NS TOOL Interview 対談

「モノづくり」と「モノづくりができる人」の育て方。

株式会社ヒューテック 代表取締役 藤原多喜夫 様

日進工具株式会社 代表取締役社長 後藤弘治

株式会社ヒューテック

世界レベルの技術を誇る精密金属部品加工のプロフェッショナル。“設備・工具の限界を超える「手」クノロジー”をスローガンに、複雑形状や超硬材など他社では困難とされる加工オーダーにも人の手による技術を駆使してミクロンレベルの精度で応える。ダイヤモンド工具台金・精密治具等、H2Aロケットの検査装置にも携わるなどモノづくりの最先端を支えている。代表の藤原社長はNHK総合『超絶 凄ワザ! 激突! 旋盤VSヘラ絞り 〜究極の精度対決〜』(2015年7月18日(土)第1回、8月1日(土)放送)や映画『切り子の詩』に部品加工のプロとして出演。

http://www.fu-tech.jp

2017.10.05

少年時代の夢は、「ロケットの部品をつくりたい!」

後藤: 藤原社長は、これまでにもさまざまな難しいオーダーに応えてこられたと思いますが、最も印象に残っているのはどんなお仕事ですか?

藤原: 私がまだ20代半ばのころ、H2Aロケット6号機の切り離し失敗の原因となった補助エンジンの「溶接部の超音波深傷検査装置」を7号機でつくらせていただいたことがありました。センサー設置用アームの治具製作の依頼だったのですが、方法も設計も任せると言っていただき。打ち上げが成功して、宇宙空間で補助タンクが切り離される映像を見たときには、この仕事ができて良かったなぁと心から思いました。でも、それ以外は、もうしんどいことばかりで(笑)。

後藤: それはやりがいのある仕事でしたね。しかも絶対、失敗が許されない。

藤原: 僕は子供のころからブラックジャックのような外科医になるか、ロケットの部品をつくりたいって思ってきましたから。

後藤: かなり早く夢を叶えられたんですね。でも、それ以外はずっとしんどいことばかり?

藤原: 町工場の経営ですから。試作品を持参して「これができます」とか飛び込みでやっていた時期もありました。父から受け継いだ会社ですが、僕は職人のイメージを壊したいと思ってやってきました。

技術だけの“職人”で満足してはいけない。

後藤: NHKの『超絶 凄ワザ!』を拝見しました。チタンという難しい素材を、限られた時間の中で見事に削られて行った。対決相手の“ヘラ絞り”もすごかったけど、御社が“「手」クノロジー”とおっしゃっているとおり、あの技術はまさにモノづくりの職人の技だと思いました。

藤原: ありがとうございます。でもですね、実は僕、ベテランというだけで「職人」と呼ぶ風潮が嫌いでして。稼がず、教えず、学ばない「作業者」をカッコいい言葉に置き換えてはいけないと思っています。我々が携わっている仕事は金を稼ぎ、生きていく手段。モノをつくるだけじゃなくて、生活も、人もつくる。日本の町工場もそういうところを目指さなきゃいけない、と。

後藤: なるほど、そういう意味なんですね。おっしゃる通り、自己満足でモノをつくるだけでは価値は生み出せません。

藤原: ウチでつくっているものは、他所でもつくれる普通のものですよ。でも他所よりも速くできる方法を考えて、実践しています。図面を見て、完成品を頭の中にイメージして、どうやって素材を掴んで、どうやって削ればできるか。全部頭の中に描いて、それで一気につくる。一つだけしかつくらないようなものも、ちゃんとつくり上げる。それもめっぽう速く。ウチに求められているのは、そういうモノづくりであり、考え行動することができる職人。その価値をしっかり認めてもらうことが大切だと思うんです。

後藤: 「つくる」ではなく「応える」ということですね。そして、自分の努力をしっかりとお金に変えるというのは本当に大切なことです。

藤原: 僕はモノづくりに携わる人を分類するとしたら、成長によって「作業者」→「技術者」→「職人」→「プロフェッショナル」→「指導者」になると考えています。

後藤: モノを製作するだけの作業なのか、ゼロからモノを創り出すことができるのかでは全然違います。

藤原: 職人ではなく、プロでなければ生き残れない。舞台で演じる“役者”じゃなくて、“演出家”である必要がある。だから、僕は指導ができる人を育てたいと思っているんです。

若い人たちに成長のきっかけを与えたい。

藤原: たぶん、もう20年もしないうちにはっきりすると思うんですけど、僕は日本のモノづくりがどこに行くのかを見たいなぁと思っています。人と機械が共存するのか、それとも人は一切介在しなくなるのか ──。

後藤: 藤原社長にも仙台工場にお越しいただいたことがありますが、ウチの製造現場は基本的には機械による自働化を徹底させる方向にあります。ヒューテックさんと弊社では、同じモノづくりでも正反対なのかもしれません。ウチが大切にしているのは、バラつきなく同じクオリティを追求することですから。

藤原: そうですね。白と黒くらいに違うのかもしれません。逆に、ウチでは同じものを何回もつくるなんてことはできません(笑)

後藤: でも、人が要らなくなるということではなくて、人は製造のための機械を設計するなど、もっと大切なところを担うようになっています。社員も、そういう脚本家とか演出家とかの立場に成長できると、仕事がさらに楽しくなっているのではないかと思います。

藤原: 若い人たちの成長に、そうやって変わるきっかけを与えてあげたいんです。最初は作業を覚えるだけで精一杯かもしれませんが、その中で彼らが感じたものを言葉で表現できるようにしてあげたい。

後藤: 言葉にするということは、状況を分析して、思考を整理するということですからね。「応える」ためにはとても重要です。

藤原: 若い子たちが感覚的に発信する電波みたいな情報に我々が周波数を合わせてキャッチして、互いに会話して、言葉を持たせてあげる。指導者こそ、いっぱい言葉を持っていなきゃいけない。そうやって得た言葉で、また次の世代の指導者を育ててほしい。

人間力の高い指導者を育てることが“モノづくり”

後藤: 藤原社長のお話を聞いていると、モノづくりは、人づくりだとおっしゃっているように感じます。

藤原: 「モノづくりは人づくり」はよく聞く言葉なのに、僕が腑に落ちる言葉になっていないので使っていません。僕の中では3Sすら「しつけ、しつけ、しつけ」ですわ(笑)

後藤: 優れたモノを創造できるのは、やはり優れた人間的感覚を持つ人であり、教育はそのためにとても重要です。いかに人間性に優れる社員を育てられるか──私たちの責任でもあります。

藤原: 人に憧れられ、尊敬されるような、人間力の高い人でなければ、モノづくりを司る指導者にはなれないと思うんです。日進工具さんには、ぜひ人間力を育てる教育システムを確立して、日本のモノづくりを支えてほしいと思っています。後藤さんは、そうして人を育てられる数少ない社長さんだと思うんです。

後藤: モノづくりには、感受性や理解力、物事と接するスタンスや行動力といったことが幅広く求められます。それは、人が備えるべき、人の能力としてとても大切なこと。私なりにお役に立つことができるなら、本当に誇らしいことです。

藤原: 僕は、この世界では刃物を活かすため、機械を活かすためには謙虚さが一番必要だと言ってます。加工で上手くいかないときは安易に考えてたり、我を通して力ずくでやっていることが多いんです。「こうだったから、こうなったんだ」と状況を謙虚に受け止め、謙虚に分析しないと先に進めない。製品の仕上げだけでなく、“切粉の裏側”までキチンとイメージできることです。
※切粉=旋盤などで金属を削る際に生じる切り屑。

後藤: 切粉の表情が素直なら、それは上手くいっているということなんですね。何かと向き合うということは、相手が人であろうとモノであろうと同じなのかもしれません。

藤原: 日進工具さんのエンドミルは、そういう意味では若い子たちには使わせられないんです。

後藤: え? どうしてですか?

藤原: 例えば、普通の人にF1マシンを運転させても、まともに走らせられませんよね。それと同じ。とても繊細で高精度な工具は、腕が伴わないと扱えないんです。腕が良くなったと勘違いしても困る。未熟なうちは、ちょっと無理をすればポキポキ折れちゃうような工具で、自分のどこがいけないのかを感じないと。

後藤: うれしいような、複雑な心境です(笑)
今日は、とても勉強になるお話をお伺いできました。ぜひ、またご一緒させてください。

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