/lab/article03/


*10 
花王株式会社「ニオイを抑えるためにも「いい汗」をかこう!」

https://www.kao.co.jp/lifei/column/26/


*11 
におい・かおり環境学会誌 51巻 6 号「Prebiotic effect of lactulose on ammonia emanating from human skin surface」Yoshika SEKINE, Shiori UCHIYAMA, Michihito TODAKA, Yohei SAKAI, Ryo SAKIYAMA , Hiroshi OCHI, Fumiaki ABE, Satomi ASAI, Kazuo UMEZAWA P338

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/51/6/51_338/_pdf/-char/ja


*12 
におい・かおり環境学会誌 48巻 6 号「皮膚ガス測定は何に役立つか?」関根 嘉香,木村 桂大,梅澤 和夫 P410-411

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/48/6/48_410/_pdf/-char/ja


*13 
日本経済新聞「洗っても消えない疲労臭 体から発散、腸内環境に一因 」

https://www.nikkei.com/nstyle-article/DGXMZO54979690Z20C20A1000000/


*14 
「新 汗のはなし―汗と暑さの生理学」小川徳雄 著 P148


*15 
花王株式会社「消費者実態調査 - 現代人の「汗・ニオイ」の意識はネガ汗・ポジ汗二極化消費者実態調査」

https://www.kao.co.jp/8x4/lab/survey01/

田中 ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。