なぜこの形になった? 身近な製品に隠された設計思想

私たちが普段何気なく使っている製品の形には、見た目だけでは分からない、技術的な工夫が詰め込まれています。


たとえば、ペットボトルは、持ちやすさや捨てやすさだけでなく、中身や製造方法に合わせて、底の形状まで細かく設計されています。


製品の形状は、デザイン性のみを追求したものではありません。
強度や安全性、使いやすさ、製造のしやすさなど、さまざまな条件を満たすために、試行錯誤を重ねて生み出されています。


つまり、身の回りにある「なぜこんな形?」という疑問の一つひとつに、ものづくりの技術が隠されているのです。


この記事では、身近な製品がなぜその形になったのか、いくつかの例をもとにその理由をひも解きながら、ものづくりにおける設計思想について考えていきます。

ペットボトルの底はなぜデコボコしてるのか

普段何気なく手に取っているペットボトルですが、実は飲料の種類によって底面の形が違うことをご存じでしょうか。


ペットボトルは、底が平らに近いものもあれば、ボコっとした凹みがあるもの、花びらのようにデコボコしているものもあります。
これは、中に入れる飲料の種類や、充填方法に合わせて、必要な強度や性能を持たせるよう設計されているためです。


たとえば、炭酸飲料用のペットボトルには、「ペタロイド(花弁)形状」と呼ばれる、5本の足があるような底面が採用されています。*1


炭酸飲料は、密閉されるとガスによってボトル内部の圧力が高くなるため、容器には高い耐圧性が求められます。
もし、底が平らになっていると、底面中央部が膨らんでしまい、場合によっては自立できなくなってしまいます。
そこで、底面を花びらのような形状にすることで、内部の圧力を受け止めながら底部の変形を抑え、ボトルを自立させています。 *2, *3


基本的には、炭酸飲料か、そうではないかによって、ペットボトルの底の形状には、以下のような違いがあります(図1)。*3

図1: 炭酸飲料・非炭酸飲料の底の違い
出所) 一般社団法人 全国清涼飲料連合会「清涼飲料水のQ&A 」
https://www.j-sda.or.jp/learning/qa/qa05/qa10.php


なお、炭酸飲料でなくても、高温で充填する「ホット充填」の場合は、冷却後にボトル内部の圧力が低下するため、外側からかかる圧力を分散させ、ボトルが変形しにくいように底面が凹んだ形状になっています。*1, *2


こうした工夫は、ペットボトルの底面だけに施されているわけではありません。
ペットボトル全体にも、より使いやすくするためのさまざまな工夫が取り入れられています。


容器包装メーカーの東洋製罐では、カゴメと共同で、胴部にくぼみを設けて握りやすくするなど、使いやすさを高めたPETボトルを開発しています。
くぼみによって指や手のひらのフィット感が向上し、従来よりも軽い力で持ちやすくなっています(図2)。*4

図2: 持ちやすさを向上させた新形状の軽量化PETボトル
出所) 東洋製罐グループホールディングス株式会社「【カゴメ株式会社様との共同開発】使いやすくて捨てやすい環境対応ボトル 」
https://www.tskg-hd.com/ourimpact/openup/detail/20240704093722.html


さらに、側面の凹凸をなくしてつぶしやすくしたほか、ラベルを剥がしやすい溝を設けるなど、廃棄のしやすさにも配慮しています。*4


このように、ペットボトルはどれも似たように見えて、実は中身や製造方法に合わせて、形状や材質が細かく設計されています。
強度や機能だけでなく、使いやすさや廃棄のしやすさまで考えられ、身近な形の中にさまざまな工夫が凝縮されています。

身近な文房具の形も「使いやすさ」が隠れている

私たちが日常的に使っている文房具にも、使いやすさを追求した、さまざまな工夫が施されています。


たとえば、鉛筆が丸い形ではなく六角形が多い理由は、よく知られているかもしれません。
これは、机の上で転がりにくく、握りやすくするための工夫です。
通常、鉛筆は親指、人差し指、中指の3つの指を使って握るため、3の倍数である六角形が採用されています。


鉛筆が六角形のものが多い一方で、色鉛筆に関しては丸い形が多くなっています。
これは、絵を描く際に、さまざまな持ち方をすることから、指あたりの良さが優先されているためです(図3)。*5

図3: 鉛筆と色鉛筆の形状
出所)三菱鉛筆株式会社「6角形が多い理由」
https://www.mpuni.co.jp/customer/pencil/qa_10.html


さらに、一般的には長方形の形が主流である消しゴムにも、ユーザーの使いやすさを考えた「新しい形」が開発されています。


その代表例が、コクヨの「カドケシ」です。


カドケシは、複数の角がある形状にすることで、真新しい角で消す喜びを何度も味わえるように工夫されています。
28個の角を持つ市松模様のような独特の形状により、狙った箇所をピンポイントで消せるため、ユーザーの「きれいに消したい」という思いに応えた消しゴムです(図4)。*6

図4: 商品化されたカドケシ
出所) コクヨ株式会社 「製品化された作品:カドケシ」
https://www.kokuyo.com/design-award/goods/kadokeshi/


カドケシはその画期的な発想と特徴的な形状が話題となり、発売からわずか1年足らずでミリオンセラーとなりました。


また、コクヨでは「持ちやすさ」と「消しやすさ」を追求し、平行四辺形の形をした消しゴムも開発しています。


平行四辺形は手にフィットして持ちやすいだけでなく、鋭角になった部分を使って、細かいところも狙って消せるのが特徴です。
さらに、素材の硬さを調整しやすく、従来の製造方法の利点を活かせることから、使いやすさと製造方法の両面から形状が検討されることとなりました。


そして、コクヨのインクルーシブデザイン「HOWS DESIGN(ハウズデザイン)」のプロセスを経て、平行四辺形の形が完成されました。
上肢に障がいのあるユーザーとのワークショップで意見を聞きながら検証を重ね、手の力が弱い方でも、持ちやすく消しやすい平行四辺形の角度を導き出したのです(図5)。*7

図5: 平行四辺形の形状の消しゴム
出所)PR TIMES STORY「「これは、消しゴムじゃない!」お客様からの予期せぬ反応から起死回生で発売にたどり着いたハイブリッド製法の消しゴム」
https://prtimes.jp/story/detail/Ybjpaji9z5x


このように、身近な文房具の形にも、使う人の動作や用途に合わせた設計上の工夫が込められています。
同じ文房具でも、用途や材料、製造技術によって適した形は変わるのです。

計算尽くされた「自動車の形」を探る

日本を代表する産業の一つである、自動車にも多くの設計思想が隠されています。


自動車の形状は、時代とともに少しずつ変化しています。
それは単に、トレンドに合わせてデザインが変わってきたからだけではありません。
燃費や走行性能、安全性、居住性、環境性能など、時代とともに変化するさまざまな要求に応えるため、形状そのものが進化してきたのです。


たとえば、車体の形状を考えるうえで重要になるのが、「空気抵抗」です。
走行中に空気から受ける抵抗を小さくすることは、燃費や乗り心地の向上につながるため、自動車メーカー各社は、空気の流れを考慮した車体形状の開発に取り組んでいます。


日産自動車では、AIによるシミュレーションを駆使し、車体の形状によって空気の流れがどのように変化するのかを検証しています(図6)。*8

図6: シミュレーションによる空気の流れを可視化した結果
出所) 日産自動車株式会社「AIとクルマが出会う場所。日産横浜ラボ 」
https://global-legacy.nissanstories.com/ja-JP/releases/nissan-yokohama-lab


こうした研究を通じて、空気抵抗の低減や走行時の安定性につながる車両形状の開発が進められています。


また、ホンダでは、「人のためのスペースは最大に、メカニズムのためのスペースは最小に」を意味するM・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum)という基本思想をもとに、人の居住空間を最大限に確保する車づくりを追求しています。


そのため、エンジンなどの機械部分をできるだけコンパクトにまとめ、人が過ごす空間を広く確保するなど、車体の構造そのものに工夫が施されています。


その思想がとくに表れているのが、限られた車体サイズのなかで、いかに広い空間を確保するかが求められるスモールカーの設計です。
ホンダのスモールカーは、燃料タンクなどの機械部分を車体の中央に配置し、限られた車体サイズのなかでも床を低くし、広い室内空間や使いやすい荷室を確保しています(図7)。*9

図7: 燃料タンクを車体中央に配置したセンタータンクレイアウト
出所) 本田技研工業株式会社「Hondaのブレない哲学「M・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum)」」
https://global.honda/jp/tech/Honda_design_ethos_Man_Maximum_Machine_Minimum/


これは、従来のスモールカーの常識を覆すデザインで、まさに、人のためのスペースを最大限に確保するというM・M思想を形にした設計といえるでしょう。


自動車のように、多くの部品が複雑に関係し、さまざまな機能や性能が求められる製品では、それぞれの要求をどのように両立させるかという「設計思想」が非常に重要になります。

おわりに

製品の形には、安全性や機能性の向上に加え、使う人へのさまざまな配慮が込められています。


身の回りにあるものを見渡して、「なんでこんな形をしているんだろう?」と思うものがあれば、そこには技術者たちの工夫や設計への思いが隠されているかもしれません。


ものづくりにおける設計思想は、さまざまな条件を考慮しながら、よりよい製品の形を追求することから生まれます。
身近な製品の形に目を向けると、技術者たちが重ねてきた工夫が見えてくるのではないでしょうか。



*1
出所) PETボトルリサイクル推進協議会「PETボトルの種類」
https://www.petbottle-rec.gr.jp/more/kind.html

*2
出所)Coca-Cola Japan「清涼飲料水のQ&A 」
https://j.cocacola.co.jp/info/faq/detail.htm?faq=18037

*3
出所) 一般社団法人 全国清涼飲料連合会「清涼飲料水のQ&A 」
https://www.j-sda.or.jp/learning/qa/qa05/qa10.php

*4
出所)東洋製罐グループホールディングス株式会社「【カゴメ株式会社様との共同開発】使いやすくて捨てやすい環境対応ボトル 」
https://www.tskg-hd.com/ourimpact/openup/detail/20240704093722.html

*5
出所)三菱鉛筆株式会社「6角形が多い理由」
https://www.mpuni.co.jp/customer/pencil/qa_10.html

*6
出所) コクヨ株式会社 「製品化された作品:カドケシ」
https://www.kokuyo.com/design-award/goods/kadokeshi/

*7
出所)PR TIMES STORY「「これは、消しゴムじゃない!」お客様からの予期せぬ反応から起死回生で発売にたどり着いたハイブリッド製法の消しゴム」
https://prtimes.jp/story/detail/Ybjpaji9z5x

*8
出所) 日産自動車株式会社「AIとクルマが出会う場所。日産横浜ラボ」
https://global-legacy.nissanstories.com/ja-JP/releases/nissan-yokohama-lab

*9
出所) 本田技研工業株式会社「Hondaのブレない哲学「M・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum)」」
https://global.honda/jp/tech/Honda_design_ethos_Man_Maximum_Machine_Minimum/

石上 文

広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。