2050年、私たちは何を食べている?食の課題を解決するフードテックの可能性

2050年のある日の社員食堂を、ちょっと想像してみてください。


今日の日替わりは「A定食:陸上養殖サーモンの塩焼き」と「B定食:大豆ミートの唐揚げ」です。隣では後輩が「培養肉のハンバーグも気になるんですよね」と迷っています。


......というのは、あくまで筆者の想像です。ただ、このうち大豆ミートと陸上養殖のサーモンは、実はもう食べられます。筆者も両方食べたことがあります。


「食」と「テクノロジー」を掛け合わせた「フードテック」は、SFのようでいて、私たちの食卓やものづくりの現場のすぐそばまで来ているのです。

なぜ今、フードテックが注目されているの?

政府が2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」の「戦略17分野」には、AI・半導体、量子、航空・宇宙などと並んで、フードテックが入っています。*1


半導体や宇宙と同じ枠に食べものが並んでいるのは、ちょっと意外ではないでしょうか。その背景には、これからも安定して食べ続けるための、いくつかの課題があります。


食べる量が世界でどんどん増えていく

世界の食料需要は、2050年には2010年の1.7倍になると想定されています。*2


農林水産省の新しい見通しでも、世界人口は2011〜2020年平均の74億人から、2051〜2060年平均には95億人に増えるとしています。*3


暑さで作物が育ちにくくなっている

農林水産省が都道府県からの報告をまとめたところ、2024年は高温の影響で、西日本の5割から6割の地域で、穂が出たあとの暑さによる米の白未熟粒が発生しました。北日本の6割から7割の地域ではりんごの実がつきにくくなり、東日本の3割から4割の地域では乳牛の乳量や乳成分が下がるなどの影響が出ています。*4


白未熟粒とは、胚乳の部分が白く濁って見えるお米の粒のことです。実る時期の高温でデンプンが十分に詰まらず、そのすき間で光が乱反射するために白く見えます。白未熟粒が多いと、お米の検査等級が下がってしまいます。*5


農家さんにとっては、なんとも頭の痛い問題です。


作った食べものが捨てられている

2024年度の日本の食品ロスは461万トンで、そのうち家庭から出たものが224万トン、事業者から出たものが237万トンでした(図1)。*6

図1:食品ロス量の推移と削減目標
出所)消費者庁「2024(令和6)年度食品ロス量推計値の公表について」
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_education_cms201_260630_02.pdf


国民1人当たりに直すと、毎日おにぎり1個分(約102g)の食べものが捨てられている計算になります。*7


一方で、2000年度の980万トンと比べると、食品ロスは全体で約53%減っています。*6


減らす努力はちゃんと実を結んでいるものの、まだ「おにぎり1個分」は残っている、ということです。


作る人が減っている

15歳以上の世帯員のうち、自営農業を主な仕事としている人を「基幹的農業従事者」と呼びます。*8


その数は2000年の240万人から、2025年には103万6千人まで減りました。平均年齢は67.7歳です(図2)。*9

図2:基幹的農業従事者数と平均年齢
出所)農林水産省「令和7年度食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r7/r7_h/trend/part1/chap3/c3_2_00.html


食べる人は増えるのに、暑さで作物は育ちにくくなり、作る人は減っていきます。しかも、作った食べものの一部は捨てられています。こう並べてみると、なかなかハードな状況です。

もう始まっている「新しい食の選択肢」

そこで登場するのが、フードテックが生み出す新しい食べものたちです。ここでは3つ紹介します。


植物からつくる「お肉」

植物由来の原材料を使い、肉や魚に似せてつくった食品を「プラントベースフード」と呼びます。*3


筆者も以前、大豆からできたお肉を食べたことがあります。あまり違和感なく、すんなり食べられました。植物由来なので、食べていて罪悪感がないのもうれしいところです。


ただ、食べた当時は、価格がそれほど安いわけではありませんでした。ここはこれからの技術の発展に期待したいところです。


細胞から育てる「培養肉」

動物の細胞を体の外で培養してつくる食品は「細胞性食品」と呼ばれています。*3


よく耳にする「培養肉」は、動物の細胞を研究室や工場などで増やしてつくる食肉のことです。*10


牛を丸ごと育てるのではなく、細胞を育てるという発想には驚かされます。
昔見たSF映画の世界が現実のものになりつつあると感じます。


海のない場所で魚を育てる「陸上養殖」

陸上養殖は、陸地に海と同じような生育環境を整えた養殖場をつくって、海水魚などを育てる方法です。*11


2023年4月からは陸上養殖業の届出制度が始まり、2026年1月1日時点で808件です。*12


筆者は、陸上養殖のサーモンを食べたことがあります。正直に言うと、私の舌では天然物と養殖物の違いはわかりませんでした。


天然の魚は、どこで何を食べて育ったのかまではわかりません。その点、きちんと管理された環境で育った魚なら、なんとなく安心できる気がします。あくまで筆者個人の感覚ですが、育ちがわかることも陸上養殖の魅力のひとつかもしれません。

フードテックの主役は「工場」かもしれない

ここまで新しい食べものを見てきましたが、実はフードテックには、もうひとつの顔があります。食品をつくる工場の技術です。


国内の食品産業では、人口減少や高齢化による人手の確保難、原材料価格の高騰によって、生産活動に支障が出ています。そのため、AIやロボットなどで食品産業のスマート化を進め、生産性を上げる必要があるとされています。*3


食料品製造業の国内総生産は13.2兆円(2021年度)で、輸送用機械の13.5兆円と肩を並べる大きな産業です。一方で、従業員1人当たりの労働生産性は664万円(2021年度)で、製造業平均1,193万円の6割に届きません。*13


なぜ食品工場では人の手に頼る作業が多いのでしょうか。


理由のひとつは、食材の形がふぞろいで、柔らかかったり粘り気があったりして、ロボットにとって「つかみにくい」ことです。食品メーカーには中小企業が多く、ロボットを導入するコストの負担が大きいことも挙げられています。*13


ポテトサラダをロボットアームでつまむ場面を想像すると、たしかに難しそうです。


それでも、現場は少しずつ変わっています。東京のスタートアップ企業・コネクテッドロボティクスが開発した盛り付けロボット「Delibot(デリボット)」は、1時間に250食分の盛り付けをこなします。人の目安は300〜400食程度ですが、ロボットは疲れずに動き続けられるのが強みです。*13


食品スーパーのマックスバリュ東海は、長泉工場(静岡県長泉町)に2022年以降このロボットを4台導入し、ポテトサラダや白和えなど主力6品目の盛り付けを任せています。その結果、従業員4人をほかの工程に配置できました。


記事では、ロボットの性能を上げるだけでなく、トレイの規格をそろえるなど「ロボットが使いやすい環境」を使う側が整えることも普及の鍵になる、という考え方も紹介されています。*13


これがなかなかおもしろいところで、ものづくりの現場で働く人なら「わかるわ~」と頷けるのではないでしょうか。治具や段取りを工夫して機械に仕事をしやすくしてもらうのと、発想はよく似ています。


国も、食品製造業を含む人手不足の業種について、2029年度までの5年間で集中的に省力化投資を進める方針を示しています。*14


考えてみれば、盛り付けロボットのアームも、陸上養殖の水槽や水を循環させる設備も、培養肉を育てる装置も、突き詰めれば機械と部品のかたまりです。そしてその部品は、どこかの工場で金属を削ったり、形を整えたりしてつくられています。未来の一皿は、今日どこかの工場で削られた部品から始まっているのかもしれません。

2050年の食卓はどうなる?

もちろん、課題もあります。


食品は、その特性上テストマーケティングが難しいという事情があります。ルールの整備や安全性の評価、消費者に受け入れられるまでにも時間がかかります。日本のフードテック分野への投資額は、米国の約2%(2021年)にとどまっています。


また、食べた経験がない、または少ない食品について、アンケートで「あまり食べたいと思わない」と答える消費者も一定数いるそうです。*3


初めて見る食べものに少し身構えてしまうのは、自然な反応かもしれません。


2050年の食卓は、今の食べものがすべて置き換わるというより、「選択肢が増える」のだと筆者は考えています。今日はいつものお肉、明日は大豆ミート、週末は陸上養殖のサーモンというように、ランチの定食を選ぶ感覚で選べる日が来るのかもしれません。

その一皿をつくるのは、たぶん私たちの業界です

冒頭の2050年の社員食堂に戻ってみましょう。


A定食の陸上養殖サーモンも、B定食の大豆ミートの唐揚げも、そして後輩が迷っていた培養肉のハンバーグも、誰かが設備をつくり、機械を動かし、部品を削らなければ食卓には届きません。

フードテックは「食」の話であると同時に、ものづくりの話でもあります。次に社員食堂で定食を選ぶときは、その一皿の向こう側にある工場や機械のことを、少しだけ思い浮かべてみてください。



参照・引用を見る

*1
出所)内閣官房「日本成長戦略本部/日本成長戦略会議」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/index.html

*2
出所)農林水産省「フードテック推進ビジョン」P.3, P.4, P.6-7, P.8
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/attach/pdf/index-19.pdf

*3
出所)農林水産省「令和6年度食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/r6_h/trend/part1/chap2/c2_1_00.html

*4
出所)農林水産省「『令和6年地球温暖化影響調査レポート』の公表について」
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/kankyo/250926.html

*5
出所)農研機構「α-アミラーゼの抑制によって登熟期高温で発生する水稲の白未熟粒を低減できる」
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2012/112b0_01_08.html

*6
出所)消費者庁「2024(令和6)年度食品ロス量推計値の公表について」P.1
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_education_cms201_260630_02.pdf

*7
出所)消費者庁「食品ロスについて知る・学ぶ」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/education/

*8
出所)農林水産省「令和7年度食料・農業・農村白書」P.9
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r7/pdf/r7_yougo.pdf

*9
出所)農林水産省「令和7年度食料・農業・農村白書」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r7/r7_h/trend/part1/chap3/c3_2_00.html

*10
出所)産業技術総合研究所「培養肉とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20250827.html

*11
出所)水産庁「令和5年度水産白書」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r05_h/trend/1/t1_2_6.html

*12
出所)水産庁「陸上養殖業の届出について」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/taishitsu-kyoka.html

*13
出所)経済産業省 METI Journal ONLINE「ロボットが食品工場をお助け!人手不足解消と生産性向上を叶えてくれる」
https://journal.meti.go.jp/policy/202309/29547/

*14
出所)農林水産省「食品製造業等の生産性向上」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/soumu/seisansei.html

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。