製造現場でのジェネレーションギャップをどうする? 豊田章男会長の金言から学ぼう

「上下」という考え方を捨てれば、ジェネレーションギャップは壁ではなくなるという話

「上の人たちってさあ...」「下の奴らはなんで...」。
コミュニケーションがうまく行っていないと感じた時、よく漏れ聞こえる声ではないでしょうか。


確かに会社組織には、必ず「上司と部下」という人の関係性があります。
「上」と「下」。
この言葉は場合によっては、あたかも会社の中でのコミュニケーションに最初から対立軸が存在しているかのような印象を与えてしまいます。


しかし、ことの本質はそうではありません。
今回はトヨタ自動車の豊田章男会長が社員に向けて語った、ある考え方をご紹介します。会社でのコミュニケーションについて、心がスッキリと整理される語りかけです。


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「役割でやっているということを思って欲しい」

「今さ、『上の者・下の者』って言ったでしょ?」


2024年1月30日に行われたトヨタのグループビジョン説明会。
若手社員の質問に答えながら、豊田会長はこんな言葉を投げかけました。


若手社員から豊田会長に投げかけられたのは、会社でのコミュニケーションについてのこんな質問です。*1


「多分どこの会社でもある問題だと思うんですけども、経営者とか上の方は、自分に報告が来ないとか、なんかいい話ばっかり来てるんじゃないかとか、そういう猜疑心を心の中で持ったりする場面もあると思うんですね。
 一方我々、下の立場からすると、いや話はしたつもりなんだけど、とか、あるいはこういうことを言ったら怒られちゃうかもしれんからちょっとやめとこうかな、みたいな、そういう双方のコミュニケーションの食い違いっていうか難しさは多分どこの会社にもあると思うんですね。そういったのってどうやって解消していけばいいかな、と最近悩んでいます。」


これに答えた豊田氏。

「そんなこと会社で解決しなくない?でも、よく言った。あのね、両方歩み寄ってほしい、そこは。
 で今さ、上の者・下の者、って言ったでしょ?その感覚をまずなくすこと。仕事やる上では、やっぱり肩書きもあるけど、役割でやってんだから。だから役割で仕事をやってんだってことを思って欲しい。」


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年功序列の弊害

年功序列は今の社会で崩れつつあるものの、もちろん色濃く残っているところも少なくはないことでしょう。あるいは、役職定年の導入によって「年下上司」の出現もまた珍しくはない世の中になりました。


「上司」「部下」。確かに「上」「下」という漢字がつく言葉ですが、それはあくまで肩書であって、それぞれに「役割」を認識することが本質だ、というのが豊田氏の主張です。


しかし、古い体質の組織にはこんな考え方もあります。特に勤続年数の長い層に対して人事が、
「◯◯君と△△君は同期で同じ年齢だから、せめて同じ『部長』という肩書きを与えないと」
ということに腐心してしまうのです。
場合によっては、そのために「何をするところなんだろう」と思うような「部下なし部長」のポストを新設することすらあります。あるいは、そのために役員の数が増えたり。

豊田氏の考えに照らすと、こんなに馬鹿馬鹿しいことはありません。無駄なコストが生じるだけでもあります。


しかし、そんな「上司」のもとでも「部下」は仕事をしなければならない、付き合っていかなければならない状況を作り上げている企業は珍しくないのが現状でしょう。


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「肩書き」と「役割」を名刺に併記

一方でトヨタは2020年に、大胆な人事を実行しました。
豊田氏は、自らと22名からなる「執行役員」を半分以下の9人にまで減らしたのです。*2
「役割」を意識した決断だと考えられます。


さらにこの年、執行役員の名刺に面白い工夫がなされました。
「肩書きは役割にすぎない」という考えを反映したものです。

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小林・河合執行役員が作った名刺
出所)トヨタイムズ「豊田の経営哲学 中日新聞×豊田章男【後編】」
https://toyotatimes.jp/spotlights/newspaper_interview/087.html


「番頭」「おやじ」。


役員となると、一般社員はいったいどう接したらよいかわからなくなるのが普通でしょう。しかし、このように自分の「役割」を併記することで、役員にもそれぞれ役割があってこのメンバーになっているんだという納得感が生まれるわけではなく、「番頭」「おやじ」と、それをわかりやすい言葉で明記しています。
なるほど本当に困った時は「おやじ」なら話しかけられそうだ、そんな印象も与えます。


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覚悟をもって「肩書き」を受け入れているか

そして、この若手の質問に答えた豊田氏の言葉は、こう続きます。


「それで、上の人ってのは、責任取る人だよ。責任を取る人であり、かつ、上の人っていうのは、いや〜なことも決めなければいけない人。それと、ひとつの意見になってないのに、なんかひとつに決めなきゃいけない人。これが上の人。
 責任を取るイコールね、誰かをやめさせればいいっていう形にすぐ持って行きがちなんですよ。でも、責任を取るというのはそういう意味じゃなくて、やっぱり、世間に晒されること、顔が見えちゃうこと。その中で、青臭い言い方をすれば、多くの人が笑顔になれる、ね、決断をしていくこと。ただ、その中にはいろんな人が泣く決断、私なんかはそういうのがほとんどでした。工場の閉鎖とかね。だけど、現場の若い人の強みはね、より現場を知ってるってことなので。で、それに(上司が)聞く耳がなければ、会長に直訴しなさい。」


まさに「役割」の話です。
そして豊田氏自身も、自分の役割として「会長に直訴しなさい」と述べたのでしょう。


さて、この覚悟を持って「上の人」を全うしようとしている人はどれくらいいるでしょうか?あなたの職場はどうでしょう?


そして、「リーダー」の座にある人にも、役割上の弱点があります。「リーダーシップ」が「上の人」の役割であり、「下の者」には「フォロワーシップ」という役割がある、そんな概念を提唱したロバート・ケリー博士は、リーダーとフォロワーについてこのように指摘しています。


 ・ほとんどの組織において、成功に対するリーダーの貢献度は20%に過ぎず、フォロワーは残りの成功の80%の鍵を握っている
 ・リーダーでいる期間よりフォロワーとして働く期間が長い人がほとんどである
 ・組織改革を始めるのはリーダー、完遂させるのはフォロワー

<引用:「肝炎コーディネーター普及に関するブランディング戦略と専門医に対するマネジメント育成について」厚生労働省科学研究成果データベース>
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192161/201921006A_upload/201921006A0028.pdf#page=45


このことを認識せず、肩書きだけをもって「俺は偉いんだ」と、「下の者」にのみ視線を注ぐリーダーは失格と言えるでしょう。

リーダーであれフォロワーであれ、互いばかりを見ていては、それは企業としてもったいないことです。どんな役割にあっても、視線は顧客や社会にある。そして顧客や社会に対してそれぞれの役割で貢献することを考える。そこには年齢なんて関係ない。


それが豊田氏の経営哲学のひとつと言えるでしょう。



*1
トヨタイムズYouTubeチャンネル「「やっちゃいけないことをやったら やり直す」豊田章男がグループ各社に伝えた言葉|グループ会社トップらとの対話も|トヨタイムズニュース」
https://youtu.be/7VlZgIJkT28?si=MXGGKsA5Ozv3eE3I&t=2629

*2
ロイター通信「トヨタ、「執行役員」9人体制 7月から半分以下に 社長と経営担う」(2020年6月30日)
https://www.reuters.com/article/business/97-idUSKBN24111F/

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。

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