振り回される下請けは大迷惑!元請けに必要な2つのスキル

下請けはつらいぜ......。

わたしはライターとしてメディアから直接お仕事をいただくことが多いが、メディアがフリーの編集者やライター紹介サービスに発注し、そこからお仕事をいただくこともある。

メディアが発注者、編集者や紹介サービスが元請け、ライターのわたしが下請けという構図だ。

そして下請けという立場になってみて思うのは、「発注者の意図を理解していない元請けに当たると最悪」ということである。

編集者vs.ライター、こじれた結果ケンカ別れに......

まず、ちょっとした経験談を紹介させていただこう。

ある日「フリーの編集者」を名乗るAさんから、大手メディアへの寄稿依頼をいただいた。内容はよくある「○○をテーマに、ドイツと日本を比較して日本の読者の参考になるようなもの」。

それに対しわたしは、「安易にどちらかを正しいとは評さず、それぞれいい面と悪い面があることを踏まえたうえで、読者の方が新しい気づきを得られるような趣旨でよければ」という条件で引き受けた。

極端な「日本すごい」や「ドイツ最高」の記事は多くの人に読まれる傾向にあるが、炎上のリスクも大きいからだ。

そして記事構成を提案してOKをもらい、そのとおり書いて提出。

しかし数日後、返ってきた修正案を見て目を剥いた。

記事の中盤にコメントがあり、それは実質、記事後半を丸々書き直しを求めるものだったのだ。いったいなぜ?

「構成でOKをもらっているので、書き直しは困ります。こういう感じに修正したのでこれでどうですか?」と妥協案を出したものの、何度やり取りをしても編集者と折り合いがつかず......。

修正依頼箇所は多いのに、具体的にどうしてほしいかを聞くと指示がぼんやりして進まず、OKをもらっている部分すらあとから却下になる。

そのうえタイトルが「これだから日本はダメ」という典型的な炎上狙いのものになると聞かされ、「そういうのはイヤだと事前に伝えたじゃないですか」と抗議。

すると、「タイトルを事前に教えたのは善意であり本来ライターの了承を得る必要はない、感謝してほしい」という返事が......。これではもう、話にならない。

「わたしの署名記事で炎上狙いのタイトルをつけられるのはゴメンだ。そもそも記事構成でOKが出ているのに書き直しを求めるのはおかしい。先方のメディアは、本当に炎上狙いさせたいのか? 先方と話をさせてくれ」

と、タブーだとは知りつつ発注者との直接交渉を依頼。

当然元請けである編集者に「それは無理だ」と却下されたが、「このままでは話が平行線だから先方を交えて話さないと解決しない」と言ったところ、「じゃあもうこれでいいです」と相手が全面的に折れた。

折れるということは、メディアはそれでOKを出したのだろうか。じゃあ今までの修正依頼はなんだったんだ?とモヤモヤは消えなかったが、それ以上の会話は無意味だったので、ケンカ別れのような状態でその仕事は終わった。

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発注者の意図を理解せず現地に丸投げする迷惑な下請け

その後改めて、なぜこんなにこじれたんだろうと考えてみた。

そこで思い至ったのは、元請けが発注者の意向を理解しないまま下請けに依頼している可能性だ。

発注者の要望を把握しないまま、下請けに依頼。やりとりのなかで発注者の意図がわかってきたので下請けに伝えるが、下請けは「後出しされても困る」と拒否。

しかし発注者の要望と下請けの希望、どちらを優先するかといえば、もちろん発注者。だから下請けにどうにかしろと強要して、こじれる。

とまぁ、こんな感じだったんじゃないかと想像する。

そういえばエンジニアの友人と酒を飲んだ時も、同じような愚痴を聞かされたっけ。

「大丈夫です、任せてください!」と安請け合いし、そのまま下請けに丸投げする元請けが多すぎる、と。

ありえない予算や納期の案件をぽいっと投げられ、現場は大混乱。

下請けは「こんなの無理に決まっている」と抗議するが、すでに引き受けてしまった元請けは、「なんとかしてくれ」と言うばかり。

元請けが恐れるのは、発注者に「できなかった」と報告し、自分のクビを切られること。

だからそうならないように、下請けに無理をさせるのだ。

こういう元請けに当たると、下請けは最悪である。

素人発注者に振り回される元請けの苦労

実はエンジニアの友人と愚痴っていたとき、その場には人材派遣の仕事をしている友人もいた。

話を聞いていた友人は苦笑して、「本当にそのとおりなんだけど、こっちにも事情があってね......」と、元請けの苦労を話してくれた。

「自社にできる人がいないから外注しよう」という理由で発注する場合、発注者自身がまったくの素人ということも珍しくない。

だから、元請けに細かい部分を突っ込まれても、「良い感じに頼むよ」としか言えないのだ。

友人曰く、「旅行会社のツアーに参加する人は、自分で現地の情報を調べないでしょ? それができる、苦じゃないなら、そもそもツアーなんか使わずに自分で旅行を計画するよね。まぁそういうこと」だそうだ。

もちろん外注する理由はさまざまだろうが、そういう背景を考えると、「よくわかっていない発注者に丸投げされた元請けがさらに下請けに丸投げ」してる可能性はおおいにありそうだ。

......いやいや、理解はできるけど、「じゃあしょうがないね」にはならないぞ!

元請けが理解しないまま下請けに依頼しても、いい結果にならないのはわかりきっているじゃないか!

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「良い元請け」に求められる2つのスキル

なんて愚痴を書いてきたが、一方で、「この人がいてくれてよかったな」「また一緒にお仕事をしたいな」と思う編集者(元請け)がいるのも事実だ。

さて、面倒な元請けと有能な元請け、いったいなにがちがうのだろう。

エンジニアの友人と人材派遣会社の友人の話を併せて考えると、

・発注者が言語化できていないイメージを具体化するヒアリング力

・実際に作業する下請けにその要望を伝える提案力

このふたつがあるかどうかが、大きな差なんじゃないかと思う。

たとえば、「海外視点で書かれた記事」を望む発注者がいたとする。

そこで「はい、わかりました!」と受けてしまうと、高確率で元請けと下請けがケンカになる。なぜなら、要望がとても曖昧だからだ。

できる編集者であれば丁寧にヒアリングして、

・海外の専門家がデータを元に分析した、読み応えのある記事

・海外在住者による、海外を身近に感じる共感しやすい記事

・日本のダメなところを厳しく批判する、意見が集まりやすい記事

など、発注者がなにを望んでいるかを、まず把握しようとするだろう。

発注者の要望を具体化したら、そのイメージを下請けに共有するために、「こういうふうにしてほしい」と提案していく。

たとえばできる編集者が元請けだと、

「そのテーマだとボツになる可能性があるので、こういう切り口で検討してくれないか」

「こういう表現は好まれないと思うので、もう少し柔らかくできないか」

「説得力を重視する傾向にあるので、データや経験談を足せないか」

のように、発注者の意向をもとにさまざまな提案をしてくれる。

するとこちらとしては、「なるほど、こういうものが求められているんだな」と理解し、修正しやすくなるのだ。

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元請けは発注者と下請けの「通訳」になるべし

いうなれば、元請けは「通訳」だ。

発注者の言葉をよりわかりやすいものにし、下請けが受け取りやすい言葉で伝える。

それが元請けに求められる能力であり、存在意義だ。

発注者の意向を把握しないまま、下請けが理解できない言葉で伝えたら、発注者と下請けが同じイメージを共有することはできない。それは、ダメな通訳である。

ダメな通訳に当たってしまうと、「どういうことですか」と聞いてもまともな返事はもらえないし、言っていることがコロコロ変わるし、指示が曖昧で話が進まない。

下請けは積み重なる理不尽にイライラし、いい仕事ができなくなる。

一方、できる元請けだと、下請けはコミュニケーションコストを減らせるので、むしろ早く仕事が終わるのだ。

というわけで、元請けには「発注者の要望を具体化するヒアリング力」と、「下請けにその要望が伝わるように提案するスキル」を持っていてほしいと思う。

発注者の要望を具体化し、下請けに提案、その結果発注者の要望が満たされ元請けの評価が上がる......という、win-win-winの関係が理想だ。

雨宮 紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。