
2026年8月28日 09:00
「AIが人の仕事を奪うわけではない」 巨大テックが前言を修正したワケ
AIを開発している巨大テックの担当幹部が「人の仕事を奪うものではない」と、過去の発言を修正する驚きの出来事が起きました。
矛盾極まりないと感じてしまう話ですが、その真意は何なのでしょう。

「ギュられる」日は来るのか?
「多くの職業がAIに奪われる」ー
巷でよく話題になることであり、また危機感を覚える声もあります。「AIに奪われそうな職業ランキング」まで出回っています。
確かに人間のように動ける「ヒューマノイド」の進化や処理能力の高さ、その様を見ていれば、不安になるかもしれません。
またAIが人のように流暢に話す、それも、あたかも話しかける人間の感情すら理解しているように。
そんな現代、「ギュられる」という新語が登場しています。*1
「シンギュラリティー」という言葉から発生したものです。「シンギュラリティー」とは、もともとは「特異なもの」の意味を持つ「シンギュラー」から派生しています。それがいつしか「誰も経験したことのない唯一無二の特異な点」という意味になり、そして「AIが人知を超えて想像もできない変化が起こる日」という意味を持ち、「ギュられる」となったということです。

「AI奴隷」で格差拡大
ただ、筆者はAIが万能になりエンジニアが不要になる、さらには「人間を超える叡智をいずれ持つようになる」などという話には懐疑的です。
過小評価される弱点
なぜなら、所詮人間が作ったものが完全に人間を超えられるとは思わないからです。
今のところは演算能力の高さ、いかに難しい問題に答えられるか、といったことが強調されています。
ただ、ハルシネーションという現象があることはよく知られています。ハルシネーションがいかに重大な問題を招くのかについては過小評価されている気がします。
それでいながら、「AIの暴走はあるか否か」という話が取り沙汰されています。
皆さんはどう思いますか?
筆者はこう思います。
「あり得る、人間がこれ以上愚かなものになるのならば」
AIのために「2ドル未満」で働く人々
そして、生成AIを進化させるために、さらなる格差拡大が生まれています。
LLMをベースとする生成AIは、Web上あるいは使い手が入力した自社などのデータを参照して質問に答えます。なおかつ、その参照データについて情報が多ければ多いほど的確さを増していきます。
そのために「時給2ドル未満」で働く人々がいるのです。*2
例えばケニアでは生成AIツールのトレーニングのために、SNS上でヘイトスピーチや暴力を扇動する言葉で溢れないようにしたり、画像やテキストにラベルを付けたりするといった仕事を請け負う人たちがいます。
ときに殺人や斬首、児童虐待やレイプ、ポルノや獣姦を1日8時間以上見ることも強いられるといいます。
多くの労働者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥っています。
しかし支払われる賃金は、時給にして2ドルに満たないものです。
2ドル×8時間×(例えば)週5日=80ドル。
つまり1週間で80ドルに満たず、週に7日勤務してもわずかなものです。
さらに賃金の支払いが滞ったり、未払いだったりするのは日常茶飯事だといいます。
その一方でアメリカでは、大卒のギグワーカーが、1週間で300ドルから1000ドルという収入を得ています。*3
AIの回答が事実であることの確認をし、また人間味のある表現に修正することもあれば、2つの回答を比較してより優れたものを選ぶこと、また、AIの回答を書き直す場合もあります。
ギグワーカーですので、時間や出勤回数に縛りはありません。
週に何時間働くか、自由なのです。

マイクロソフト幹部「仕事が失われるのではない」?
しかしAIによるプログラミングも可能になったことで、ソフトウェアエンジニアが職を失うという事態が発生しています。マイクロソフトは2025年5月中旬、全社で約6000人の人員削減を行うと発表しました。*4
本社があるワシントン州内では約2000人が対象で、その4割強を占めるのがソフトウエアエンジニアです。
まさに「AIに仕事を奪われた」人々です。
AI担当CEOであるムスタファ・スレイマン氏はことし5月、「ほとんど、あるいは全ての専門的な業務において、人間並みのパフォーマンスが実現するだろうと私は考えています。つまり、弁護士、会計士、プロジェクトマネージャー、マーケティング担当者など、コンピューターに向かって作業するようなホワイトカラーの仕事のほとんどは、今後12~18か月以内にAIによって完全に自動化されるでしょう」と語っていました。*5
多くの人を身震いさせる発言かもしれません。
しかし翌月、この発言の真意は異なると語っています。*6
スレイマン氏は「私は『タスク』と言いました。つまり、それは『仕事』という意味ではありません」と述べました。
「仕事(Job)」ではなく、あくまでその一環である「タスク(Task)」のことであり、つまり自動化されるのは職業そのものではないという意味だ、という主張です。
大規模な人員削減と言動が異なる気がしますが、スレイマン氏はあくまで「作業」の自動化を指したのが真意だというわけです。
一方でアンソロピックやエヌビディアの幹部は、AIの普及に伴い人員の淘汰が進むという旨の発言をしています。

「思考」を止めてはならない
筆者はどこまでAIが普及しようと、人間の介入は必須であると考えます。ただ、人間がやるべきことは変化していくでしょう。
また、先にも述べましたが、AI万能説にも疑念があります。
筆者が思い起こすのは、東日本大震災のときの原発事故です。人間が作ったものを、人間がコントロールできなくなった一例です。
同様にAIが本当に万能になって人間を不要とする時、AIは人間がコントロールできないものになっていることでしょう。
極論かもしれませんが、人間がAIの利便性によって思考を退化させ、AIが「それらしく」語ることに従ってしまえば、もはや地球上に人間は不要になってしまいます。
AIと人間を切り離し、人間はAIにはない「思考」を維持しなければなりません。
*1 日本経済新聞「令和なコトバ「ギュられる」 AIに仕事奪われる恐怖感」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD104N20Q6A410C2000000/
*2 ビジネス+IT 「AIによる「現代の奴隷制度」がヤバすぎる、時給300円、精神的ダメージでPTSDも」
https://www.sbbit.jp/article/cont1/149772
*3 Forbes Japan「AIモデルの訓練で時給4500円、米国の「大卒副業ワーカー」が直面する現実」
https://forbesjapan.com/articles/detail/77668
*4 日経クロステック「ついにAI普及によるソフト開発者の淘汰始まる、マイクロソフト大量解雇の衝撃」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00682/052100186/
*5 yahoo!tech「Only 18 months until AI takes your office job? Microsoft's AI CEO certainly thinks so」
https://tech.yahoo.com/ai/articles/only-18-months-until-ai-094715189.html
*6 yahoo!tech「Microsoft AI CEO says AI will take over mundane tasks instead of replacing white-collar jobs in the near future」
https://tech.yahoo.com/ai/copilot/articles/microsoft-ai-ceo-says-ai-091649994.html

清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。 取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

