製造業における危険予知活動(KY活動)とは?家庭でもKY活動を実践してみよう

製造業における危険予知活動(KY活動)とは?家庭でもKY活動を実践してみよう

危険予知活動(KY活動)とはヒューマンエラーによる事故や災害を防止するために、職場に潜んでいる危険なポイントを話し合いで共有し、対策や改善をおこなうことです。
そして、現場や職場で危険を自ら発見し、解決する能力を高める訓練は危険予知訓練(KYT)と呼ばれ、多くの製造業の現場で実践されています。

KY活動やKYTという言葉にはあまり馴染みがない方も多いかもしれませんが、日々の暮らしの中にも多くの危険が潜んでいます。
大きな事故に至らないまでも、子育て中は思いもよらない子どもの行動に「ヒヤリ」「ハット」することも少なくありません。
実際に子どもの死亡原因は不慮の事故が上位となっており、家庭内でも多くの重大事故が発生しています。

KY活動やKYTを子育てに取り入れ、危険なポイントを見つけて適切な対策をおこなっていくことは、子どもの事故を防ぐことにも有効なのではないでしょうか。

危険予知活動(KY活動)とは?

危険予知活動とは、現場にどんな危険が潜んでいるのかを洗い出し、危険なポイントに適切な対策をおこなうことで、ヒューマンエラーによる労働災害を未然に防止する取り組みのことです。
危険の"K"と予知の"Y"の頭文字をとって、KY活動と呼ばれます。

KY活動では、業務上危険だと感じる部分をチームの話し合いによって共有し、危険であるとチームで合意したポイントに対して、具体的な改善をおこないます。
対策に対して行動目標を定め、業務の要所要所で指差し呼称を実践していく、この一連のプロセスがKY活動です。(図1)*1

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​図1:KY活動とは
出所)厚生労働省「KY活動」p.40
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000075092.pdf

事故のリスクのある設備を使用することが多い製造業の現場では、KY活動はとても重要で、日常業務のなかで積極的に実践されています。

より高度なKY活動をおこなうために、職場や作業の危険性や有害性を発見する能力を高める危険予知訓練(KYT)という手法もあります。
KYTを実施するときは、意見を出しやすいように5人から6人でチームとなり、表1のような「KYT4ラウンド法」という方法を用いて段階的に進められます。*2

無題.png​表1:KY活動とは
出所)厚生労働省 職場のあんぜんガイド「危険予知訓練(KYT)」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo40_1.html

職場でKYTを導入することで、日頃から危険を察知する能力が高まり、問題解決力を向上させることができます。
チームの全員が参加しておこなうため、話し合いによってチームワークも良くなり、職場の風土作りにも役立ちます。

KY活動やKYTでは、職場で実際に体験したヒヤリハットもシェアし、問題解決に活用します。
ヒヤリハットとは、怪我や事故には至らないものの、一歩間違えると重大事故になりかねない「ヒヤリ」「ハット」とした経験のことです。
ハインリッヒの法則と呼ばれる労働災害に関する統計学上の法則によれば、1件の重大事故・災害の影には、29件の軽微な事故・災害、そして300件ものヒヤリハットがあると言われています。(図2)*3

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​図2:ハインリッヒの法則
出所)農林水産省「ヒューマンエラーの仕組み」p.2
https://www.maff.go.jp/j/syouan/hyoji/kansa/attach/pdf/kansa_kenshu-6.pdf

重大事故の影に潜むヒヤリハットを職場のメンバーで共有することで、危険への認識を深め、安全を先取りすることにつながります。

日常のなかにも危険はいっぱい!育児はヒヤリハットの連続?

厚生労働省が実施した調査によれば、14歳以下の子どもの不慮の事故死は病気を含む死亡要因のなかでも上位を占めています。
死亡に至る不慮の事故にはベットでの窒息や、誤飲による窒息、浴槽での溺死などがあり、その多くが家庭内で発生しています。

次の図3は、14歳以下の子どもの交通事故を除く事故発生場所です。年齢が上がるごとにその他の場所の割合が増えるものの、4歳以下の乳幼児の場合、事故のほとんどが家庭内で発生しています。*4

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​図3:年齢別の事故発生場所(平成28年〜令和2年)
出所)内閣府「子どもの不慮の事故の発生傾向~厚生労働省「人口動態調査」より~」p.4
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/67dba719-175b-4d93-8f8c-32ecd4ea36a6/e5098069/20220323_child_safety_actions_review_meetings_2022_doc_02_1.pdf

死亡事故には至らないまでも、家庭内では日常的に多くの軽微な事故が発生しています。
とくにまだ意思疎通が難しい乳幼児は予測不可能な行動をとることが多く、毎日がヒヤリハットの連続という方も多いかも知れません。

筆者自身の子育て経験を思い返してみると、生後数ヶ月の時に大判のスタイ(汚れた口元を拭くよだれかけ)をつけたまま寝かせてしまい、いつのまにかスタイが顔にかかってしまっていたこと、つかまり立ちの時期に湯船で転んでザボンと顔からお湯に突っ込んでしまったこと、歩き始めた頃に目を離してしまい、コンセントにおもちゃを入れようとしていたことなど、自身のうっかりや子どもの思いもよらない行動で「ヒヤリ」と青ざめた経験は数え切れません。
まだよちよち歩きの時期は、転んだり、階段から落ちたり、ちょっとした怪我をすることも日常茶飯事なので、「あと一歩で重大な事故につながったかも」という経験をされている方も少なくないのではないでしょうか。

さらに、小学校入学以降は、子どもだけで登下校をしたり、習い事に通ったりするようになるため、交通事故のリスクも高まります。
警察庁の調査によると、2018年から2022年の5年間で発生した小学生の歩行中の交通事故による死者、重症者は2,158人に上ります。
とくに、初めて1人で登下校する新1年生が事故に遭いやすく、小学校1年生の歩行中の死者・重症者は小学6年生の約3.2倍です。*5

このように子どもを取り巻く日常生活には多くの危険が潜んでおり、保護者の油断や危険への認識不足によって、取り返しのつかない事故を招いてしまうかもしれません。

家族でもやってみよう!家庭内事故や通学時の事故を防ぐKY活動

筆者は電機メーカーで働いていたときに経験したKY活動の方法や考え方を育児にも取り入れ、「危険を先に取り除く」ことを心がけています。
先ほどご紹介したような「ヒヤリ」とした経験も家族で共有し、再発防止のために対策をおこなってきました。

家庭でKY活動を実践するには、実際に自宅の居間や浴室、キッチン、ベランダといった子どもの行動範囲にある危険な箇所を把握することから始めます。

子どもは、「ハイハイをする」「指で物をつかむ」「つかまり立ちができる」「ひとり歩きができる」「高いところへ登れる」など、運動機能の発達によって、起こりやすい事故が異なります。
たとえば、寝返りからつかまり立ちの時期である1歳の子どもの場合、日中過ごすことの多い居間にも多くの危険が潜んでいます。
次の図4のように暖房器具によるやけど、タバコの誤飲、ベッドやソファからの転落など、さまざまな事故のリスクがあり、誤飲や窒息は命にかかわることもあります。*6

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​図4:1歳までは居間での事故が多発!!
出所)愛知県 あいちはぐみんネット「月齢・年齢別で見る起こりやすい事故」
https://www.pref.aichi.jp/kosodate/hagumin/growing/age.html

指を挟む危険があるドアにストッパーを設置する、引き出しが開けられないようにドアロックをつける、誤飲の可能性のあるものは手の届かないところに片付けるなど、危険な場所に対して一つ一つ対策し、指差し確認することで、親の目が離れた瞬間に事故を起こさない、安全な環境を作ることができます。

子育てをしていて気がついたことは、子どもにとって何を危険だと感じるか、その感覚は個人個人で異なるということです。
これまでの子育ての経験や、子どもと接する時間の長さ、心配性なのか楽天的なのかといった性格の違いも関係しているのかもしれません。
そのため、家庭でのKY活動は、ともに子育てをしている夫婦や祖父母などの家族でチームとなって全員参加でおこなうと、より多くの目で危険を発見することができるのではないかと考えます。
日常のヒヤリハットの経験もチームで共有することで、危険がどこに潜んでいるのか察知する能力や、子どもの行動を先読みする能力を鍛えることにつながるかもしれません。

通学路での交通事故を防ぐためには、実際に通学路を歩いてみて、どのような危険が潜んでいるのか親子でチェックすることをおすすめします。
通学路には地図だけでは確認できないさまざまな危険が潜んでおり、時間帯や天気によっても交通事故のリスクは変わります。

通学路での安全対策には、家族だけでなく、学校関係者や警察、行政などが地域一体となって取り組む、「通学路総合交通マネジメント」という考え方もあります。
通学路総合交通マネジメントでは、KY活動と同様に、ワークショップによって危険箇所を意見交換し、問題を共有しながら、必要な対策について意思決定がおこなわれます。*7

まとめ

製造現場で取り入れられているKY活動やKYTは、「少し気をつければ防ぐことができた事故」を起こさないための取り組みです。
KY活動やKYTを導入することで、危険への感受性を高め、一人一人が当事者意識を持って危険を回避する行動を実践することができます。

子育てでは、ほんのわずかな油断によって、時には命に関わる事故を引き起こしてしまいます。そのため、KY活動やKYTによって身につけることができる危険を敏感に察知する能力や、絶対に事故を起こさないという思考が重要であると考えます。

家庭でのKY活動のポイントは、月齢や発達段階によって発生しやすい事故を把握すること、なるべく多くの危険箇所をピックアップするために、夫婦や祖父母など子育てに関わるチーム全員でおこなうことです。

大切な子どもを守るための全員参加のKY活動、まずは「家の中にどんな危険があるのか」という話し合いから、取り入れてみてはいかがでしょうか。



参考文献
*1
出所)厚生労働省「KY活動」p.40
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000075092.pdf

*2
出所)厚生労働省 職場のあんぜんガイド「危険予知訓練(KYT)」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo40_1.html

*3
出所)農林水産省「ヒューマンエラーの仕組み」p.2
https://www.maff.go.jp/j/syouan/hyoji/kansa/attach/pdf/kansa_kenshu-6.pdf

*4
出所)内閣府「子どもの不慮の事故の発生傾向~厚生労働省「人口動態調査」より~」p.1,p.3,p.4
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/67dba719-175b-4d93-8f8c-32ecd4ea36a6/e5098069/20220323_child_safety_actions_review_meetings_2022_doc_02_1.pdf

*5
出所)政府広報オンライン「小学校1年生の歩行中の死者・重傷者は6年生の約3.2倍!新1年生を交通事故から守るには?」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201804/1.html

*6
出所)愛知県 あいちはぐみんネット「月齢・年齢別で見る起こりやすい事故」
https://www.pref.aichi.jp/kosodate/hagumin/growing/age.html

*7
出所)公益財団法人 国際交通安全学会「通学路総合交通安全マネジメントとは?」
https://www.iatss.or.jp/visionzero/step/index.html

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。