「互恵性」のあるコミュニケーションを目指そう ネコから学ぶべきこととは

コミュニケーションの基本は「互恵性」 その極意を猫との関係から学んでみよう

猫、ネコ、ねこ、cat・・・ネット上に溢れる動画の数を見れば、猫がいかに人間から愛されている存在かがわかります。

パソコンで仕事をしていると邪魔をしてくる、動き出そうとしてもしがみついて離してくれない、と思っていたら突然「今は気分じゃない」と言わんばかりにツンとした態度を取られてしまうことも。
そして時にはいたずらも。


相手が人間なら「なんだこいつ!」と苛立ってしまいそうですが、猫はそんなワガママぶりさえも愛されてしまう稀有な存在です。


それはなぜか。
じつは、人間と猫との間のコミュニケーションには「互恵性」があるのだといいます。だからこそ良好な関係でいられる、今回はそんなお話をご紹介します。
社内でのコミュニケーションがうまくいかないという時、猫から学ぶことは多くありそうです。


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猫は最も個体差が大きい生き物

猫に関する研究の先駆者、デニス・ターナー博士は「猫はすべての動物のなかで最も個体差が大きい動物」であると述べています。
猫は強い個性の持ち主で、それが各々の個体の行動に影響するということです。*1


自分の率いるチームがそれぞれあまりにも個性が強く、個性に基づいた行動を取ってしまったら、リーダーであるあなたは強いストレスを感じるかもしれません。


しかし自宅に帰り愛猫が相手だと、個性的なイタズラをしでかしていても怒鳴りつけるということはないでしょう。むしろその様子を笑いのネタとしてSNSなどに投稿したくなってしまうのではないでしょうか。これは猫の最大の不思議だと筆者は常々感じています。


筆者は猫を飼うことができませんが、YouTubeなどでよく見る猫は「抱きついて離れてくれない」という人懐こい姿です。しかし飼い猫だからといって全てがそうではありません。


筆者の友人が飼っている猫は、飼い主ですらなかなか撫でさせてくれないのだといいます。コタツのなかで寝ているところ足が当たろうものなら容赦無く引っ掻いたり噛みついたり、そうでなくても「なぜ?」ということろで急に噛みついてきたり。友人の腕や足の傷は絶えません。
それでも時々急に擦り寄ってきてゴロゴロするので、そのツンデレ具合がまた愛おしいのだといいます。


同じ猫でありながら、筆者がよく動画で見かけるような甘えん坊の猫とはずいぶん様子が違います。


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猫と人間の関係性

このように猫について考えてみると、人間の世界でメンバーの性格や行動様式が異なることも自然の摂理として当たり前のことだと考えられますし、実際そうでしょう。
しかしこれが人間の集団となるとわたしたちは、リーダーの立場にある人だけでなくメンバー同士でもストレスを抱えてしまうのが実態です。


でも、猫なら可愛いと思ってしまう。
人間と猫との関係は不思議なものです。


人間はなぜ猫を飼うのか

28年にわたってインターナショナル・キャットケアの最高責任者をつとめたクレア・ベサント氏は、人間がなぜ猫を飼うのかについて、こんな疑問を投げかけています。


"私たちはどうやら、生活のなかに猫のサイズの穴が開いており、それを埋めたがっているようだ。だがいったいそれはなぜなのだろう?猫の面倒を見たいから?不運な猫を救いたいから?パワー、それとも創造性のため?冷めている人は、私たちは見返りがなければ何もしない、と言うかもしれない。だがその見返りとは別に、与えること、分け合うことからくる満足感にすぎないかもしれない。もちろん、猫それぞれに固有の個性があるのと同じく、人間も人それぞれだし、猫を飼う動機も個人差が大きい。"
(引用:クレア・ベサント「ネコ学」p111)


そして、人間は愛猫に新しいおもちゃやクッションなど色々なものを与えがちですが、べサント氏は「残念ながら、人間のニーズが猫の幸福よりも優先されている、という場面はある」とまで述べています。*2


人間と猫との関係には種類がある

というのは、猫の個性、飼い主の個性の偶然の出会いは、互いに意思を持つ以上すぐに両者が思い描く生活をスタートできるわけではないからです。


イギリスで飼い主を対象に行われたあるアンケート調査によると、飼い主と猫の関係にはさまざまなパターンがみられたということです。*3
それは「オープンな関係」から「よそよそしい関係」、「気楽な関係」「共依存」「友情」とじつに様々でした。ただ、回答者の四分の一が「オープンな関係」と答え、多数派になっています。


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猫と人間の「オープンな関係」の正体

猫と人間の「オープンな関係」。それは、互いが完全にニュートラルで、飼い主が猫に対してバランスの取れた感情を持っているといいます。猫たちの多くは外に出ることもでき、飼い主でなくとも他の人間と仲が良い「自立した存在」なのです。


では、他の関係はどうでしょうか。自分が上司としてメンバーとどんな関係にありそうか想像しながら目を通してみてください。


「よそよそしい関係」=飼い主の猫に対する感情移入が少なく、たとえ猫が懐いているのが飼い主だけであっても、その猫を人なつこいとか家族の一員であるとは考えていなかった。
(ただ、このアンケートでは猫が不安な時に飼い主を探す行動を取る、という事情は反映されていない)


「気楽な関係」=猫が誰にでも懐き、飼い主を他の人間よりも必要としているようにも見えない関係。


「共依存」「友情」=いずれも飼い主の猫に対する思い入れが深いが、猫が飼い主以外の人間を受け入れるかどうかによる。なかでも「共依存」は猫も飼い主以外の人間と仲良くできないわけではないが、他の人より飼い主の方が好きという猫が含まれている。飼い主は猫と遊び、餌を食べている間はそばにいることが多かった。


さて、これらの関係を猫の立場になって考えてみましょう。


その意味では「オープンな関係」は理想のひとつでしょう。


先ほど紹介した筆者の友人は、一つ屋根の下にいながらも普段は猫がどこで何をしているかあまり気にしない生活をしています。時々様子をみに行くと2階で寝ていた、とか、夜中にバタバタとひとり運動会をしていたようだ、でも朝起きたら自分の足元で寝ていた、だとか。それぞれがべったり接しすぎない適度な「間隔」があるのでしょう。(運動会の翌朝にいつも獲物=虫を友人の枕元に並べてくれることには困っているようですが、猫からすればそれは飼い主への愛ですね)。


それでいて、友人の飼い猫は友人のことを理解しています。
友人が体調が悪くて休んでいると、普段は寄り付かないはずの猫がずっと近くにいてくれるのだといいます。治ったことがわかればまたプイッと背を向けて自分の好きな部屋に出かけてしまいます。それほど飼い主を心配できる心があるのに、普段は気まぐれにしか近づいていきません。


しかしこれには合点がいきます。
あらゆる動物は「不快なこと」から避ける行動に出ます。猫も必要以上に触られたくない時は拒否反応を示します。それを追い回してなんとかおもちゃで気を引こうだとか、それはまさに「残念ながら、人間のニーズが猫の幸福よりも優先されている」状況です。
なんだかんだ、飼い猫は飼い主を必要としているのです。


「よそよそしい関係」は、人間のチームとしては避けたい状況ですし、「共依存」も人間同士、同じ組織で働く者としての関係ではキツイものがあります。ご飯を食べるところまで見守ってあげなければならないのです。


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勝手に「相手像」を設定することの危うさ

ここまで猫と人間の関係についてのお話をしてきましたが、同じ振る舞いをされても人間なら腹が立つのに猫なら許せてしまう。


それならば、相手のことを「猫のようなものだ」と割り切って関係を築くのもひとつの方法です。人間にも様々な個性があって当然です。他の人からは理解しにくい苦手なことがあったり、気に障るポイントは人それぞれだったりというのは自然なことでしょう。


人間が猫を飼うことに対して持つイメージは「言うことを聞かないこともあるけど可愛いもふもふで癒される」といったものが多いかと思います。しかし猫には猫の野生や、動物界で最も多いと言われる個性があり、人間が勝手に描いた「ネコ像」の押し付けの始まりです。


それを、何か買ってあげたら懐いてくれるかな、と張り切って新しいおもちゃを買っても、猫からすれば気に入らないものを押し付けられて困ってしまうということもあります。人間が「買ってあげたことで満足感を得ている」だけ、ということになります。


人間同士の関係でも、相手の個性を知り抜くことはほぼ不可能です。ただ「自分が思い込んでいる相手像」を押し付けあってしまうと、そこには良い関係性は生まれないでしょう。
相手も自分もリラックスした状態で、互いの個性に見合った距離をとりながら成果を持ち合う。
そのような互恵性がなければ、どんな関係も長続きはしません。
また、猫は何らかの形で不安になると飼い主を探す行動に出るということも忘れないでください。ただ、それは単に「ご飯をくれるから」なのか「つながりを求めているから」なのかはわかりませんが、自分は嫌われているのかな?と感じてしまった時、猫のきまぐれな行動を思い起こしてみるのも悪いことではないでしょう。



*1, 2, 3
クレア・ベサント「ネコ学」p6-7、p109、p111-113

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。趣味はサックス演奏と野球観戦。

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