
2026年11月 6日 09:00
誰もが働きやすい工場へ ものづくり現場で広がるユニバーサルデザイン
「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」を基本としたユニバーサルデザインでは、誰にとっても利用しやすい製品や環境を設計します。
すでに存在している障壁を取り除くバリアフリーとは異なり、ユニバーサルデザインでは、あらかじめより多くの人が使えるように設計するところが特徴です。
労働力の多様化が進む現代社会では、製造業の現場でも、誰もが安全に働ける環境を整えることが求められています。
たとえば、工場内の表示や案内、設備からの警告方法、情報伝達方法の工夫など、さまざまな取り組みがあります。
ものづくりの現場では、ユニバーサルデザインはどのくらい浸透しているのでしょうか。

ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインとは、「文化や言語の違い、年齢・性別・人種の違い、障害や能力の有無に関係なく、多様な人々が利用しやすいように、あらかじめ都市や生活環境をデザインする考え方」のことです。*1
このユニバーサルデザインの概念は、1980年代にアメリカの建築家ロン・メイス博士によって提唱されました。
車いすを使用していたメイス博士は、ある特定の人が抱える不便を解消するための工夫が、結果として多くの人にとっての使いやすさにつながることに着目しました。
たとえば、駅で車いすユーザーが移動しやすいようにエレベーターを設置することは、ベビーカーを利用する人や、トランクを持っている人、高齢者などにとっても移動しやすい環境づくりにつながります。
これに対して、バリアフリーでは、すでにある障壁を取り除くために、特定のニーズに応じた専用の設備や対応を設置します。
先ほどのケースでは、階段に車いす専用のリフトを設置する方法などが該当します。
このような個別対応は重要である一方、コストがかかったり、利用できる人や場面が限られる場合も考えられます。*2
メイス博士が提唱したユニバーサルデザインには7つの原則があります。
1. どのような人でも公平に利用できること
2. 使う上で柔軟性に富むこと
3. 簡単でわかりやすく利用できること
4. 必要な情報が簡単に理解できること
5. 危険や誤作動につながらないこと
6. 身体的な負担が少ないこと
7. 利用に適した大きさや空間になっていること
これらの原則では、年齢や能力などにかかわらず、できるだけ幅広い人が利用でき、それぞれの特性や好みに応じて使い方を選べることが重視されています。
また、使用方法や必要な情報がわかりやすく、誤操作による危険や身体的な負担が生じにくいことも重要です。*1

製造業でユニバーサルデザインが求められている理由
進む労働人材の多様化
近年少子高齢化による労働力不足を背景に、女性や高齢者、外国人、障害のある人など、さまざまな人材が働く機会が広がっています。
実際に人材の多様化はすでに進んでおり、2025年の民間企業における雇用障害者数は70.5万人、外国人労働者数は257万人であり、どちらも過去最多を更新しています。*3
また、女性や高齢者の就業者も増加しており、人口減少が進むなか、リーマンショック以降の労働力を支えているというデータもあります。*3
とくに日本では、国際的にみても高齢者の就業率が男女ともに高く、さらに就業意欲も高いという特徴があります(図1)。*3

図1:就業率の国際比較
出所)厚生労働省 労働経済の分析「労働市場改革分科会における議論について」p.14
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001691996.pdf
こうした状況を踏まえると、製造業の職場でも、多様な働き手が働きやすい環境づくりは重要な課題といえるでしょう。

人材の多様化とユニバーサルデザインの関係
人材の多様化によって、職場ではどのような配慮や取り組みが重要になってくるのでしょうか。
たとえば、近年増加している障害者雇用では、職場定着やキャリア形成のために、障害の特性や年齢に応じた配慮が重要であると考えられています。
そのため、障害者雇用を推進している企業では、労働時間や休憩時間への配慮、分かりやすいマニュアルの作成、職場のバリアフリー化など、個々の特性に応じたきめ細やかな取り組みが実施されています。
そして、こうした配慮は、障害のある人だけに役立つものではありません。
バリアフリーの職場やさまざまな障害のある人への配慮は、身体的に負担を感じやすい女性や高齢者、時間に制約のある介護・育児中の労働者、日本語に不慣れな外国人労働者にとっても働きやすい職場につながります。*4
また、少子高齢化が進むなか、高齢者にとって働きやすい職場づくりも求められています。
厚生労働省の「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」では、加齢による身体能力の変化を踏まえ、高齢者が安全・健康に働き、能力を発揮できる作業環境の整備を推進しています。
このマニュアルでは、聴覚・視覚面における負担軽減への配慮として、作業場や通路に適切な照明を設けて十分な明るさを確保したり、掲示物や作業手順書の視認性を高めたりするほか、警告音に視覚的なサインを併用するといった取り組みが紹介されています。*5
こうした取り組みは、特定の人が抱える不便や負担に対応するだけでなく、年齢や身体能力、経験、言語などの違いにかかわらず、できるだけ多くの人が働きやすい環境をあらかじめ整えておくという、ユニバーサルデザインの考え方にも通じるものです。

ものづくり現場におけるユニバーサルデザインの事例
職場全体で取り組むユニバーサルデザイン
オムロン太陽株式会社では、「働くことを希望する障がいのある人、ない人がその機能を最大限に発揮できる職場」をコンセプトに、「ユニバーサルものづくり(ゆにもの)」に取り組んでいます。
この取り組みでは、理解を助けるための手順書の動画化や、コミュニケーションを円滑化するための心身の状態の見える化などをおこなっています。
たとえば、コミュニケーションに困難を感じる人が体調不良を伝えやすくするために導入された「ニコニコボード」は、毎朝「好調」「普通」「不調」などのマークを貼って心身の状態を職場内で共有する取り組みです。*6
心身の状態を見える化できる「ニコニコボード」によって、周囲が体調の変化を把握しやすくなり、必要に応じて休暇取得を促すなど、早めの対応につなげることができます。
記録をデータベース化して個人ごとの傾向も把握できるようにした結果、ある製品ラインでは突発的な休みが前年度比で約23%減少しました。
心身の状態を見える化することで、障害の有無にかかわらず、メンバー同士のコミュニケーションの活性化につながった事例です。

多様性を推進する環境整備
横浜ゴム株式会社では、人材の多様化に対応し、誰もが安心して働ける環境づくりの一環として、工場内のアクセシビリティ向上に取り組んでいます。
たとえば、構内各所にエレベーターやスロープを設置し、敷地内の道路や通路には、通行区分を直感的に把握できるカラー舗装を採用しています。
また、構内全域に点字ブロックを敷設し、各種標識にもユニバーサルデザインを取り入れるなど、さまざまな人に情報が伝わりやすいよう工夫しています。*7
また、緊急時の安全確保にも配慮しており、光と音で知らせるブザー付きLED警報ライトや地震発生時の揺れを振動で伝える腕時計などを配備し、視覚や聴覚に障害がある人も緊急情報を受け取りやすくしています。
このように、設備などのハード面だけでなく、情報の伝え方などのソフト面の工夫を加えることで、一人ひとりの特性にかかわらず安全に働ける環境を整えています。*7

まとめ
誰もが使いやすいデザインを目指すユニバーサルデザインの考え方は、ものづくりの現場にも浸透しつつあります。
人材の多様化が進むなか、労働力を確保する観点からも、さまざまな人が働きやすい職場環境を整えることが重要になっています。
ユニバーサルデザインは、そのための一つの手段といえるでしょう。
今後、多様な人材が働きやすい製造現場をつくる考え方として、ユニバーサルデザインがさらに広がっていくことが期待されます。
*1
出所) 広島市「ユニバーサルデザイン」
https://www.city.hiroshima.lg.jp/living/fukushi-kaigo/1021241/1017831.html
*2
出所)関根千佳「1. ユニバーサルデザイン概論」映像情報メディア学会誌 Vol.60 p.989
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/60/7/60_7_989/_pdf
*3
出所)厚生労働省 労働経済の分析「労働市場改革分科会における議論について」p.13, p.14, p.15
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001691996.pdf
*4
出所)令和6年版 労働経済の分析「第2章 雇用情勢の動向」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/24/1-2.html
*5
出所)厚生労働省「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」p.14
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/0903-1a.pdf
*6
出所)オムロン太陽株式会社「ユニバーサルものづくり(ゆにもの)」
https://socialsolution.omron.com/taiyo/unimono/universal.html
*7
出所)横浜ゴム株式会社「多様性と機会均等」
https://www.y-yokohama.com/sustainability/people/employee/employee03/
石上 文
広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻修士号取得。二児の母。電機メーカーでのエネルギーシステム開発を経て、現在はエネルギーや環境問題、育児などをテーマにライターとして活動中。

